透析百科 [保管庫]

17.7 ヘパリン起因性血小板減少症(?型)

 1.ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia、HIT)とは?

ヘパリン起因性血小板減少症は、血小板の活性化に伴って放出される血小板第4因子(PF4)がヘパリンと結合して複合体を形成し、これに対して抗体が産生されることにより発症する。

十分量のヘパリンを使用しているにもかかわらず、ダイアライザに凝血が見られたり、あるいは透析後に血小板数の減少が認められる場合に、ヘパリン起因性血小板減少症を疑う。 ヘパリン起因性血小板減少症は、通常、ヘパリンの投与を始める透析導入期 に発症するが、維持透析期になって発症することもある。血小板の減少に伴う合併症は、出血ではなく動静脈血栓症である。

 

 

2.ヘパリン起因性血小板減少症の分類

この項で述べるヘパリン起因性血小板減少症は免疫機序で発症する?型であり、通常、ヘパリン投与開始5〜14日後(平均10日位)に発症する。ヘパリンを継続 して使用する限り血小板減少は進行し、ついに 0.5〜5万/μL にまで低下することもある。

その他、ヘパリン起因性血小板減少症には非免疫機序で発生する?型がある。?型では、ヘパリン投与 2〜3 日後に血小板が 10〜30 % 減少する。臨床症状を呈したり、血栓症を合併することはない。?型は、ヘパリン自体の物理生物的特性によ って生じる一過性の血小板減少であり、ヘパリンを中止することなく、血小板数は自然に回復する。?型の発生頻度は  3〜4%、?型の発生頻度は約10% とされている。

 

 3.ヘパリン起因性血小板減少症の病態

血小板の活性化に伴ってα穎粒から放出される血小板第4因子(PF4)は強いヘパリン結合性を有し、ヘパリンと結合してヘパリンの抗凝固作用を中和する。PF4がヘパリンに結合すると、PF4とヘパリンの複合体は抗原性を有するようになり、PF4とヘパリンの複合体に対 して抗体 (IgG、A、M)が産生されるようになる。ヘパリン起因性血小板減少症の約 90% に PF4・ヘパリン複合体に対する抗体(HIT抗体) が検出される。

HIT抗体は、血中で抗原であるPF4・ヘパリン複合体と結合して免疫複合体を形成し、そのFc部分が血小板膜上のFcレセプターと結合して血小板を活性化する。これにより、血小板の凝集が起こる。さらに、HIT抗体は、血管内皮細胞に存在するヘパラン硫酸とPF4が結合して形成されるPF4・ヘパラン硫酸複合体にも結合し、内皮細胞を活性化する。

このような血小板の活性化と内皮細胞の活性化は、血液の凝固反応を引き起こし、その結果、トロンビンの産生が刺激される。このため、ヘパリン起因性血小板減少症では、ヘパリンの投与により、DICにおけるのと同様に強い凝固亢進状態が生じ、 そのため動静脈に血栓症が発生する。

 

4.ヘパリン起因性血小板減少症の診断

ヘパリン起因性血小板減少症は以下の兆候をもって疑う。
 ?ダイアライザやチャンバーのメッシュにおける凝固・残血
  (ヘパリン使用開始5〜14日後に生じる。これは初期兆候であることが多く、この時点では、血小板数減少は軽度であることもある)
 ?血小板数の減少
 ?動静脈血栓症の発症(脳梗塞、心筋梗塞、下肢壊死など)

そのままヘパリン投与を続けると、ダイアライザや血液回路内の凝血はさらに増悪し、血小板数はヘパリン投与前の50%以下にまで減少し得る。

ヘパリン起因性血小板減少症を疑ったら、ヘパリンの使用を中止し、代替の抗凝固薬としてアルガトロバン(薬)を使用し、さらにヘパリン起因性血小板減少症の確定診断のためにHIT抗体を測定する。
HIT抗体は血小板凝集法とELISA法との2方法で測定することが勧められている。

 a. ヘパリン惹起血小板凝集法(Heparin-induced platelet aggregation)
健常者の多血小板血漿(platelet rich plasma; PRP)に患者血漿(platelet poor plasma; PPP)を1:1の割合で混和し、惹起物質としてヘパリンを添加し、血小板凝集を観察する方法である。

HIT抗体陽性の場合には、0.1〜1.0単位のヘパリン添加で凝集が起こり、50〜100単位の高濃度のヘパリン添加で凝集が解離する。

本法はHIT抗体に特異性が高く、結果が陽性であればヘパリン起因性血小板減少症と診断できる。しかし、たとえ陰性であってもヘパリン起因性血小板減少症を否定はできない。

 b. ELISA法による抗ヘパリン・PF4複合体抗体の検出
ヘパリン・PF4複合体を抗原として用いて、被検検体中の抗ヘパリン・PF4複合体抗体との免疫複合体を形成させ、形成された免疫複合体に酵素標識抗体を反応させて比色定量する方法である。ヘパリン起因性血小板減少症における本抗体の陽性率は85〜90%である。

ヘパリン起因性血小板減少症で出現するHIT抗体は血小板減少の2日前頃に出現し、ヘパリン使用を中止すると徐々に低下し、50〜85日くらいで消失する。症例によってはヘパリン中止後10日前後で抗体が消失することもある。

 

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 5.ヘパリン起因性血小板減少症の治療

ヘパリン起因性血小板減少症の治療では、トロンビンの産生抑制と、すでに産生されたトロンビンの不活性化に主眼をおく。すなわち、すみやかなヘパリン投与の中止によりトロンビンの産生を抑制し、抗トロンビン剤であるアルガトロバン(薬)の投与により産生されたトロンビンを不活 性化する。

透析を施行する際には、ヘパリンに代わる抗凝固薬としてアルガトロバンを使用する。透析中、初回10mg、維持25mg/hr のアルガトロバンを投与し、その後、凝固時間、ダイアライザ内の凝血を指標に患者毎に投与量を増減する。なお、HIT抗体が陽性であるかぎり、血小板数が回復した後であっても、ヘパリンを使用してはならない。

HIT抗体が陽性である状態でヘパリンを投与すると、血栓症の増悪、急激な血小板減少、呼吸困難、発熱、胸痛、血圧上昇などの全身性の反応が起こることがある(早期発症HIT)。このような場合には、ヘパリンを中止し、速やかにアルガトロバンを投与する。

なお、ヘパリン起因性血小板減少症の急性期にワーファリンを服用させると、プロテインC系が抑制されるために皮膚壊疽などの合併症が出現することがある。したがって、ヘパリン起因性血小板減少症の急性期にはワーファリンの投与は禁忌である。血小板数が回復すればワーファリンの投与も可能となる。

ヘパリン起因性血小板減少症については、HIT情報センターが詳細、かつ簡潔な説明を行うとともに、問い合わせにも応じている。HIT情報センターのホームページを閲覧することを勧める。

http://www.hit-center.jp/contents/top.php