1.10 透析スケジュール
1.間欠治療における透析頻度
もっとも理想的な血液透析は、24時間連日連続透析であろう。しかしこのような血液透析は、社会的、経済的にも、また技術的にも実現不能である。そこで、連続的という要素を諦め、間欠的としたのが現在の血液透析である。間欠的な血液透析を行おうとすれば、当然、血液透析を行っていない時間が存在し、その時間(血液透析が終了してから次の血液透析が始まるまでの時間)には尿毒症物質が体内に蓄積していく。そして、これが生体に悪影響を及ぼし、何らかの合併症を引き起こす 原因となるであろうことは容易に想像できる。例えば、体内への過剰な水の貯留は、心血管系に対して過大な負荷を与えることになるだろう。また、血清リン濃度の上昇は、異所性石灰化の原因となるだろう。そして、血液透析を行っていない連続時間が短かければ短いほど、この機序による合併症の発生は少なくなると考えられる。
a.間欠治療の種類
理想的には連続的であるべき透析治療を週あたり何回かに分散しておこなう場合には、いくつかの分散の仕方が考えられる。現在は、週あたり3回に分散して、週日は1日おきに、週末は日曜日を挟む2日
空きで血液透析を施行する治療スケジュール(仮に、これを通常透析と命名しておく)、あるいは週あたり 3.5 回に分散して、週末にも日曜日を挟む1日空きで血液透析を施行する治療スケジュール(隔日透析)、週日は連日透析を行い、日曜日のみ治療を休む治療スケジュール(頻回透析)がある。当然のことながら、血液透析を行っていない連続時間は、週
6 回連日で血液透析を行う頻回透析で最も短く、隔日透析がこれに次ぐ。とくに週末においては、頻回透析でも隔日透析でも、血液透析を行っていない連続時間が約 2日間であるため、体内に貯留する水分量の最大値は等しいという点では、両治療スケジュールは同等である。これに対し、週あたり 3回に分散して血液透析を行う透析治療スケジュールでは、週末における血液透析を行っていない連続時間は約 3日間となり、とくに週末における体内への過剰な水の貯留による心血管系への負荷や血清
リン濃度の上昇にともなう異所性石灰化の促進圧力は強いと想像される。
b.透析頻度と合併症
頻回透析では、透析間における体内への過剰な水の貯留による心血管系への負荷が少ないことから、心血管系の合併症が少ないと予想される。
最近、北米で行われた前向き研究において、頻回透析により左室重量が減少し身体活動が向上し、高リン血症の管理や高血圧の管理が改善する事が示された。すなわち、施設透析をしている 245 名を無作為に
2 群に分け、一方の群に通常スケジュールの血液透析(週平均 3回、1回 3.5 時間)を施行し、他方の群には頻回短時間透析(週 6 回、1回 2.5 時間)を施行した所、通常スケジュール群では12ヶ月間の死亡数は 9 名であり、これに対して頻回透析群では死亡数が
5 名であった。また、頻回透析群では通常スケジユール群に比べて、左室容積が増加するリスクは 0.61倍であり、収縮期血圧は 10mmHg
低く、降圧剤の投与量も少なかった。さらに、頻回透析群ではエリスロポエチン製剤の使用量が減少した[1]。また、メタアナリシスにおいても、頻回透析により、高血圧の是正、心室肥大の比率の減少、エリスロポエチンの使用量の減少、リン吸着剤の必要量の減少が認められた[2]。
さらに、わが国では、臼井らが、週 3 回透析を週末に2日空きの日をつくらない隔日透析に変更したところ、EFは維持あるいは増大し、BNPは低下したと報告している[3]。
なお、頻回透析では透析間の時間が短いゆえに、週3回透析ほどには透析間における尿毒症物質の蓄積を気にする必要がない。したがって、頻回透析では飲水や食事摂取の制限を緩和でき、これ
は栄養状態を改善すると考えられる。
c.透析頻度と透析時間
原則的に、透析中には、その血液透析の直前の透析間に体内に蓄積した水および尿毒症物質を除去しなければならない。このとき、頻回透析では、透析間の時間が短いので1回透析で除去しなければならない水や尿毒症物質の量は少なく、一方、週 3 回の通常スケジュールの血液透析では、透析間の時間がより長いので1回透析で除去しなければならない水や尿毒症物質の量も多くなる。したがって、頻回透析では、透析時間を短縮しても水や尿毒症物質は緩徐に除去されるのに対し、通常スケジュールの血液透析では頻回透析よりも透析時間が長いにもかかわらず、水や尿毒症物質
