透析百科 [保管庫]

25.1 地震

1. 地震への備え

地震が起こっても物が落下しないような工夫をする。例えば、テレビは天井から吊り下げたり、壁に取り付けるのではなく薄型を床に置き、また自動血圧計はカウンターへ固定するか、あるいは落下しても問題とならないようにカウンターを低くする。さらに、輸液ポンプはコンソールに固定すると地震の際にも落下しない。

ベッド、コンソール、供給装置などのキャスターが付いている物はかなりの重量であっても、強い地震の際には床の上を激しく動き、衝突して倒れる。そこで、ベッドには必ずストッパーをかけ、コンソール・供給装置にはキャスターガードを付けるのが望ましい。コンソールをベッドに固定しておくとより安全であるとの意見もある。

2. 指揮系統

地震発生時には、指揮系統の存在、速やかな状況の把握と情報の伝達が重要である。地震発生時に予め決められたリーダーにすべての情報が集まり、リーダーはこれらの情報を整理・分析して、全員に適切に指示ができるように、万一の場合の指揮系統とスタッフ用の行動指針を作っておく。

3. 行動指針

行動指針では、スタッフに?ベッドサイドモニターからの患者の離脱、?外傷を受けた患者と状態の急変した患者の処置、?避難ルートの確保、?患者の避難・誘導、?火災などの二次災害の防止、?施設周辺の被災程度と範囲の把握、?通信などの施設外との連絡手段に関する調査などの役割を割り振る。

震災時に冷静さを保ってそれぞれの役割を臨機応変に果たせるように、行動指針に沿って訓練を繰り返す。

a. 地震の規模が小さな場合の行動指針

ベッドサイドモニターがカタカタと揺れるが、歩くことはできるようであれば、震度3以下の地震であると判断する。このような場合には、ベッドサイドモニターを始めとする透析関連装置が故障するとは考えにくい。地震が透析中に発生した場合には、看護師は揺れが収まった後、速やかに患者に状況を説明して安心させ、臨床工学技士は、水処理装置や透析液供給装置の配管からの水漏れ、ベッドサイドモニターなど各装置のコンセントの緩みなどを点検する。血液透析は注意深く継続する。

b. 地震の規模が大きな場合の行動指針

揺れが激しく、歩いたり、立っていることができないようであれば、震度4以上の地震であると判断する。震度4以上の地震では、水道や電気の供給が途絶えることが多く、また透析関連装置が重大な損傷を被る可能性が高い。

透析中に地震が起こっても、スタッフはすぐには行動できないと思われる。地震が収まった後、リーダーは直ちに施設の状況を把握し、原則として透析を中断する。それぞれのスタッフは、透析継続か中止かのリーダーの指示にしたがって、予め決められている行動指針に沿い、しかし臨機応変に速やかに行動を開始する。

リーダーが施設の被災程度は軽く、時間的に余裕があると判断した場合には、それが停電が生じているような状況下なら、透析装置に内蔵されているバッテリーを利用して返血し、もしバッテリーが内蔵されていなければ手動で血液ポンプを回して返血、透析を終了する。一方、リーダーが施設の被災程度が重いと判断したら、直ちに血液ポンプを止め、除水を停止し、穿刺針より55 cm程度離れた位置で動脈側血液回路と静脈側血液回路をそれぞれ2本の鉗子でクランプし、2本の鉗子の間で両回路を切断して患者を透析装置から切り離す。その後、鉗子を図に示すように患者に持たせた上で、患者の避難を誘導する。抜針は、患者を安全な場所に避難させ、落ち着いてから行う。

ベッドサイドモニターからの患者の離脱と並行して、外傷を受けた患者と状態の急変した患者の処置を行う。



4. 他施設への患者の搬送

地震発生直後の緊急対応がすんだら、被災に対する本格的な対応を考える。

まず、施設の被災の程度が重く、あるいは断水や停電が続いているようなら、患者を通常透析が可能な施設へ搬送すべく、その手段を模索する。患者には、日頃から準備・更新しておいた透析情報シート(患者の住所、電話番号、透析療法に関連する情報などを記載)を持参させる。搬送は、陸路、空路(ヘリコプター)、海上搬送などが考えられるが、いずれも外部との連絡がとれなければ困難である。非常電話、パソコン通信、防災無線などにより外部に被災地の情報を発信するように努力する(一般電話、携帯電話は不通のことが多い)。実際に患者の搬送が可能になるまでには24〜48時間もかかる可能性が高いこと、他の被災重症外傷患者の搬送が透析患者の搬送よりも優先される可能性が高いことを念頭において、可能なかぎり施設機能の自立機能回復に努める。

患者を通常透析が可能な施設へ搬送できない状況であれば、溢水が著しい患者に対してはECUMを施行し、緊急血液浄化が必要と思われる患者に対しては血液濾過(HF)を行う。高カリウム血症に対してはポリスチレンスルホン酸カルシウムやポリスチレンスルホン酸ナトリウムなどのカリウム交換樹脂を投与する。

 

ポリスチレンスルホン酸カルシウム
 カリメート
  (日研化学)
 カリエード
  (東洋製化)
 カリセラム
 ポスカール
 ミタピラリン

ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
 アーガメイト
  (三和化学)
 ケイキサレート
  (鳥居)
 カリセラム-Na


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