3.3 鉄欠乏性貧血の治療
1.鉄剤の投与法 鉄剤の投与法には、経口投与法と静脈内投与法がある。通常の患者に対しては経口投与が原則であるが、透析患者に対しては静脈内投与が一般的である。これは、透析患者では、体外への日々の鉄喪失量が多いこと、すでに多種類の経口薬剤を服用していることが多いこと、透析中に血液回路から簡単に鉄剤を投与できること、経口投与では胃腸障害が多いこと、などの理由による。 a.経口投与法 b.透析終了時1回静注法 2008年版日本透析医学会「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」[1]では、透析終了時に毎回、13回連続で静脈側の血液回路から上記のいずれかの鉄製剤を投与するか、あるいは週1回、3ヶ月間、同様の方法で上記のいずれかの鉄製剤を投与する方法が推奨されている。そして、鉄欠乏状態が解消されたか否か判断するために、最後の鉄製剤の投与から1週以上経った後に鉄飽和率と血清フェリチン値を測定する。もし、なお鉄欠乏状態にあると判断したら、同じ治療をさらに2週間行う。 透析患者において目標ヘモグロビン濃度を12g/dLとした場合、総不足 Hb鉄量は以下の式で算出できる。 総不足Hb鉄量=(12-鉄剤投与前の Hb濃度)/100×体重(kg) ×65×3.4 臨床的には、上記の式により算出された総不足 Hb鉄量に採血やダイアライザーへの残血に含まれるHb鉄量を加えた量を投与す る。なお、1年間に採血やダイアライザーへの残血により失われる鉄量はおおよそ 2000mg であり、これをひと月あたりに換算すると 167mg となる。そして、フェジン1Aには 40mg の鉄、ブルタール 1Aには 40mg の鉄、フェリコン 1Aには 50mg の鉄が含まれている。 c.透析中持続注入法 静脈内投与用の鉄製剤を透析中に4時間をかけて持続注入しても、あるいは透析終了時にワンショットで注入しても、鉄飽和率や血清フェリチン値の上昇の程度に差は認められない。しかし、鉄製剤の投与に伴う血清ヘプシジン値の上昇 度は、透析中の持続注入に比べて透析終了時のワンショット注入で有意に高い。 ヘプシジンは、肝細胞や網内系マクロファージに作用して、貯蔵されている鉄が末梢血へ供給されるのを阻止し、結果、貯蔵鉄の量は 増加する。したがって、鉄製剤の投与にともなう血清ヘプシジン値の上昇程度が少ない持続注入法では、ワンショット注入法におけるよりも鉄の蓄積が少ないと考えられる。過剰な貯蔵鉄が生体に有害な作用を及ぼすという報告[3-5]を考え合わせると、静脈内投与用の鉄製剤の持続注入法はワンショット注入法よりも優れているという結論が得られる。 前田らは、透析中の鉄剤持続注入を週2回、2週間行い、その後、鉄飽和率と血清フェリチン値を評価するように勧めている。そして、彼らは、この治療における鉄飽和率の目標値を 20%以上、血清フェリチンの目標値を 100ng/mL を超えないレベル、理想的には 60ng/mL 未満としている。
|
≪経口鉄剤≫ ■硫酸鉄 ■クエン酸第一鉄ナトリウム ■オロチン酸第一鉄 ■フマル酸第一鉄 ■スレオニン鉄
≪静脈内投与用鉄製剤≫ ■含糖酸化鉄
■コンドロイチン硫酸・鉄コロイド ■シデフェロン |
||||||
|
文献
1. 日本透析医学会:慢性血液透析患者における腎性貧血ガイドライン 2004年版
2. 前田貞亮、友杉直久:鉄剤補充の方法. 透析フロンディア 76: 14-20, 2007.
3. Klipstein-Grobusch K, et al.: Serum ferritin and risk of myocardial infarction in the elderly; Rotterdam Study. Am J Clin Nutr 69: 1231-1236, 1999.
4. Mezzano D, et al.: Inflammation, not hyperhomocysteinemia, is related to oxidative stress and hemostatic and endothelial dysfunction in uremia. Kidney Int 60: 1844-1850, 2001.
5. Feldman HI, et al,: Iron administration and clinical outcomes in hemodialysis patients. J Am Soc Nephrol 13: 734-744, 2002.