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17.6 透析中に生じる低酸素血症

1. 透析中における低酸素血症

血液透析中には、動脈血中の酸素分圧(PaO2)が低下する。その程度には患者ごとにバラつきがあるが、透析前値よりおおむね5〜15 mmHg程度低下する。

通常、透析に伴なう低酸素血症によって臨床的な問題が生じることはない。しかし、透析前PaO2が80 mmHg以下であるような、重症の心肺系疾患を有する患者では、これにより狭心症発作や呼吸困難が出現することがある。

 

 

2. 対応

狭心症発作や呼吸困難などの臨床症状があれば、鼻腔からの毎分1〜2リットル程度で酸素吸入を行う。

 

 

3. 予防

重症の心肺系疾患を有する患者では、透析開始と共に鼻腔からの酸素吸入を行う。また、透析液中の重曹(バイカーボネート)が急速に体内に移行してアルカローシスを起こさないようにするため、血流量が速すぎないように調整する(理由については、メカニズムの項を参照)。

 

 

4. メカニズム

a. 透析液から血液への重曹の移行

血流量が速すぎると、重曹(バイカーボネート)の体内移行が急速となる。その結果、血液中ではアルカローシス(代謝性アルカローシス)が生じる。

さて、水に二酸化炭素(CO2)が溶けると水は炭酸水となる。そして、炭酸水のpHは酸性であり、溶けている二酸化炭素の量が増えるにしたがって酸性度は増大する。この現象からも理解できるように、血液中の二酸化炭素濃度が上昇すると血液は酸性度が増し(呼吸性アシドーシス)、二酸化炭素濃度が低下すると血液の酸性度は減少する(呼吸性アルカローシス)。したがって、重曹(バイカーボネート)の体内移行が急速であった結果、血液中で代謝性アルカローシスが生じると、体内ではこれを相殺するために、二酸化炭素濃度を上昇させるメカニズムが働くようになる。体内の二酸化炭素濃度を上昇させるメカニズムとは、呼吸を介しての二酸化炭素濃度の排出を減少させるための呼吸抑制である[1]。

呼吸が抑制されると、呼吸を介しての二酸化炭素の排出は減少するが、同時に大気からの酸素の取り込みも減少する。すなわち、呼吸が抑制されると、動脈血中の酸素濃度も低下する。

以上が、血液透析中に認められる動脈血酸素分圧(PaO2)の低下の主なメカニズムと考えられている。

なお、通常、動脈血中の二酸化炭素濃度は二酸化炭素分圧(PaCO2)として表され、動脈血中の酸素濃度は酸素分圧(PaO2)として表される。

b. 肺への好中球の集積

再生セルロース膜で透析を行うと、肺に好中球が集積する。血液透析中に認められる動脈血酸素分圧(PaO2)の低下には、このようにして形成された肺毛細血管の好中球塞栓が関与しているとの意見もある(図を参照)。

 

 

 

文献

1. Wathen RL, et al: An alternative explanation for dialysis-induced arterial hypoxemia. Kidney Int 18: 835, 1980.