透析百科 [保管庫]

21.14  血清鉄(Fe)・総鉄結合能(TIBC)・フェリチン

1. 体内における鉄の分布

体内の鉄の 60〜70% は赤血球中にヘモグロビンを形成する鉄として存在し、25% は肝細胞や肝・脾の網内系マクロファージに貯蔵鉄(フェリチンやフェリチンの集合体であるヘモジデリン)として、そして 4% は筋肉内にミオグロビンとして存在する。末梢血中(血清中)でトランスフェリンと結合した形態で存在する、いわゆる血清鉄は体内の鉄の 0.1% にすぎず、さらに微量が末梢血中にフェリチン(血清フェリチン)として存在する。

 

 

2. 体内の各区画における鉄量を示す指標

a. 貯蔵鉄量の指標
血清フェリチン値は貯蔵鉄量とよく相関する[1]。例えば、血清フェリチン値の1 ng/mL の上昇は、貯蔵鉄量の8〜10 mg の増加を反映する。したがって、貯蔵鉄量の指標には血清フェリチン値を用いる。

 

b. 血清鉄量の指標
末梢血中の鉄量の指標には鉄飽和率(%;Fe/TIBC×100)を使用する。ここで、Fe は血清鉄濃度(μg/dL)、TIBCは単位血清中でトランスフェリンが結合することのできる鉄の最大量(μg/dL)を示している。

末梢血中の鉄量の指標に血清鉄濃度ではなく鉄飽和率を使用するのは、血清トランスフェリン濃度が栄養状態にも影響されるためである。鉄が末梢血中に存在するためには、これを結合して運搬するトランスフェリンが必要である。ところが、栄養状態が悪化すると、しばしばトランスフェリン合成が低下する。したがって、栄養状態の悪い患者では、鉄欠乏がないにもかかわらず、トランスフェリンの不足のために血清鉄濃度が低値を示すことがある。

このように、末梢血中の鉄量の指標には、血清鉄濃度をトランスフェリンの総鉄結合能で割った値(鉄飽和率)をトランスフェリン濃度で補正した血清鉄濃度とみなして使用する。ただし、鉄欠乏ではトランスフェリンの産生が亢進するので、鉄飽和率は必ずしも単純な補正血清鉄濃度とはならない。

 

c. 赤血球中の鉄量の指標
赤血球中で鉄はヘモグロビンを形成する要素のひとつとして存在する。したがって、赤血球中の鉄量の減少はヘモグロビン量の減少として現れる。そこで、ヘモグロビン濃度は赤血球中の鉄量の指標と考えることができる。

 

3. 鉄に関する諸パラメータの適正値の理解

a. 鉄欠乏
1)体内における鉄の動態
マクロファージや肝細胞に貯蔵されている鉄は、20〜25 mg/日の速度で末梢血中に供給され、末梢血中の鉄(血清鉄)は同じ速度で骨髄の赤芽球に取り込まれる。赤芽球に取り込まれた鉄はヘモグロビンの合成に利用され、赤芽球は赤血球に分化して末梢血中に遊出する。末梢血中に遊出した赤血球はやがて老化し、マクロファージに貧食される。マクロファージに貧食された赤血球中の鉄(ヘモグロビンを形成している)はフェリチンやヘモジデリンの形態で貯蔵される(図1)。

末梢血中の鉄の総量は3〜4 mg に過ぎない。これはマクロファージや肝細胞からの鉄の供給が減少すれば、末梢血中の鉄量(血清鉄量)は直ちに減少することを意味している。しかし実際には、このような事態が生じないように、マクロファージは安定して末梢血に鉄を供給している。したがって、体内の鉄量が減少していく過程で最初に減少するのは、網内系マクロファージや肝細胞に貯蔵されている鉄である。鉄欠乏に伴って貯蔵鉄が減少すると、やがて末梢血への鉄の供給速度が低下し、末梢血中の鉄量が減少する。そして、末梢血中の鉄量の減少が高度になると、これに伴って赤芽球への鉄の取り込みが減少し、ヘモグロビンの合成ができなくなり、貧血が出現する。いわゆる鉄欠乏性貧血である。

2)諸パラメータの適正値
鉄イオンはフリーラジカルの産生を促進して細胞を傷害する。すなわち、基本的に生体にとって鉄は有害物質である[2-4]。したがって、貯蔵鉄の量は多すぎてはならない。一方、赤芽球はヘモグロビン合成に必要な量の鉄を末梢血から取り込む。したがって、末梢血中の鉄量は少なすぎではならない。

この観点から、前田らは鉄に関する理想的なパラメータ値を鉄飽和率については 20% 以上、血清フェリチン値については 60 ng/mL 未満と提案した(理想的鉄欠乏)。さらに彼らは、鉄飽和率が20% 以上で血清フェリチン値が100 ng/mL 以上なら、これは鉄過剰の状態であるとした[5](図2)。

なお、従来のガイドライン[6]では、鉄欠乏とは鉄飽和率が20% 以下、血清フェリチン値が100 ng/mL 以下の状態であるとしている。この基準に従うと、鉄飽和率の適正値は 20% を越すレベルであり、血清フェリチン値の適正値は100 ng/mL を越すレベルということになる。

 

b. 急性・慢性炎症
急性・慢性炎症では、網内系マクロファージや肝細胞に十分な量の鉄が貯蔵されていても、網内系マクロファージや肝細胞から末梢血への鉄の供給が抑制されるため、末梢血中の鉄量(血清鉄濃度)が減少する。これに伴って赤芽球への鉄の取り込み量も減少するので、ヘモグロビンの合成が低下して貧血が生じる。この病態では鉄飽和率は低下しているものの、血清フェリチン値は低値を示さない。

このメカニズムによる末梢血への鉄供給の低下には、ヘプシジン-25(hepcidin-25)が関与していると考えられている。

なお、急性・慢性炎症ではトランスフェリンの産生が低下する。トランスフェリンは末梢血中で鉄を運搬し、また赤芽球が鉄を取り込む際に鉄の渡し役としても機能する。したがって、急性・慢性炎症ではトランスフェリンの産生低下も赤芽球の鉄の取り込みの減少に寄与している。

 

 

 

文献

1. Waters GO, et al.: Serum ferritin concentration and iron stores in normal subjects. J Clin Path 26: 770, 1973.

2. Klipstein-Grobusch K, et al.: Serum ferritin and risk of myocardial infarction in the elderly; Rotterdam Study. Am J Clin Nutr 69: 1231-1236, 1999.

3. Mezzano D, et al.: Inflammation, not hyperhomocysteinemia, is related to oxidative stress and hemostatic and endothelial dysfunction in uremia. Kidney Int 60: 1844-1850, 2001.

4. Feldman HI, et al,: Iron administration and clinical outcomes in hemodialysis patients. J Am Soc Nephrol 13: 734-744, 2002.

5. 前田貞亮、他:血液透析患者の鉄の至適指標は低フェリチン高TSAT. 日本透析医会雑誌 22: 242-249, 2007.

6. 日本透析医学会:慢性血液透析患者における腎性貧血ガイドライン 2004年版.