19.6 慢性胃炎
1. 疾患概念 臨床診断名としての慢性胃炎の概念は、やや混乱している。 上部消化管の内視鏡検査やレントゲン所見に基づいて慢性胃炎と診断された場合には、これを形態学的胃炎と呼び、組織学的所見に基づいて慢性胃炎と診断された場合には、これを組織学的胃炎と呼ぶ。
a.内視鏡、レントゲン所見に基づいて診断された慢性胃炎(形態学的胃炎) 形態学的胃炎は、表層性胃炎、肥厚性胃炎、萎縮性胃炎、びらん性胃炎に分類されることが多い。これらのうち、表層性胃炎には本質的に急性胃炎と異なるところがないので、表層性胃炎は急性胃炎と同一の病態であると考えてよい。また、肥厚性胃炎には組織学的に明らかな炎症所見が認められない。したがって、肥厚性胃炎は単に胃壁の肥厚を反映している所見に過ぎない。 結局、狭義の形態学的胃炎は萎縮性胃炎とびらん性胃炎に分類される。 1)萎縮性胃炎 2)びらん性胃炎 b.組織学的に診断された慢性胃炎(組織学的胃炎) 生検材料の組織学的検査で胃粘膜に好中球やリンパ球の浸潤が認められ、さらに経過とともに胃腺の萎縮が認められる場合には、組織学的胃炎と診断する。組織学的胃炎にはヘリコバクター・ピロリの感染が関与しており、ヘリコバクター・ピロリの除菌により改善する。 ヘリコバクター・ピロリ陽性の萎縮性胃炎では胃癌の発生頻度が高い。
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2. 治療
慢性胃炎に対しては、その原因にかかわらず、制酸薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(薬)あるいはプロトンポンプ阻害薬(薬)を投与する。 びらん性胃炎では、これらの薬剤を投与すると同時に、もし非ステロイド抗炎症薬を服用していれば、可能な限りこれを中止する。また、刺激性の強い食べ物を控えさせる。 ヘリコバクター・ピロリ陽性の萎縮性胃炎ではヘリコバクター・ピロリの除菌を行うのが望ましい。しかし、慢性胃炎におけるヘリコバクター・ピロリの除菌は、現時点では健康保険の適用対象になっていない。 慢性胃炎は、一般に軽快と増悪を繰り返す。
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■オメプラゾール ■ラベプラゾール
≪ヒスタミンH2ブロッカー≫ ■ファモチジン ■ニザチジン |
3. 機能性胃炎(症候性胃炎) 上部消化管症状を訴えるが、内視鏡検査でも組織学的検査でも何ら所見を認めないことがある。臨床的には、このような場合にも、便宜上、慢性胃炎という病名を付ける。しかし、これはいわゆる保険病名であり、機能性胃炎は真の慢性胃炎ではない。機能性胃炎は、胃の機能異常によるものと考えられている。 機能性胃炎はその症状から、運動不全型、潰瘍症状型、非特異型に分けられる。上腹部の膨満感、食欲不振、悪心、嘔吐、胃もたれを主症状とするものが運動不全型であり、空腹時や夜間の心窩部痛を主症状とするものは潰瘍症状型である。その他、精神心理的な要因による消化管の運動異常が原因であると考えられる非特異型もある。 機能性胃炎の治療は、自覚症状の改善を目的とする。運動不全型にはクエン酸モサプリド(薬)や塩酸イトプリド(薬)などの消化管運動改善薬を投与し、潰瘍症状型には制酸薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬を投与する。非特異型にはフルタゾラム(薬)などの抗不安薬、スルピリド(薬)やマレイン酸フルボキサミン(薬)などの抗うつ薬が有効であるとされている。しかし、機能性胃炎の治療にあたっては、実際には薬剤の種類と効果をみながら、ある程度試行錯誤的に治療を進めていく。 |
≪消化管運動改善薬≫ ■クエン酸モサプリド ■塩酸イトプリド
≪抗不安薬≫ ■フルタゾラム ≪抗うつ薬≫ ■スルピリド ■マレイン酸フルボキサミン
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