透析百科 [保管庫]

25.5 体内への空気混入の治療

1. 空気混入量と患者の予後

65〜125 mlの空気が誤入すると、症状がでると報告されている[1]。誤入する空気の量がこれより少なくても、それが急速であると死亡する可能性がある。

 

2. 空気混入の症状
空気混入の症状は、誤入した際の体位により異なる。

 a. 患者が座位であったとき(チェアーを使っていた場合など)の空気混入
上肢のシャント血管に入った空気の塊(気泡)は、シャント血管から鎖骨下静脈を通って中心静脈に入り、次いで右心房に流入する。しかし、一部の空気は鎖骨下静脈から頸静脈を経て脳静脈へと、より高い位置にある静脈系に移行していく。その結果、脳静脈還流が障害されて脳圧が亢進する。

 b. 患者が臥位であったときの空気混入
上肢のシャント血管に入った空気の塊(気泡)は、シャント血管から鎖骨下静脈を通って中心静脈に入り、次いで右心房を経て右心室に入る。右心室に滞留した空気塊は、心室の拡張と収縮にともなって伸縮を繰り返す。その結果、右心室の拍出量が減少する。さらに、空気の一部は、血流に乗って肺動脈に入り、肺の多数の細い動脈が小さな空気塊で閉塞され、肺動脈圧は上昇する。これにより、肺動脈と肺静脈との間にバイパスが開くため、空気のいくらかは肺を通過し、左心房を経て左心室に入り、全身循環に流出していく。

このような症例では、不整脈、血圧低下(ショック)、呼吸困難、咳嗽、胸痛、チアノーゼ、神経症状などが出現する。

 

3. 空気混入の治療
空気混入の事実が判明したら、すばやく一連の処置を行う。

 a. 静脈回路の閉鎖
それ以上の空気の流入を防ぐ。

 b. 体位の変更
胸部と頭部が低く、腰と下肢が高い、かつ左側が下の側臥位を取らせる。
これにより、流入した空気を右心房の先端に取り込み、空気が肺動脈に移行しないようにする。不用意に身体を動かすと、ショックを引き起こして死亡することがある。

 c. 酸素吸入
治療のひとつは、右心房、右心室に滞留している空気が血漿に溶けていくのを待つことである。しかし、空気の成分のほとんどが水に溶けにくい窒素なので、右心房、右心室の血管内に流入した空気はなかなか血漿に溶けていかない。流入した空気が血漿に溶けるのを加速するために酸素マスクで100%酸素を吸わせる。場合によっては、気管内挿管をして100%酸素を吸わせる。すなわち、100%酸素を吸わせることで、窒素の吸入量を減らし、結果として血漿に溶解している窒素量を減らす。これにより気泡を形成している窒素が血漿に溶解していくのが加速されるのを期待する。しかし、実際には、それでもなお、窒素が血漿に溶ける速度は非常に遅い。また、肺の線維化を防ぐため、この治療は数時間しか行えない。したがって、実質的には100%酸素の吸入は、後に述べる高圧酸素治療法を行うまでの繋ぎでしかない。

 d. 右心室に滞留している空気の注射器による吸引
誤入した空気の右心室への滞留が明らかなら、右心室を直接、注射器で経皮的に穿刺して、滞留している気泡を吸引することもある。しかし、この手段の有効性は限られているとの報告もある[2]。
なお、誤入した空気が右心室に滞留している状態で心臓マッサージを行うと、この空気が肺動脈に移行する可能性が大きい。しかし、実際に心停止を生じたら、心臓マッサージを行わざるをえない。

 e. 高圧酸素治療
重症例では可能なかぎり早く、高圧酸素治療法を行う(6時間以内)。高圧酸素治療法の目的は以下の2つである。
(1)血漿に溶け込む酸素の量(ヘモグロビンに結合する酸素の量ではない)が増えるので、気泡による肺の細動脈の閉塞による虚血部位へ、より多くの酸素が届けられるようになる。
(2)大気圧の上昇とともに体内のすべての部位の圧が高くなるので、気泡が圧縮・縮小され、したがって虚血部位の面積が少なくなる。

 

 

 

文献

1.      Weseley AS.: Air embolism during hemodialysis. Dial Transplant 2: 14, 1972.

2.      Bedford RF, et al.: Cardiac catheters for diagnosis and treatment of venous air embolism: A prospective study in man. J Neurosurg 55:610, 1981.