透析百科 [保管庫]

29.1 逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液および返血装置

1. 逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置の開発の現状

逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置(コンソール)では、逆濾過された清浄化透析液をそれぞれプライミング液、補液、リンス液として用いて、透析開始前の血液回路およびダイアライザーのプライミング、透析低血圧に対する補液、さらに透析終了時の返血が自動的に行われる。

最近、JMS株式会社より、まもなく逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置を発売するとの発表があった。逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置には、様々な方式のものがあるが、今回JMS株式会社が発売するコンソールについてはまだ具体的な方式が不明である。そこで、ここでは、JMS株式会社の装置ではなく、以前に報告された方式の装置[1]について記載する。

 

 

2. 逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置の原理

a. 自動プライミング機能(図1)

透析前に、まず、すでにダイアライザーが接続されている血液回路を上記の装置にセットし、その後、血液回路の動脈側端と静脈側端とを接続してループを形成する。次に、ダイアライザーで総量1300 ml の透析液を130 ml/min程度の速度で10分をかけて逆濾過させ、さらに逆濾過されてくる透析液は血液ポンプにより血液回路ループを循環させる。ただし、静脈チャンバーの上部にはループ外に延びる排出ラインが接続されており、血液回路内の空気と血液回路の容積以上に逆濾過された余分な透析液がこの排出ラインを経てループ外に排出されるようになっている。

この機能を用いてプライミングを行った後、血液回路の動脈側端と静脈側端の接続を外す。これにより、血液回路は透析を始められる状態になる。

すなわち、この装置の自動プライミング機能では、血液回路を設置し、血液回路の動脈側端と静脈側端とを接続してループを形成し、その後、プライミングボタンを押すと、自動的に血液回路のプライミングが行われる。

 

b. 自動補液機能(図2)

上記の装置には、透析低血圧の発生時に簡便に補液が行えるように、100 ml補液ボタンと200 ml補液ボタンが設置されている。いずれかのボタンを押すとダイアライザーでは130 ml/minの速度でそれぞれの量の逆濾過が生じるようになっている。この装置では、逆濾過にともなって静脈側回路を流れる血流量が増大して静脈圧が異常に上昇することがないように、補液ボタンを押すと逆濾過と同時に血液ポンプの回転数が低下して血流量が50 ml/minになる。

このように、この装置では補液ボタンを押すだけで100 mlあるいは200 mlの補液が自動的に行われる。補液が終了すると、血液ポンプの回転数は自動的に補液前のレベルに戻り、通常の血液透析が再開される。

 

c. 自動返血機能(図3)

この装置では、返血ボタンを押すだけで血液透析終了時の返血操作が自動的に行われる。

すなわち、この装置では、130 ml/minの速度で逆濾過された透析液がダイアライザー内および動静脈側回路内の血液を体内に押し戻すことによって返血が行われる。具体的には、まず、血液透析中、透析終了予定時刻が来たところで返血ボタンを押す。これにより、ダイアライザーでは130 ml/minの速度で逆濾過が生じ、同時に血液ポンプは30 ml/minの速度で逆回転し始める。その結果、逆濾過された透析液によりダイアライザー内および動静脈回路内の血液が体内に押し戻される。この時、動脈回路を通じては30 ml/minの速度で返血が行われ、静脈回路を通じては100 ml/minの速度で返血が行われる。この状態が1分30秒続いた後、逆濾過速度は130 ml/minのままで血液ポンプの逆回転速度が30 ml/minから130 ml/minに増大し、かつ静脈回路がクランプされる。すなわち、動脈回路のみを通じて130 ml/minの速度で返血が行われる。この状態が40秒続いた後に、血液ポンプは停止し、返血操作は終了する。その後は、動脈針および静脈針を抜去し、止血を行えば血液透析終了操作は完了する。

なお、静脈回路がクランプされ、動脈回路のみを通じて130 ml/minの速度で返血が行われるとき、透析液の逆濾過速度と血液ポンプの逆回転速度が完全に一致していない場合にはダイアライザー内の圧が著しく上昇あるいは低下する可能性がある。このような危険を回避する適切な手段を講じなければならない。

 

 

3. 逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置の利点

この装置には、以下のような利点が考えられる。

a. ボトルあるいはバッグに入った市販の生理的食塩水の代わりに透析液を用いる。そのため、生理的食塩水の分だけ治療コストが低減する。

b. ボタンを押すだけで、透析前のプライミング、透析低血圧時の補液、透析終了時における返血がそれぞれ自動的に行われる。したがって、より行き届いた患者ケアを行う時間的余裕がスタッフに生じる。また、この装置を使用することにより透析施設の透析終了操作を合理化できると考えられる(バイパス付き血液回路を用いた合理化モデルを応用できる)。

