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30.4 低蛋白食療法中のカロリー不足量

1. 低蛋白食療法中のカロリー不足量を推定する式

蛋白摂取量の制限に伴う体蛋白質の異化を避けるためには、蛋白摂取量を制限するとともに十分な量のカロリーを摂取させなければならない。しかし、通常、低蛋白食療法中に体蛋白質の異化を防ぐのに十分な量のカロリー量を摂取している患者は稀である。

その理由のひとつは、実際に摂取しているカロリー量が十分な量であるのか否か、知る方法がないことである。この問題を解決するために、低蛋白食療法中のカロリー不足量を推定する式が考案された[1]。この式を以下に示す。

Einsuf  = [31.22−1.97 (%GCr)0.6 ]/ (nPCR)0.15            (1)


式(1)で、%GCrは24hr尿中クレアチニン排泄量から算出される%クレアチニン産生速度を示す。この式では、%クレアチニン産生速度を体蛋白質量の指標として用いている。また、式(1)のnPCRは24hr尿中尿素窒素排泄量から算出される蛋白異化率を示す。蛋白異化率は蛋白摂取量とほぼ等しいことが知られている。一方、上記の式のEinsufは%クレアチニン産生速度を多くの非糖尿病透析患者の%クレアチニン産生速度の平均値(=100%)[2]にまで増大させるのに必要なカロリー補充量、すなわちカロリー不足量を示す。したがって、負のEinsuf値はカロリー摂取量が過剰であることを意味している。

なお、この式は糖尿病性腎症の患者には適用できないことに気を付けなければならない。また、この式では多数の非糖尿病透析患者の平均%クレアチニン産生速度を低蛋白食療法中の保存期腎不全患者の目標%クレアチニン産生速度としている。しかし、これは仮に設定された目標値であり、論理的に導き出されたものではないことを記載しておかなければならない。

 

 

2. 低蛋白食療法中のカロリー不足量を推定する式の導き出し方

a. nPCR、%GCrおよびカロリー摂取量の関係

体蛋白質量は、蛋白摂取量あるいはカロリー摂取量が増すと増大することが知られている。そこで、体蛋白質量の指標に筋肉量の指標である%GCrを採用し、また蛋白摂取量の指標にnPCRを採用すると、%GCr、nPCRおよびカロリー摂取量(Enutritionist)の間には以下の関係が存在すると仮定する。
%GCr = α(Enutritionist) y×(nPCR)Z     (2)  

ここで、式(2)を以下のように書き換える。
Enutritionist = a (%GCr)m×(nPCR)−n                 (3)

ただし、a = αy、m = −y、n = −yz

式(3)に多くの患者の実測のnPCR、実測の%GCrおよび栄養士が評価したカロリー摂取量を代入し、誤差を最小にするa、m、nの値を決定したところ、以下の式が得られた。

 

Enutritionist = 1.97 (%GCr)0.60×(nPCR)−0.15                  (4)

さて、式(4)に任意の患者の実測のnPCRと実測の%GCrを代入すると、その患者の摂取したカロリー量の推定値が得られる。したがって、式(4)をカロリー摂取量の推定値(Eestimate)を算出する式と呼び換えることができる。
Eestimate = 1.97 (%GCr)0.60×(nPCR)−0.15                  (5)

ここで注意すべきことは、式(2)あるいは式(3)が論理的に導き出されたものではないということである。単に、「カロリー摂取量が多い患者ほど、またnPCRが高い患者ほど、%GCrが高いので、カロリー摂取量の何らかの関数とnPCRの何らかの関数との和あるいは積は、%GCrと一次相関、二次相関、三次相関、、、あるいは多次相関する可能性がある」との前提の下、様々な式を作成して、それぞれの式に多くの患者の実測のnPCR、%GCrおよびカロリー摂取量を代入して誤差を最小にするそれぞれの係数(a、m、n)を決定したところ、相関係数が十分に大きい式の中に偶然にも最も単純な式である式(3)が含まれていたというにすぎない。

b. 低蛋白食療法を行っている患者のカロリー不足量を求める式

式(5)の%GCr の項に100%を代入すると、nPCRが任意の値であり、%GCrが100%である患者のカロリー摂取量を推定する式が得られる。

Eestimate (100) = 1.97 ×1000.60×(nPCR)−0.15     (6)

ただし、Eestimate (100)は%GCrが100%である患者のカロリー摂取量の推定値を示す。

ここで、Eestimate (100)を目標カロリー摂取量として、Eestimate (100)からEestimateを差し引けば、%クレアチニン産生速度を多数の非糖尿病透析患者の%クレアチニン産生速度の平均値(=100%)にまで増大させるのに必要なカロリー補充量、すなわちカロリー不足量(Einsuf)を求める式が得られる。

Einsuf = Eestimate(100)−Eestimate
        = [31.22−1.97 (%GCr)0.6 ]/ (nPCR)0.15 
    (7)

c. カロリー不足量の補充結果

nPCR値がおおよその目標値である0.6 g/kg/day前後である保存期腎不全患者において、式(1)により算出したカロリー不足量を補充すると、%クレアチニン産生速度は100%に向かって上昇していく(図)。しかし、同時に患者は肥満傾向を示すようになる。

たとえ患者が肥満になっても、なお高度の蛋白制限を行いつつ、かつ体蛋白質の異化を防ぐためにカロリー摂取量を増やすべきか、あるいは蛋白制限を緩めて体蛋白質の異化を防ぐのに必要なカロリー補充量を減少させることにより肥満を避けるべきか、さらには、ある程度の体蛋白質の異化亢進はやむ得ないとして、高度の蛋白制限を行いつつ、肥満にならない程度のカロリー摂取量を指示すべきか、この問題を論じた報告は現時点では存在しない。


 

 

1.      Iwayama N, et al: Quantitative estimation of dietary energy deficiency and effects of its supplementation on protein nutritional status of nondiabetic uremic patients undergoing protein restricted dietary regimens. Nagoya J Med Sci 64:33-42, 2001.

2.      Shinzato T, et al: Method to calculate creatinine generation rate using pre- and postdialysis creatinine concentrations. Artif Organs 21: 864-872, 1997.