1.6 透析時間
1. 透析時間と透析量
至適透析の指標としての透析時間の位置づけには様々な議論がある。患者の体液量 (V) が一定であるなら、Kt/V は、透析中の尿素クリアランス(K)と透析時間(t)の積 (K×t) のみによって決定され、尿素クリアランスと透析時間のそれぞれがどのような値であるのかは問題とはならない。実際、透析時間を短縮しても (すなわち短時間透析を実施しても)、Kt/V がある一定の値を維持していれば生命予後は悪化しないことを示す報告もあり、これは透析時間が独立した至適透析の指標ではないことを示していると言えるだろう。透析時間を治療への拘束時間ととらえるなら、透析時間を短くすることは患者の拘束を軽減することであり、これは好ましいことである。
しかし、短い透析時間では、同じ除水量でも単位時間あたりの除水率は大きくなり、心循環器系への影響が大きくなることは容易に想像できる。また、単位時間あたりの溶質除去率も高くなるので、不均衡症候群などの透析合併症も発生しやすい。逆に、長い透析時間では、拘束時間が長くなる代わりに、これらの問題は起こりにくいと予想される。実際に、長時間透析を実施することによって、患者の血圧管理が容易となり、ひいてはその生命予後が極めて良好となったことを報告している研究者もいる[1,2]。これは、透析時間が独立した予後指標である可能性を示唆している。
2. 透析時間と死亡のリスク
透析時間は Kt/V を構成する一因子であるため、透析時間と Kt/V との間には強い相関がある。従って、たとえ透析時間の長い患者の生命予後が、それの短い患者より優れているとしても、それが長い透析時間そのものによって生じたのか、それとも長い透析時間に必然的に伴う大きな Kt/V によって生じたのかを弁別することは実際には困難である。
1997年度の日本透析医学会統計調査委員会の報告では、透析時間と Kt/V のそれぞれの影響を多変量解析を用いて数学的に弁別している。これによると、Kt/V の与える影響を補正した後でさえも、透析時間と生命予後との間には明確な関係が認められた[3]。これは、透析時間が、Kt/V とは独立した至適透析の指標であることを強く示唆している。
すなわち、たとえ Kt/V で補正したとしても、透析時間が5時間に達するまでは透析時間が長くなるにしたがって死亡のリスクは低下していく。したがって、理想的には透析時間は5時間以上が望ましいと考えられる。また、4時間未満では死亡率が著しく増加するので、少なくとも4時間の透析時間は確保すべきである。
文献
1. Laurent G, Calemard E, Charra B: Long dialysis: a review of fifteen years experience in one centre 1968-1983. Proc EDTA 20: 122-129, 1983.
2. Charra B, Calemard E, Ruffet M, et al.: Survival as an index of adequacy of dialysis. Kidney Int 41: 1286-1291, 1992.
3. 日本透析医学会統計調査委員会: わが国の慢性透析療法の現況 (1997年12月31日現在). pp.380-382, 日本透析医学会, 1998.