透析百科 [保管庫]

29.2 バイパス付き血液回路

1. バイパス付き血液回路の構造(図1)

バイパス付き血液回路と従来の血液回路との違いは、以下の2点のみである。

a. 血液ポンプと動脈針との間の血液回路部分に生食ラインが接続されている。

b. 血液ポンプをバイパスする回路がある。

 

 

2. バイパス付き血液回路を用いた血液透析

バイパス付き血液回路を用いた血液透析の手順を以下に述べる。

a. 専用の生食バッグ吊り下げ器に、プライミングを行った後に残しておいた300 mlあるいは500 mlの生食の入った1.5リットル入りの生食バッグを吊り下げる(バッグ内に300 mlを残す場合と500 mlを残す場合の区別については、「5. バイパス付き血液回路を用いた合理化モデル」の項で述べる)。透析が終了するまで生食ラインはクレンメあるいは鉗子でクランプしておく。

b. バイパス回路を鉗子でクランプする。このとき、バイパス回路の一箇所をクランプするだけだと、他の部位よりも低くなったクランプ箇所に向かって透析中に血液が徐々に流れ込んでくる。これが問題となることはないが、もし気になるなら、S字フックを用いてバイパス回路をクランプしている鉗子をより高い位置に吊り下げるか、バイパス回路と本回路との接合部に近い2箇所でバイパス回路をクランプする。

c. この状態で血液を体外循環させて血液透析を行う。

d. 透析中に血圧が低下した場合には、まず生食ラインのクレンメを開放する。次に血液ポンプが駆動した状態のままで生食ラインと血液回路との接合部よりも動脈針側の血液回路をクランプする。これらの操作により、生食バッグに残っている500 mlの生食のうち200 mlを補液する。もしさらに補液が必要になると予想される場合には、新しい500 ml入りの生食バッグを準備し、その後の補液にはこの500 ml入りの生食バッグを使用する。

以上の補液法はひとつの提案であり、したがって各透析施設の従来のやり方がこの方法に優先する。

 

 

3. バイパス付き血液回路を用いた返血(図2)

a. 血液ポンプを透析中と同じ速度で回転させつつ、バイパス回路をクランプしている鉗子を外す。これにより、血液は血液回路の血液ポンプ区画とバイパス回路との間を循環するようになる。血液ポンプは返血が終了するまで停止させない。血液ポンプを停止させると残血量が多くなる。

b. バイパス回路をクランプしていた鉗子で、生食ラインとの接合部よりも動脈針側の血液回路をクランプする。

次に、生食ラインのクレンメを外す。これにより、生食ラインを通して、接合部よりも血液ポンプ側の血液回路に生食が流れ出す。このとき、生食ラインと血液回路との接合部を軽く叩き、ここに形成された血栓を血液ポンプ側に流すようにする(図2B)。

c. 接合部に血栓が残っていないことを目視により確認したら、生食ラインとの接合部よりも動脈針側の血液回路をクランプしていた鉗子を外し、同じ鉗子で生食ラインとの接合部の血液ポンプ側の血液回路(生食ラインとの接合部を越えて反対側の血液回路)をクランプする。これにより、生食ラインを通して流れ込む生食(リンス液)が接合部から動脈針側に流れ、接合部よりも動脈針側の血液回路の返血が行われる(図2C)。

d. 接合部よりも動脈針側の血液回路の返血が終了したら、接合部よりも血液ポンプ側の血液回路をクランプしていた鉗子を外し、同じ鉗子で生食ラインとの接合部よりも動脈針側の血液回路をクランプする。

返血操作の開始からこの時点までの時間は15〜20秒である。これより後は、生食バッグが空になるまで生食ラインを通して生食が接合部からダイアライザー方向に流れ続け、接合部よりもダイアライザー側の動脈側血液回路、ダイアライザーおよび静脈側血液回路の返血が進行していく。バック内の300 mlの生食がすべて流出し、血液回路の血液がすべて体内に戻されると、返血は自動的に終了する(図2D)。

e. シャント内圧の高い患者にもバイパス付き血液回路を使用できるように、生食バッグを圧迫してバッグ内圧を上昇させる器具が開発されている。

 

 

