1.9 透析量プログラム
1. 透析量プログラム[1]
各透析の開始前にコンソール(監視装置)に目標とするKt/V値を入力すると、このKt/V 値が得られる透析条件が算出されるプログラムである。このプログラムは、尿素動態モデルのひとつである局所血流モデルを基に作成されている。現在、計画透析プログラムは、日機装株式会社製のコンソール(透析用監視装置 DCS-27、DCS-28、DCS-73)に搭載されている。
透析量プログラムが搭載されているコンソールでは、まず、月に1回、定期採血の日に、実測の透析前後BUN、その日の透析の透析時間、血流量、透析液流量、ダイアライザの特性である KoA、除水量をモニター画面に入力する。この操作により、体液量に諸パラメータの有する誤差の補正値が加味された「体液量+補正値」が算出される。この値は、1ヵ月後に再び新たな「体液量+補正値」が算出されるまで、コンソールに記憶されている。
それ以後の1ヶ月間は、透析ごとにコンソールのモニター画面に対して目標とするKt/V値、「体液量+補正値」と共に予定透析時間、血流量、透析液流量、ダイアライザの特性である KoA、除水量を入力する。これにより、モニター画面には透析後にこの Kt/V 値が得られる透析液流量が表示される。
2. 透析量プログラムの精度
延べ 60名の患者において目標 Kt/V 値と達成された Kt/V 値(実測の Kt/V 値)とを比較したところ、図に示すように、透析後には目標とした Kt/V 値(X)どおりの実測 Kt/V 値(Y)が得られていた(Y=1.008+0.003;r=0.973;n=60)。そして、目標 Kt/V 値(X)に対する実測 Kt/V 値(Y)の平均誤差(目標 Kt/V 値と実測 Kt/V 値との差の平均値)は 0.04 にすぎなかった。
なお、Kt/V 値は血流量、透析液流量、透析時間、ダイアライザの特性だけでなく、除水量の影響も受ける。そして、除水量は透析ごとに異なる。したがって、透析開始前に算出した目標とする Kt/V 値を実現する透析液流量は、たとえ目標とする Kt/V 値を変更しなかったとしても、その透析でしか有効ではないことに注意する必要がある。
3. 透析液の節約のための透析量プログラムの利用
透析量プログラムを使用して透析液流量を制御したところ、Kt/V 値は変化しなかったにもかかわらず、透析液の使用量が減少したと報告されている[2]。
透析時間、ダイアライザの特性(KoA)、除水量が一定であるなら、Kt/V は血流量と透析液流量で決まる。そこで、Kt/V が変化しないという条件の下で血流量を増やし、透析液流量を減らせば、Kt/V を維持したままで透析液の使用量を減らすことができる。この場合、リンの除去量は変化せず、β2-ミクログロブリン の除去量はわずかに増加すると報告されている[1]。
文献
1. 新里高弘、他:目標Kt/Vが得られる透析液流量の算出法. 日本透析医学会雑誌42: 921-929, 2009.
2. 村上辰和嘉:透析量プログラム臨床使用の有用性. 日本臨床工学技士会会誌 36:159-160, 2009.