23.1 腎細胞癌(腎癌)
後天性腎嚢胞性疾患(ACDK)を有する透析患者には腎細胞癌が高頻度で発生する。透析患者における腎細胞癌の発生率は、男性では健常人の12〜18倍、女性では9〜15倍と報告されている[1]。腎細胞癌の自覚症状には肉眼的血尿と腹部腫瘤がある。しかし、実際には後天性腎嚢胞性疾患に腎細胞癌が合併しても初期には症状に乏しく、腎細胞癌の約80%の症例はスクリーニングで発見される。すなわち、腎細胞癌が肉眼的血尿の出現によって発見される頻度は大きくはない。
腎細胞癌の診断は、まず腹部超音波検査によるスクリーニング検査で腎細胞癌を疑い、CTやMRIにより確定診断を行う(図1)。図2に示すように、いずれの画像診断法においても、腫瘍のサイズが小さくなるにしたがって発見率が低下する。 後天性腎嚢胞性疾患に合併する腎細胞癌の中、嚢胞内に乳頭状に発育する腫瘍では腹部超音波検査による診断率が高い。しかし、嚢胞壁から乳頭状には発育しない小さな腫瘍では、嚢胞内出血、石灰化あるいは壁の肥厚との鑑別が難しい。嚢胞内出血、石灰化あるいは壁の肥厚と腎細胞癌との鑑別には、MRI検査が優れている。 腎細胞癌の診断が確定すると、唯一の根治的治療は腎摘出である。後天性腎嚢胞性疾患に合併した腎細胞癌では腎摘出後の5年生存率は60ないし70%である。 術後に、対側の後天性嚢胞腎に腎細胞癌の発生する頻度が高い。約1/4の症例に術後、対側発症が認められるとされている。しかし、予防的に両側腎の摘出を行うべきか否かという点に関しては、なお議論のあるところである。
文献 1. 石川 薫:腎不全外科2000, 血液透析患者における腎細胞癌の疫学. 腎と透析(別冊),48: 8-11, 2000.2. 高橋 寿、その他:腎不全外科2000, 慢性透析患者に合併する腎癌の診断と治療. 腎と透析(別冊), 48: 23-30, 2000. |