17.5 血液の再循環
ダイアライザーを流れる血液の一部が、シャント血管を介してダイアライザーを再循環している場合には、尿毒症物質の除去量が低下する。ダイアライザーを流れる血液の再循環には、シャント血管とダイアライザー間の再循環と心肺再循環のふたつがある。
1. シャント血管とダイアライザー間の再循環
(a) シャント血管に狭窄がある場合、(b) シャント血流量に対して体外循環血流量が速過ぎる場合、(c) 動脈穿刺針と静脈穿刺針の穿刺部位が近すぎる場合には、シャント血管とダイアライザー間に様々な程度の血液の再循環が生じ得る。
a.
シャント血管に狭窄がある場合
透析中には、血液ポンプの作動によりシャント血管の上流側(吻合部側)に留置された動脈穿刺針を介してシャント血管を流れる血液の一部が体外に引き出され、血液回路を流れてダイアライザーに流入、ここで尿毒症物質が除去される。そして、ダイアライザーを通過した、尿毒症物質濃度が著しく低下した血液は、動脈穿刺針よりも下流側(腕の付け根側)に留置された静脈穿刺針を経てシャント血管に戻される。もしシャント血管に狭窄がなく、体外循環血流量も著しく速くはないのであれば、静脈穿刺針を経てシャント血管に戻された、ダイアライザーで浄化された血液は、すべてシャント血管内を大静脈に向かって流れていく。
しかし、もし動脈穿刺針よりも上流にシャント血管の狭窄があり、そのためにシャント血管に十分な量の血液が流入して来ないのであれば、血液を強制的にシャント血管から血液回路に引き込む血液ポンプは、静脈穿刺針を経てシャント血管に戻された、ダイアライザーですでに浄化された血液の一部を動脈穿刺針から血液回路に再び引き込む。あるいは、もし静脈穿刺針よりも下流にシャント血管の狭窄があれば、ダイアライザーで浄化された血液のすべてがシャント血管を経て大静脈に流出していくことができず、その一部は再び動脈穿刺針から血液回路に引き込まれることになる。これが、シャント血管とダイアライザー間の血液の再循環である。
シャント血管とダイアライザー間のこの機序による再循環への対処法には、(1) 動脈穿刺針と静脈穿刺針の穿刺部位を離す、(2) 動脈穿刺針の穿刺部位と静脈穿刺針の穿刺部位との間を駆血帯で軽く縛る、(3)血流量を落とす、等がある。これらの処置によっても再循環が解消されない場合には、外科的に狭窄部のシャント血管の形成をおこなう。
1. 動・静脈穿刺針の穿刺部位を 3cm 以上離す |
2. 動脈針穿刺部位と静脈針穿刺部位との間を駆血帯で軽く縛る |
3. 血流量を落とす |
4. 外科的治療(狭窄部位の血管形成) |
b.
シャント血流量に対して体外循環血流量が速や過ぎる場合
シャント血管とダイアライザー間の再循環は、シャント血流量に対して体外循環血流量が相対的に多い場合、すなわち著しく速い血流速度で血液透析を行った場合、あるいは低血圧などのために十分な量の血液がシャント血管に流入して来ない場合にも発生する。
c.
動脈穿刺針と静脈穿刺針の穿刺部位が近すぎる場合
この機序によるシャント血管とダイアライザー間の再循環は、動脈穿刺針と静脈穿刺針の穿刺部位を3cm以上離すことにより、防ぐことができる。
d.
シャント血管とダイアライザー間の再循環率の評価
シャント血管とダイアライザー間の血液の再循環率は、透析終了直前のダイアライザーの上流と下流の尿素濃度(C1、C2)および血液ポンプの回転数を50ml/minまで低下させた30秒後にダイアライザーの上流で測定した尿素濃度(C3)を用いて、以下の式により決定する。
R(%) = (C3-C1)/(C3-C2)×100
上記の式により算出した再循環率が20%以上の場合には、問題となるほどの再循環があると判断する。
2. 心肺再循環
a.
心肺再循環の機序
シャント血管を流れる血液は、シャント作成に利用した前腕の動脈から吻合部を経てシャント血管に流れ込む。透析中には、このシャント血流の一部は血液ポンプの作動によりシャント血管に留置された動脈穿刺針から体外に引き出されて血液回路を流れ、ダイアライザーに流入する。ダイアライザーではこの血液から尿毒症物質が除去される。そして、やがてダイアライザーから流出した、尿毒症物質の濃度が著しく低下した血液は、静脈穿刺針を経てシャント血管に戻され、シャント血流と混じり合って大静脈に流出していく。大静脈に流入した、シャント血流とダイアライザーで浄化された血液とが混合した血液は、身体のその他の部分から流入してきた静脈血と混ざり合って右心房に入り、さらに右心室、肺循環、左心房、左心室、大動脈と流れ、その一部はシャント作成に利用した前腕の動脈を経てシャント血管に流入し、他は全身の諸臓器を還流する。
以上の血流経路から理解できるように、ダイアライザーで浄化された血液の一部は、シャント血管→大静脈→心肺→大動脈→シャント血管→体外循環回路(ダイラライザー)の順に再循環する。すなわち、透析中、心肺とダイアライザーの間には必然的に血液の再循環が生じる。
b.
心肺再循環の程度
大雑把に心拍出量を4000 ml/分、シャント血流量を800
ml/分、体外循環血流量を200 ml/分とすると、大静脈には1分間あたり、体外循環した血流200
ml を含む800 mlのシャント血流が流入する。この800 mlのシャント血流量は身体の他の部分から還流して来た3200
mlの血液と混ざって心肺を流れ、最終的に4000 ml/分の心拍出量として全身の諸臓器に送り出される。
さて、全身の臓器に送り出されるこの4000mlのうち、800 mlはシャント血管に送られるが、1分間あたり4000 mlの心拍出量にはすでに体外循環しダイアライザーで浄化された200 ml(5%)の血液が混入しているので、シャント血管に送られる1分間あたり800 mlの血液の中にも、その5%にあたる40 mlのすでにダイアライザーで浄化された血液が混ざっていることになる。
ここで、シャント血流800 mlのうちの200 ml(25%)が体外循環するので、すでに体外循環してダイアライザーで浄化され、心肺を経て再びシャント血管に流入してきた40 mlの血液の25%、すなわち10 mlが再び体外循環しダイアライザーで浄化される。
結局、体外循環しダイアライザーで浄化された200 mlの血液のうちの10 mlが再び体外循環しダイアライザーで浄化されるので、心肺再循環率は5%ということになる。5%程度の再循環率は血液浄化効率にはほとんど影響を与えない。