21.2 血清クレアチニン濃度(Cr)
透析前クレアチニン濃度は、クレアチニンの産生速度と血液透析によるクレアチニンの除去(ダイアライザーのクレアチニン・クリアランス)および残存腎機能により決定される。そして、ダイアライザーのクレアチニン・クリアランスは透析条件によって異なり、クレアチニン産生速度は年齢、性別、栄養状態によって異なる。
したがって、透析前クレアチニン濃度には他の検査項目におけるような意味での標準値は存在しない。通常の透析を受けており、かつ十分な量の筋肉を有している無尿の中年以前の維持透析患者では、透析前クレアチニン濃度の一応の目安を、男性では12〜15mg/dl、女性では10〜13mg/dlに取っても差し支えないと考えられる。 A. 異常値とその原因 無尿の患者では、透析前血清クレアチニン濃度はすでに述べたようにクレアチニンの産生速度と透析中のダイアライザーのクレアチニン・クリアランスのふたつの因子によって決まる。したがって、透析前血清クレアチニン濃度が低いのは、理論的にはクレアチニンの産生速度が低いのか、あるいはダイアライザーのクレアチニン・クリアランスが大きいのか、いずれかによる。すなわち、透析前血清クレアチニン濃度が低くても、これは必ずしも十分な量の透析を反映しているとは限らない。透析前血清クレアチニン 濃度は、透析量の大小よりもむしろ クレアチニンの産生速度の大小を反映していることが多い。 B. 検査値からわかることと治療方針 クレアチニン は筋肉で産生されるので、クレアチニン 産生速度が小さいということは、筋肉量が少ないことを意味している。筋肉量は蛋白栄養状態を反映するので、平均的な透析をおこなっているにもにもかかわらず透析前クレアチニン濃度が低いのなら、蛋白栄養状態が悪いと考えるべきである。しかし、クレアチニンの産生速度は、透析前クレアチニン濃度から推測すべきではなく、%クレアチニン産生速度(%CGR)として求めるべきである。%CGRが 100% 以上であれば蛋白栄養状態は平均より良好であり、これが 100% 以下であれば蛋白栄養状態は平均より劣っていることを示している。 日本透析医学会統計調査委員会の報告によると、透析患者の生命予後と%CGRとの間には強い負の相関があった。すなわち、透析患者の死亡の可能性は%CGRが小さければ小さいほど高い。 C. 患者への指導 生体の蛋白質の量は、単に蛋白質摂取量の大小のみによって決定されるのではなく、透析量、運動量、基礎疾患など多くの因子が複合的に作用して決定される。したがって%CGRを増大させるには、これを低下させている原因を発見し、それらをひとつづつ是正していくことが必要である。
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