4. バイパス付き血液回路の利点

a. 透析施設の合理化における有用性

逆濾過された透析液により自動的に透析終了後の返血が行われる場合を除いて、従来の返血法では返血の全行程にわたって透析スタッフがベッドサイドにいなければならない。これに対して、バイパス付き血液回路を用いる透析では、返血操作の最初のいくつかを行えば、その後の返血行程は自動的に進行していくので、透析スタッフはこれらの操作を行うのに必要な最初の15〜20秒間のみ、患者のベッドサイドにいれば、その後は他の患者のベッドサイドに移動することができる。

したがって、バイパス付き血液回路は透析施設の合理化に有用であると考えられる。

b. バイパス付き血液回路の使用コスト

バイパス付き血液回路はどの機種のコンソールにも使用でき、通常の血液回路と同価格であり、またバイパス付き血液回路の使用に関連して余分な費用が発生することがない。

 

 

5. バイパス付き血液回路を用いた合理化モデル

バイパス付き血液回路の製造メーカー(東レ・メディカル株式会社)は、バイパス付き血液回路の活用法をとくに示していない。そこで、以下に、透析施設の合理化に有用であると思われるバイパス付き血液回路の活用法を提案する。各透析施設がこの方法を改善して自施設に合う合理化の方法を確立することを期待する。

a. プライミング、補液およびリンスに使用する生食

1) プライミング時に1.5リットル(1500 ml)入りの生食バッグを生食ラインに接続する。このバッグ内の生食はプライミングだけでなく、透析中の補液および透析後のリンスにも使用する。

2) 日頃から透析中に血圧が安定している患者では、バッグに入った1500 mlの生食のうちの1200 mlをプライミングに使用し、300 mlはバッグ内に残しておいて透析終了時の返血に使用する。

3) 透析中にしばしば血圧が低下する患者では、バッグに入った1500 mlの生食のうちの1000 mlをプライミングに使用し、500 mlはバッグ内に残しておく。バッグ内に残しておいた500 ml のうちの200 mlは血圧低下時の補液に使い、残った300 mlは返血に使用する。もし透析中に補液をしなかった場合には、返血後にバッグ内に200 mlの生食が残ることになる。これは、返血終了後に排棄する。

4) 透析中に血圧が低下し、 500 ml のうちの200 ml以上を補液に使ってしまった場合には、返血に使用する生食が不足することになる。このような事態をさけるため、200 mlを超える分の補液は別の500 ml入りの生食バッグを使用して行う。

b. 返血操作

バイパス付き血液回路を用いて行う返血操作は、人手を要する短い行程(15〜20秒の行程)と、返血が自動的に進行していく、これに続く行程(約3分30秒の行程)に分離される。

5名の患者をひとグループとして、ひとりのスタッフがこれらの患者のこの人手を要する短い行程だけを次々に行い、それが終了したら同じスタッフが今度は同じ5名の患者の抜針・止血のみを次々と行うことにより、透析終了操作に要する時間を半分以下に短縮することができたとの報告がある[1,2]。例えば、従来の方法では5名の患者の透析終了操作に延べ28分10秒を要したが、バイパス付き血液回路を用いて行う返血操作では最初の患者の返血を開始してから最後の患者の抜針・止血を終えるまでに14分15秒しか要しなかったとのことである[1](この報告では、止血バンドを巻き終えたら止血が終了したものとしている)。

バイパス付き血液回路を用いた別の合理化のモデルは、より多くの患者、例えば10〜15名程度の患者をひとグループとして、これらの患者グループの人手を要する15〜20秒の短い行程とこれに続く約3分30秒の行程を、それぞれ別のスタッフが行うというものである。具体的には、ひとりのスタッフがこれらの患者の返血操作のうちの人手を要する短い行程だけを次々に行い、別のスタッフが血液回路の全返血行程が終了した患者の抜針・止血を順々に行っていくというものである。人手を要する短い返血行程を担当するスタッフが全患者の短い返血行程をすべて終了したら、そのスタッフはそれまでひとりで抜針・止血を担当していたスタッフと共に残りの患者の抜針・止血を行う。

 

 

 

文献

1. 青山かづみ, 他:透析終了スケジュールの工夫による終了操作時間の短縮の試み. 透析会誌. 38(総会特別号): 748, 2005.

2. 安藤知代乃, 他:透析終了操作時間を短縮する方法. 透析会誌. 38(総会特別号): 964, 2005.


Tweet
シェア
このエントリーをはてなブックマークに追加