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26.4  個々の患者の至適透析条件

ある任意の患者のある任意のパラメータの値が至適であるか否かを判断しようとする場合、我々は、しばしばそのパラメータ値をロジステイック回帰分析法により決定した「そのパラメータと死亡のリスクとの関係」に照らし合わせる。しかし、その患者のそのパラメータ以外のパラメータのいずれかが、「そのパラメータと死亡のリスクとの関係」を決定する際に基準とした患者群(対照群)における平均値から大きく外れているなら、この方法は適切ではない。これをKt/Vを例にとって、さらに詳しく説明する。例えばKt/Vと死亡のリスクとの関係を求める際には、常にKt/V以外のパラメータの値は「基準とした患者群」における平均値に等しいという前提が設定される。しかし、実際にはこのようなことはありえない。したがって、Kt/V以外のパラメータのうちのどれかが、基準とした患者群における平均値と大きく異なる場合には、ロジスティック回帰分析法により算出された「Kt/Vと死亡のリスク」を基に至適Kt/V値を決定するのは危険である。

そこで、患者ごとに「死亡のリスクを最小にするKt/V値」を求め、これをそれぞれの患者における至適Kt/V値とするのが理想である。任意の患者の「死亡のリスクを最小にするKt/V値」を求めるには、まずKt/Vを含む様々なパラメータの実測値をロジスティック回帰式に代入してロジット値を求める。次に、Kt/V以外のすべてのパラメータ値は実測値のままで、ただしKt/Vについては、低値から高値まで少しずつ異なる値をロジスティック回帰式に代入し、それぞれKt/V値におけるロジット値を求める。そのうえで、様々なKt/V値の下でのロジット値を用いて、Kt/V値と死亡のリスクとの関係を求め、この関係を基に死亡のリスクを最小にするKt/V値を決定し、これを至適Kt/V値とする。

 

図1に示す患者では、実測のKt/V値が1.05であったのに対し、死亡の相対危険度を最小にする至適Kt/V値は0.90であった。

「死亡のリスクを最小にするnPCR値」も同様な方法で求める。

 

図1:Kt/Veと死亡のリスクとの関係

 

 

 

図2に示す患者では、実測のnPCR値が0.90 g/kg/dayであったのに対し、死亡の相対危険度を最小にする至適nPCR値は0.80 g/kg/dayであった。

 

しかし、実際には、医療スタッフの努力で患者ごとに「死亡のリスクを最小にするKt/V値やnPCR値」を決定するのは不可能である。透析百科の姉妹編である透析ナビゲータの最新版では、サーバー上で「死亡のリスクを最小にするKt/V値やnPCR値」を算出し、各患者の実測のKt/V値やnPCR値をこのようにして算出した「死亡のリスクを最小にするKt/V値やnPCR値」に照らし合わせることにより、実測のKt/V値やnPCR値が至適であるのか否か判断している。

図2:nPCRと死亡のリスクとの関係



なお、様々なパラメータ値から極めて大雑把な至適equilibrated Kt/V値あるいは極めて大雑把な至適nPCRを求める方法を別のページに紹介する。