30.3 尿中生化学検査による保存期腎不全患者の栄養評価
1. 蛋白摂取の推定
蛋白異化率(nPCR)は蛋白摂取量にほぼ等しいことが知られている。そこで、以下のMaroniの式(1)を用いて単位理想体重あたりの24hr尿中尿素窒素排泄量から蛋白異化率を求め、これを基に保存期腎不全患者の蛋白摂取量を推定する。ただし、単位理想体重あたりの24hr尿中尿素窒素排泄量は、24hr尿中尿素窒素排泄量を式(2)により求めた理想体重で割ることにより算出する。
nPCR (g/kg/day) = 6.25[ 単位理想体重あたりの24hr尿中尿素窒素排泄量(g/kg/day)+ 0.031] |
(1) |
理想体重(kg) = 22 × 身長(m)2 |
(2) |
2. 筋肉量の推定 クレアチニン産生速度(GCr)は筋肉量を反映する。そこで、式(3)を用いて、まず単位理想体重あたりの24hr尿中クレアチニン排泄量からクレアチニン産生速度を推定する。ただし、Crはクレアチニンを示すものとする。
|
|
CGr(mg/kg/day) = 単位理想体重あたりの24hr尿中Cr排泄量(mg/kg/day) | |
−食事によるCr摂取量(mg/kg/day)+腸管におけるCr分解量(mg/kg/day) |
(3) |
健常人に肉・魚を含む食事とこれらを含まない食事を交互に摂取させた実験により、食事において摂取されるクレアチニンは摂取される肉や魚に由来し、かつ肉・魚には蛋白質1gに対して3.15 mgのクレアチニンが含まれていることがわかった。 そこで、評価しようとしている患者は低蛋白食療法の開始前には1g/kg/dayの蛋白質を摂取していたものとして、式(3)に以下のいずれかのクレアチニン摂取量を代入してクレアチニン産生速度を算出する。ただし、通常、低蛋白食療法をおこなっている患者は有意な量の肉・魚を摂取することはない。したがって、食事によるクレアチニン摂取量をゼロとしても大きな誤りはない。 |
|
また、腸管におけるクレアチニン・クリアランスは、血清クレアチニン濃度が6 mg/dl以上では40 ml/kg/dayと一定、2 mg/dl未満では0 ml/kg/day[3]、そして血清クレアチニン濃度が2 mg/dl以上、かつ6 mg/dl未満では血清クレアチニン濃度に比例すると仮定して以下の式が導き出された。 ・血清Cr濃度≦2
mg/dl の時、 さて、通常、筋肉量は性別、年齢によって異なる。そこで、保存期腎不全患者の栄養状態を評価するにあたっては、クレアチニン産生速度そのものを用いるのではなく、評価しようとする保存期腎不全患者のクレアチニン産生速度(CGR)を同姓・同年齢の非糖尿病、かつ無尿の維持透析患者における平均クレアチニン産生速度(meanCGRHD)で割ることにより求めた%クレアチニン産生速度(%CGR)を用いる。
|
|
%CGR = CGR/meanCGRHD×100 | (4) |
ここで、 非糖尿病、無尿の維持透析患者における平均クレアチニン産生速度(CGRHD; mg/kg/day)は 以下の式を用いて算出する。[3] |
|
男性:meanCGRHD(mg/kg/day)=23.530−0.147 y | (5a) |
女性:meanCGRHD(mg/kg/day)=19.580−0.117 y | (5b) |
ただし、上記の式(5)で、y(歳)は年齢を示すものとする。 | |
3. 塩分摂取量の推定 24hr尿中塩分(NaCl)排泄量に汗への塩分排泄量を加えたものは、1日塩分摂取量に等しいものとして塩分摂取量を推定する。ただし、発汗量も汗の中の塩分濃度も様々なので、発汗に伴う塩分喪失量を正確に計算することはできない。そこで、発汗に伴う塩分喪失量をおおよそ0.04 g/kg/dayとして、これを単位理想体重あたりの24hr尿中塩分排泄量に加えたものを塩分摂取量の指標とし、以下の式により算出する。
|
|
塩分摂取量 (g/kg/day) = 単位理想体重あたりの24hr尿中Na排泄量(mEq/kg/day)/17+0.04 |
(6a) |
塩分摂取量 (g/kg/day) = 単位理想体重あたりの24hr尿中Na排泄量(g/kg/day) ×2.54+0.04 |
(6b) |
式(6)により算出した塩分摂取量の推定値にはかなりの誤差が含まれる。この式を用いて算出した塩分摂取量の推定値は塩分摂取量の目安として利用すべきものである。
1. Maroni B, et al: A method for estimating nitrogen intake of patients with chronic renal failure. Kidney Int 27: 58-61, 1985.
2. Mitch W.E, et al: Creatinine metabolism in chronic renal failure. Clin Sci 58: 327-335, 1980.
3. Shinzato T, et al: Method to calculate creatinie generation rate using pre- and postdialysis creatinine concentrations. Artif Organs 21: 864-872, 1997.