透析百科 [保管庫]

19.2  上部消化管の急性出血

透析患者における上部消化管の急性出血は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍よりも粘膜の表在性の病変によっておこりやすい。したがって、上部消化管出血のある患者では、バリウムによるX線造影検査よりも内視鏡検査の方が適している。

消化管出血を呈する患者に、発汗、湿潤した皮膚、低血圧(起立性低血圧を含む)、頻脈がみられる場合には、循環血液量が危険なレベルまで減少していると考えてよい。輸血用の血液が届くまでの間、細胞外液補充開始液を輸液しておく。昇圧剤は原則として使用しない。輸血は、発汗、皮膚の湿潤、低血圧、頻脈などの症状が消失するまで、急速に十分な量をおこなう。同時に、経鼻胃管を挿入し胃洗浄をおこなう。同時に、消化器専門医、消化器外科医に診察を依頼する。なお、急性期にはヘマトクリット値は低下しない。したがって、ヘマトクリット値により出血量を推測することはできない。

一方、少量の吐血あるいは下血により上部消化管出血が疑われるが、発汗、湿潤した皮膚、低血圧(起立性低血圧を含む)、頻脈などの症状がみられない安定した患者では、まず、経鼻胃管を挿入し胃洗浄をおこなう。胃洗浄に引き続いては、内視鏡検査をおこない、出血の部位と出血の程度を評価する。これにより活動性の出血が認められなければ、バイタルサイン、便の外観、ヘマトクリット値を観察して再出血を見逃さないようにしつつ、経過を観察する。治療としては、高容量のプロトンポンプ阻害薬を投与する。すなわち、オメプラゾール(薬)40 mgを1日2回、あるいはランソプラゾール(薬)の30 mgを1日1回 投与する。プロトンポンプ阻害薬は2週間でファモチジン(薬)、ラニチジン(薬)、ニザチジン(薬)、ロキサチジン(薬)などのH2ブロッカーに変更する。H2ブロッカーは4週間から6週間続ける。

出血の原因が胃・十二指腸潰瘍の場合は、急性期が過ぎてからヘリコバクター・ピロリの感染の確認をする。ヘリコバクター・ピロリの感染が確認されれば除菌を試みる。また、胃潰瘍の約5%は癌性潰瘍である。したがって、胃潰瘍と診断された場合には、内視鏡検査やX線造影検査により完全な治癒が確認されるまで経過を追うことを勧める。

なお、消化管出血の後、しばらくの間はメシル酸ナファモスタット透析をおこなう。