透析百科 [保管庫]

19.3 ヘリコバクター・ピロリの除菌療法 

1. ヘリコバクター・ピロリ の感染による消化器疾患

ヘリコバクター・ピロリが胃・十二指腸粘膜へ定着することによって起こる疾患を表にまとめる。表に示した疾患は、ヘリコバクター・ピロリが胃・十二指腸粘膜へ定着しさえすれば生ずるものではない。これらの病態の成立には宿主側の要因の関与も重要である。

ヘリコバクター・ピロリ 感染関連疾患
1. 胃炎 急性胃炎(内視鏡後感染)
慢性胃炎
Menetrier病
2.  十二指腸炎
3.  消化性潰瘍 胃潰瘍
十二指腸潰瘍
4.  胃良性腫瘍 胃過形成性ポリープ
胃腺腫
5.  胃悪性腫瘍 胃癌
6.  胃リンパ腫 胃MALTリンパ腫
胃悪性リンパ腫

 

2. ヘリコバクター・ピロリ の除菌療法の適応

内視鏡検査または造影検査において胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者のうち、ヘリコバクター・ピロリの感染が疑われる患者を除菌の対象とする。

 

3. ヘリコバクター・ピロリ 感染の診断

迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法、尿素呼気試験、血清・尿中抗体測定法のいずれか一つの検査結果が陽性ならヘリコバクター・ピロリ陽性と診断する。なお、迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法には内視鏡検査を必要とし、日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、これらの検査を目的とした内視鏡検査では、前庭部大弯と体上部中部大弯の2ヶ所からそれぞれ3個の検体を採取するのが望ましいとしている。

a. 迅速ウレアーゼ試験
尿素とpH指示薬が混入された容器に内視鏡検査で得られた検体組織を入れる。ヘリコバクター・ピロリが存在していれば、ヘリコバクター・ピロリの持つウレアーゼ活性によって尿素がアンモニアに分解され、pHが上昇し指示薬は赤色に変化する。迅速ウレアーゼ試験は簡便で迅速性に優れ、精度が高い。

b. 鏡検法
採取した胃粘膜をホルマリンで固定し種々の染色を行ってヘリコバクター・ピロリを同定する検査である。同時に組織診断も可能であり、検査結果を保存できるという利点がある。

c. 培養法
すべての検査法の中で最も特異性の高い検査法である。菌の保存が可能で薬剤感受性試験が出来るため、再除菌の際には実施すべき検査法である。

d. 尿素呼気試験
ウレアーゼが尿素をアンモニアと炭酸ガスに分解することを利用して、13Cで標識した尿素を服用後、吐息を検査用のバックに集めて呼気中13C標識二酸化炭素を調べる診断法である。内視鏡検査を必要とせず、簡便,迅速な方法であるとともにヘリコバクター・ピロリの不均一な分布に影響されない特異性の高い診断法である。

e. 血清・尿中抗体測定法
ヘリコバクター・ピロリが感染していると胃粘膜で免疫反応が引き起こされ、抗体が産生されることを利用した診断法である。血清や尿中のヘリコバクター・ピロリ抗体を測定することによりヘリコバクター・ピロリの感染を診断する。
内視鏡検査を必要とせず、血液や尿を採取するだけの簡便な方法であるが、除菌療法後抗体価が低下するのに時間がかかるため、除菌判定には6ヶ月以上の長期間を必要とする。

f. 便中のヘリコバクター・ピロリ抗原の検出[1.2]
本検査では糞便を用いて非侵襲的にヘリコバクター・ピロリ抗原を直接検出する。

 

4. ヘリコバクター・ピロリ 感染症の治療

ヘリコバクター・ピロリ の除菌は、プロトンポンプ阻害薬による酸分泌抑制と抗生物質投与の組み合わせにより行う。

通常、腎機能が正常な成人には1回あたり30mgのランソプラゾールを1日2回、あるいは1回あたり20mgのオメプラゾールを1日2回、かつ1回あたり750mg(力価)のアモキシリンを1日2回、さらに1回あたり200mg(力価)のクラリスロマイシンを1日2回、それぞれ7日間経口投与する。なお、クラリスロマイシンは、必要に応じて適宜増量することができる。ただし、1回400mg(力価)1日2回を上限とする。

透析患者におけるヘリコバクター・ピロリの除菌のための薬物投与量について記載された文献はないが、排泄経路などを考慮すると以下のような投薬スケジュールが考えられる。すなわち、透析患者については、1回あたり30mgのランソプラゾールを1日2回あるいは1回あたり20mgのオメプラゾールを1日2回、かつ1回あたり750mg(力価)のアモキシリンを1日1回(透析日は透析後に)、さらに1回あたり200mg(力価)のクラリスロマイシンを1日1〜2回(透析日は透析後に)、それぞれ7日間経口投与する。

 

 

5. ヘリコバクター・ピロリの除菌療法の効果の確認

除菌療法が成功したか否かを判定するためには、除菌療法終了4週間後以降に前述の方法によりヘリコバクター・ピロリの感染がなお続いているか否か調べる。ただし抗体価については、たとえ除菌療法が成功していても完全には陰性化していないことがある。

除菌されない原因としては、クラリスロマイシン耐性、喫煙、内服の中断や飲み忘れ等の服薬コンプライアンスの低下が考えられる。

前述の薬剤で除菌されない患者に対しては、違う薬剤を用いて再度除菌を試みる。

 

 

ランソプラゾール
 タケプロン
  (武田)
 

オメプラゾール
 オメプラゾン
  (吉冨)
 オメプラール
  (アストラゼネカ)

 

クラリスロマイシン
 クラリス
  (大正)
 クラリシッド
  (ダイナボット・大日本)

 

アモキシリン
 アモリン
  (武田)
 アモペニキシン
  (ニプロファーマ)
 パセトシン
  (協和発酵)
 サワシリン
  (藤沢)
 アモピシリン
  (大洋薬品)
 ワイドシリン
  (明治製菓)
 

 

6. 3剤併用療法のヘリコバクター・ピロリの除菌率

3剤併用療法のヘリコバクター・ピロリの除菌率は、腎機能が正常な胃潰瘍の患者では89.2%、十二指腸潰瘍の患者では83.7%であると報告されている。

 

 

7. ヘリコバクター・ピロリ の除菌療法の副作用

1. 除菌療法により、軟便(13.7%)・下痢(9.1%)などの消化器症状や味覚異常を起こすことがある。

2. ヘリコバクター・ピロリの除菌成功例の10%程度に軽度の逆流性食道炎が発生するとの報告がある。これは、胃粘膜萎縮の強い胃潰瘍や胃炎のために低下していた胃酸分泌がヘリコバクター・ピロリの除菌により改善(正常化)することが一因であると考えられている。

 

 

 

文献

1. 伊藤喜久、他:医学と薬学 44(1): 137-142, 2000.

2. 福田能啓、他:Current Therapy 18(9): 105-109, 2000.