 

 

4. 逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置の問題点

この装置には、以下のような問題が考えられる。

a. 清浄化された透析液が供給されていなければならない。したがって、透析液の清浄化のコストが加わる。

b. 返血時に動脈側チャンバーを血液が逆向きに流れる。この時、動脈チャンバーのメッシュに捕捉されていた血栓が体内に押し流されて行く可能性がある。

 

 

5. 逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置の治療コスト低減効果

平らは、430人の透析患者の治療を1ヶ月間、彼らの開発した自動プライミング・補液・返血装置を用いて行い、透析治療コストを調べた。それによると、彼らの施設では、この装置の使用により1ヶ月あたり約100万円の経費削減が可能であったとのことである[2]。ただし、この報告では透析液の清浄化のコストは考慮されていない。

 

 

6. 自動返血の際に動脈チャンバーのメッシュに捕捉されていた血栓が体内に押し流されて行くという問題を回避するための新しい動脈回路

逆濾過透析液を利用する自動プライミング・補液・返血装置では、返血時に動脈側チャンバーを血液が逆向きに流れる。この時、動脈チャンバーのメッシュに捕捉されていた血栓が体内に押し流されて行く可能性がある。JMS株式会社の装置では、この問題を回避するために動脈チャンバーそのものが省かれている。

動脈チャンバー以外の部位(主にダイアライザーのヘッダー部分)で血栓の形成される可能性を考慮して考案された血液回路に、逆濾過返血時まで血液に触れさせないチャンバーを動脈側回路上に設けるものがある。この血液回路では、図4に示すように、動脈回路の血液ポンプ区画(動脈回路の血液ポンプのローラーに押しつぶされる区画であり、その容積は約15 mlである)をバイパスする回路が設けられており、その途中には内部に血栓や血塊を除去するためのメッシュを含む通常の動脈チャンバーと同じ構造のチャンバー(バイパスチャンバー)が設けられている(バイパスチャンバーを含むバイパス回路の容積は約25 ml)。バイパスチャンバーから見て動脈側のバイパス回路も静脈側のバイパス回路もバイパスチャンバーの底面に接続されている。

この回路では、透析前のプライミング時にバイパスチャンバーを含むバイパス回路全体も主回路と同時にプライミング液で満たされる。そして、透析中にはバイパス回路と主血液回路との接合部付近でバイパス回路はクランプされている(図4:透析中)。

透析終了後の返血時には、まず除水が停止され、次いで血液ポンプが駆動したままでバイパス回路と主血液回路の接合部付近のバイパス回路のクランプが開放される。さらに、これと同時にダイアライザーの直上流(静脈側)がクランプされる。これらの操作の結果、動脈回路の血液ポンプ区画とバイパス回路との間で血液とプライミング液が混合しつつ循環する。そこで、バイパス回路と本回路との接合部に形成された血栓は、この部位を軽く叩くだけで流れ出し、最終的にバイパスチャンバーのメッシュで補足される(図4:返血操作初期)。このような状態でダイアライザーの直上流(静脈側)のクランプと同時にダイアライザーでは透析液の逆濾過が生じると、逆濾過した透析液に押されてダイアライザーとダイアライザーよりも静脈側の血液回路内の血液が体内に戻される(返血)。その後、透析液の逆濾過を行いつつダイアライザーの直上流(静脈側)のクランプを開放し、同時に静脈回路をクランプすると、逆濾過された透析液は、動脈側血液回路を逆行し、バイパス回路(バイパスチャンバーを含む)を経て血液を体内に押し戻す。この時、もしダイアライザーのヘッダー部分でも血栓が形成されるのであれば、そのような血栓は動脈側血液回路を逆行する逆濾過透析液に押し流され、やがてバイパスチャンバー内のメッシュに補足される(図4:返血操作初期)。

この回路を利用すると、逆濾過速度と血液ポンプの逆回転速度を一致させる必要もなくなるので、装置をより簡単にできる。

 

 

 

文献

1.     Shinzato T, et al: Hemodialysis machine with one-touch volume replacement and one-touch hemodialysis completion. J Artif Organs 4:183-187, 2001.

2. 平 ひとみ、他:オンライン全自動開始回収透析システムの有効性と問題点. 腎と透析(ハイパフォーマンスメンブレン `02)、53(別冊):21-25, 2002.


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