19.1 胃潰瘍と十二指腸潰瘍
1. 原因 従来、胃潰瘍と十二指腸潰瘍は、胃酸やペプシンなどの胃粘膜を攻撃する因子と胃粘液などの胃粘膜を保護する因子のアンバランスにより生じると考えられてきた。しかし、現在は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の主因はヘリコバクター・ピロリの感染と非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の内服であると考えられるようになった。非ステロイド系抗炎症薬による胃潰瘍と十二指腸潰瘍は、これらの薬剤を内服した場合だけでなく、坐薬として使用した場合や、静脈注射した場合にも生じる。また、非ステロイド系抗炎症薬の湿布製剤であっても、これを過剰に使用すれば胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因となり得る。
2. 症状 最も多い症状は心窩部痛である。胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時に心窩部痛が出現することが多い。心窩部痛に次いで多い症状は、心窩部の膨満感である。その他、背部痛、悪心、嘔吐、胸やけ、ゲップ、吐血、下血(しばしばタール便となる)、下痢などの症状がある。
3. 診断 症状から胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍を疑ったら、心窩部痛に代表される腹痛の種類、性状や程度、潰瘍歴、基礎疾患、非ステロイド系抗炎症薬の服用の有無、抗血小板薬、抗凝固薬の服用の有無などを問診し、さらに消化管出血の有無、ショック症状の有無、貧血の有無など、全身状態の把握に努める。 次に、同様の症状を呈する他の疾患を除外し、また病態を把握するために、末梢血液検査、臨床化学検査、血清検査、血液凝固検査、胸部・腹部単純X線検査、腹部超音波検査を行う。消化管出血が疑われる場合には、後で輸血が必要となった場合のために血液型および不規則抗体の有無を調べておく。 末梢血液検査では貧血の有無や程度を把握する。また、臨床化学検査では血清尿素窒素濃度(BUN)や血清カリウム値に注目する。血清尿素窒素濃度や血清カリウム値が日頃よりも上昇していれば、上部消化管から出血した血液中の血球が腸管で破壊・吸収されたのではないかと疑う。血清カリウム値が著しく上昇していれば、抗凝固薬としてフサンを用いた緊急透析が必要となる。 小球性低色素性貧血、総鉄結合能(TIBC)の上昇、鉄飽和率の低下があれば、慢性的に消化管出血があったと判断する。便潜血検査(便ヒトヘモグロビン検査)は少量の消化管出血の存在を確認するのに有用である。 胸部・腹部単純X線検査は、穿孔の有無を知り、胆石、腹水、イレウスなどを除外するのに有用である。とくに穿孔を疑う場合には、胸部・腹部単純X線写真にて横隔膜下のフリー・エアーの存在を確認する。腹部超音波検査も、他の疾患(胆石、胆嚢炎、膵炎、腹部大動脈瘤の破裂など)を除外するのに有用である。 明らかな消化管出血が認められたり、激しい腹痛により穿孔が疑われる場合には、緊急入院が適応となる。その他、症状(心窩部痛、悪心・嘔吐など)が激しい場合や食事摂取が不能な場合にも、入院が相対的適応となる。 原因を明らかにするために、ヘリコバクター・ピロリの感染の有無を調べるとともに、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を使用していないかどうか確認する。
4. 治療 a. 治療フローチャート
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b. 初期治療 c. 維持療法 |
■オメプラゾール ■ラベプラゾール
≪ヒスタミンH2ブロッカー≫ ■ファモチジン ■ニザチジン |