の除去は急速になる。そして、この急激な水や尿毒症物質の除去が何らかの合併症の原因となる可能性もある。また、通常スケジュールの血液透析では、しばしば直前の透析間に体内に蓄積した水および尿毒症物質を十分に除去することができず、結果として透析不足の状態となる可能性もある。週 3 回透析
における透析時間はどの程度が適当であるのか明らかではないが、少なくても現在一般的に行われている4時間の透析時間が短すぎることは確かなようである。
d.透析時間と合併症
長時間透析では、緩徐に水や尿毒症物質を除去するため、透析中に血圧低下が生じることが少なく、十分な量の尿毒症物質を緩徐に除去することが可能と考えられる。したがって、長時間透析では、尿毒症物質の不十分な除去に伴う合併症が予防できると想像される。
長時間透析の有効性に関して、1992年に Charra
らは、週 3 回、1回 8 時間の長時間透析を実施したところ、高血圧が是正され、エリスロポエチン製剤の使用量が減少し、死亡率は低下したと報告した[4]。また、柴田らは、週 3 回、1回 6〜8 時間の深夜透析においては、高血圧の是正と貧血の改善が認められたと報告し[5]、前田らは週 3 回、1回 6 時間の血液透析で貧血が改善したと報告している[6]。
2.透析頻度と透析時間の適正な組み合わせ
a.頻回透析と長時間透析の現状
現時点では、社会経済的な要因もあって、頻回透析は短時間透析と組み合わせて施行され、長時間透析は週3回の透析スケジュールと組み合わせて施行されている。すなわち、週3回透析あるいは隔日透析なら
透析時間は 6時間以上(長時間透析)、連日透析なら
2〜2.5 時間(短時間頻回透析)とすることが多いようである。
b.ヘモダイアリシスプロダクト(HDP)
本来、連続透析に近い、頻回短時間透析が理想であると考えるが、社会的な事情や患者個人の事情で、これが不可能なことが多い。そうであれば、これに代わる週3回の長時間透析が望まれる。このような背景の下、Scribner
らは、透析頻度と透析時間との組み合わせ方はひとつの透析条件であるとの立場に立って、血液透析の適正さを表わす指標としてヘモダイアリシスプロダクト(HDP)を考案した[7]。すなわち、彼らはこれまでに報告された様々な透析時間と透析頻度
との組み合わせの下での患者の臨床症状を整理し、「1回の血液透析の治療時間(hr)
× (1週間あたりの透析回数)2」がおおよそ 70 以上の患者では、臨床症状が良好であることを発見し、これを HDP
と命名した。
HDP
に基づくと、2時間週6回の短時間頻回透析(HDP=72)、8時間週3回の長時間透析(HDP=72)および6時間の隔日透析(HDP=73.5)はそれぞれ等価ということになる。なお、この指標を日本における平均的な血液透析(週
3 回、1回 4 時間)に当てはめると、日本の透析治療のHDP は 36 に過ぎない。
しかし、もし頻回透析の主な利点が安定した治療と非透析時間の短縮にあり、長時間透析の利点が安定した治療と大透析量にあるとすれば、果たして両者を等価変換することは可能であるのかどうか、いくらかの疑問
が残る。すなわち、頻回透析と長時間透析の利点は、それぞれ異なるものではないだろうか。
文献
1. Chertow GM, et al: In-center hemodialysis six times per week versus three times per week. N. Engl. J. Med. 363: 2287-2300, 2010.
2. Puñal J, et al: Clinical effectiveness and quality of life of conventional haemodialysis versus short daily haemodialysis: a systematic review. Nephrol Dial Transpl 23: 2634-2646, 2008.
3. 臼井壮一、他:隔日透析. Clinical Engineering 22: 789-793, 2011.
4. Charra B, et al: Survival as an index of adequacy of dialysis. Kidney Int 41: 1286–1291, 1992.
5. 柴田 猛、他:深夜透析. Clinical Engineering 22: 783-788, 2011.
6. 前田兼徳:長時間透析. Clinical Engineering 22: 773-782, 2011.