透析百科 [保管庫]

31.2 トランポリン現象

(この項は平成会とうま内科の當間茂樹先生が執筆)

1. トランポリン現象とは?

ボタンホール穿刺ルートを通ってシャント血管壁に達したダルニードルの先端がシャント血管壁上の穿刺孔を通ってシャント血管内に入って行かない現象を海外ではtrampoline effect(トランポリン現象)と呼ぶことがある。

 

 

2. トランポリン現象の原因

a. 欧米と日本とのトランポリン現象の発生頻度の違い
図1に示すように、欧米に比べて日本ではトランポリン現象の発生頻度が著しく高い。その理由は、欧米と日本とのボタンホール穿刺ルートの作成法の違いにあると思われる。

  図1:トランポリン現象の発生頻度に関する欧米と日本の比較

 

b. 欧米と日本とのボタンホール穿刺ルートの作成法の違いとその帰結

1) 欧米の方法
欧米では、シャント血管上の皮膚の同一部位からシャント血管壁上の同一部位を通常のシャープ針で一定期間、透析のたびごとに穿刺することによりボタンホール穿刺ルートを作成する。Twardowski は、同一の医療スタッフがシャント血管上の皮膚の同一部位からシャント血管壁上の同一部位をねらって通常のシャープ針で 8 回ないし 12回穿刺すればボタンホール穿刺ルートは完成し、その後は不特定のスタッフでも容易にボタンホール穿刺ができるようになると報告している[1]。
しかし実際には、この方法でボタンホール穿刺ルートを作成するとシャープ針の尖端は穿刺のたびに最初の穿刺で形成された穿刺孔の中央からわずかに外れた点に到達し、その結果、シャープ針による最初の穿刺で形成された穿刺孔は次第に拡大していくと考えられる。そして、同一部位を狙ってシャープ針で 8 回ないし 12 回も穿刺すれば、やがてダルニードルによるボタンホール穿刺を開始する頃になると、シャープ針でダルニードルの先端が到達し得るほぼすべての範囲を穿刺し尽くすことになり、したがって欧米ではトランポリン現象の発生頻度が低いと考えられる。

2) 日本の方法
これに対し、日本ではシャープ針による通常の穿刺跡に直接、ダルニードルを挿入することによりボタンホール穿刺を行うことが多い。すなわち、日本ではボタンホール穿刺ルートはシャント血管を通常のシャープ針で 1 回穿刺するだけで作成している。その結果、図 2 に示すように、シャント血管壁には使用したシャープ針の外径に応じた 1 個の穿刺孔が形成されるのみである。そして、この小さな穿刺孔にダルニードルを挿入するのにはかなりの熟練を要する。

 

図2:シャント血管を通常のシャープ針で1回穿刺するだけでボタンホール穿刺ルートを作成し、2年間ボタンホール穿刺を続け た患者のシャント血管。シャント血管壁にはシャープ針の外径に応じた穿刺孔が1個、形成されている。この小さな穿刺孔にダルニードルを挿入するには熟練が必要である。

 

 

3. トランポリン現象の防止法

a. Twardowski の方法でボタンホール穿刺ルートを作成する
欧米と同様に、シャント血管上の皮膚の同一部位からシャント血管壁上の同一部位を狙って通常のシャープ針で 8 回ないし 12 回、透析のたびに穿刺してボタンホール穿刺ルートを作成する。しかし、シャープ針による反復穿刺では、シャープ針の尖端が 2 回目以降の穿刺でボタンホール穿刺ルートの壁を貫き、その結果、枝分かれしたボタンホール穿刺ルートが形成される可能性がある。これを防ぐために、Twardowski らはシャープ針による反復穿刺は熟練した同一の医療スタッフに限って許されるとしている。

b. 新たに開発された拡張針を使用する
旭化成メディカル社は、長期間使用したために狭窄が進行したボタンホール穿刺ルートを拡張し、あるいは新たに作成したボタンホール穿刺ルートのシャント血管壁上の穿刺孔を拡張するためのボタンホール穿刺用拡張針を 開発した。

1) ボタンホール穿刺用拡張針の形状
ボタンホール穿刺用拡張針は、図 3 に示すように、カット面を上向きにして正面から見ると、先端は鈍で、かつ側縁は通常のシャープ針と同様に鋭利である。このようにボタンホール穿刺用拡張針は先端が鈍であるため、シャープ針の穿刺ルート跡に挿入しても針の先端が穿刺ルートの壁に突き刺さってこれを傷つけるリスクが小さい。一方、カット面の側縁が鋭利であるため、これをシャープ針の穿刺ルート跡に挿入すると、シャープ針の穿刺ルートは横に切り拡げられ、シャント血管壁上の穿刺孔も拡張する。
ボタンホール穿刺用拡張針には、前回の透析で使用したシャープ針や今後使用するダルニードルの外径よりも太い外径のものを使用する。実際には、通常穿刺で使用するシャープ針やボタンホール穿刺で使用するダルニードルの外径は 17G あるいは 16G であるという前提の下、現時点では 15G のボタンホール穿刺用拡張針が作製されている。

2) ボタンホール穿刺用拡張針の臨床評価結果
我々は、ボタンホール穿刺用拡張針を臨床的に使用した。
その結果によると、17G シャープ針の穿刺ルート跡に次の透析で 17G のダルニードルを挿入した場合のトランポリン現象の発生頻度は 87% であった。これに対し、17G のシャープ針の穿刺ルート跡に次の透析で 15G のボタンホール穿刺用拡張針を挿入し、さらにその次の透析以降 17G のダルニードルを使用してボタンホール穿刺をおこなった場合にはトランポリン現象の発生頻度は 21% であった。

 

図3:左側の模式図には通常シャープ針のカット面を示し、右側の模式図にはボタンホール穿刺用拡張針(旭化成メディカル社製)のカット面を示す。いすれの針も、鋭利な側縁は青色で示してある。通常シャープ針では先端から始まってカット面の側縁の約1/3が鋭利な刃となっており、そのため先端も鋭い切っ先を形成している。これに対し、ボタンホール穿刺用拡張針では、先端は鈍く、しかし先端は除いてカット面の側縁の約1/3は鋭利な刃となっている。

 

 

文献

1.    Twardowski Z: Buttonhole method for needle insertion into A-V fistula. Nephrol. Dial. Pol. 10, 156-158, 2006.