透析百科 [保管庫]

28.1 透析液清浄化の方法(1)

 (この項は熊本中央病院の福井博義先生と臨床工学技士の方々の執筆による。)

1. 透析液作製フローライン設計上の留意点
透析液作製フローラインの設計にあたり次の点に留意する。

a. 透析液作製場所(機械室)より患者監視装置までの距離を可能なかぎり短くする。
b. 屈曲部を可能なかぎり少なくする。
c. デッドスペースをなくする。
d. 配管の接続部における段差をなくする。
e. 配管には内表面の滑らかなものを使う。
f. 液の流れが停滞しなように工夫する。


2. 機械室(透析液混合室)内の空気の清浄化
透析液作製フローラインの大部分が存在する機械室には、空調設備と殺菌灯付空気清浄消臭装置(例:ハイビガー・WH-9400)を設置する。空調設備による1時間に数回の換気で、機械室内では空気中の埃(ほこり)と落下細菌が明らかに減少する。


3. 活水器
熊本中央病院では、透析液作製フローラインの最上流には活水器が設置されている。すなわち、機械室に入った水道水(原水)は、まず活水器を通過することになる。熊本中央病院で使用している活水器は、直径が約1ミリメートルのセラミックスボールが約300万個入っているカラムからなり、セラミックスボールを揺らし、跳ねさせながら流速を保ちつつ、原水がカラムの中を流れるようになっている。原水の流れによりセラミックスボールが揺れ、跳ねると、セラミックス表面には電荷が生じ、磁場が発生するとされている。そして、この磁場を通り抜けた原水は、いわゆる活性水となり、続いて通過する逆浸透装置(RO装置)の逆浸透膜表面(RO膜表面)を洗浄し、配管内のスケールを除去する能力を有するようになるとされている。なお、活水器の設置の必要性については、まだ科学的に証明されてはいない。

 

4. 軟水器、活性炭濾過器、カートリッジフィルタ
続いて、活性水は前処理装置としての軟水器、活性炭濾過器を通過し、さらに10ミクロンの細孔の開いているカートリッジフィルタを経て、逆浸透モジュール(ROモジュール)へ流入する。
軟水器では水道水(原水)中のカルシウムが吸着・除去され、活性炭濾過器ではその他の多くの種類の溶解物が吸着・除去される。ただし、活性炭濾過器内で原水が停滞すると、細菌の増殖、増殖した細菌からのエンドトキシンの放出が生じ、結果として、再び原水を流したとき、一時的にであれ、エンドトキシン濃度の上昇した水が流出することになる。

5. 逆浸透装置(RO装置)とリザーブタンク
逆浸透モジュール(ROモジュール)を通過した水(純粋あるいはRO水)は、RO装置内の容積が200リットルのタンクを経て、紫外線殺菌灯が設置された容積が800リットルのリザーブタンクへ移送される。通常、RO装置内タンクの純水量が十分なレベルに達すると、軟水器および活性炭濾過器内に原水を供給するための原水ポンプと、RO装置に未処理の水を供給するためのROポンプが停止し、逆にRO装置内タンクの純水量が減少すると再びこれらのポンプが稼動するようになっている。

しかし、RO装置内タンクの純水の量が減少したときに、直ちに原水ポンプとROポンプを稼動させてRO装置に原水を供給すると、それまで、活性炭濾過器内で停滞していた原水がRO装置に供給されることになる。すでに述べたように、活性炭濾過器内で停滞している原水には、細菌からエンドトキシンが放出される。したがって、それまで停止していたROポンプを再稼動させると、しばらくの間は、エンドトキシン濃度の上昇した原水がRO装置に供給されることになる。

このような問題は、RO装置内タンクとは別にリザーブタンクを設置することにより解決できる。すなわち、RO装置内タンクに蓄えられた純水の量が減少しても、ただちにROポンプを稼動させるのではなく、しばらくはリザーブタンク内に蓄えられた純水を使用し、その間に、原水ポンプ停止中に活性炭濾過器内で停滞していた原水をRO膜の前で十数秒間排水する。その後、ROポンプを再稼動させ、RO膜を通過してきた濾過液についても、伝導度が十分に低値を示すまで、さらに数十秒間排水する。そして、このような操作の後、初めてRO膜を通過した濾過液をRO装置内のタンクに蓄える。

このように、活性炭濾過器内で停滞していた原水はRO装置には供給しないようにすると、ROモジュールの寿命が延長する。

なお、ROモジュールより下流の透析液作製フローラインについては、別の項に述べる。


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