透析百科 [保管庫]

13.7 穿刺法とシャント血管寿命

Parisottoら[1]は、ブラッドアクセス血管を新たに作成した時点をエンドポイントとするコックス比例ハザード分析により、ポルトガル、イギリス、アイルランド、イタリア、トルコ、ルーマニア、スロベニア、ポーランドおよびスペインの合計7058名の患者において、ブラッドアクセス寿命と穿刺法との関係を解析し た。そして、その結果、彼らは以下の因子がブラッドアクセス血管の寿命に影響を与えることを明らかにした。

1.穿刺法

ブラッドアクセス血管の穿刺法には、広範囲を少しずつ穿刺孔をずらしながら穿刺していく縄ばしご法、おおむね 3cm 以内の比較的限定された範囲内で部位を変えつつ穿刺する領域法、全く同一の孔と経路にダルニードルを挿入するボタンホール法がある。教科書的には縄ばしご法が推薦されているが、実際には領域法で穿刺することが多い。彼らの解析 では、これらの穿刺法のうち、縄ばしご法(rope-ladder method)や領域法(area method)に比較してボタンホール法(bottunhole method)でブラッドアクセス血管の寿命が延長することが明らかになった。Krӧnungら[2]も、Parisottoらと同様にボタンホール法(bottunhole method)でブラッドアクセス血管の寿命が延長すると述べている。

 

 

2.穿刺針

Parisottoらは、太い穿刺針を使用するとブラッドアクセス血管の寿命が延長するという結果を得ている。これは、太い穿刺針そのものがブラッドアクセス血管の寿命を延長させたのではなく、太い穿刺針を使用した結果、針の先端からの血流ジェットが弱くなり、これによりブラッドアクセス血管壁への血流の衝撃が減ったことによると思われている。例えば、血流が350 mL/分の場合には、17Gの穿刺針を使用すると針の先端からの血流ジェットは 8.79 m/秒となるが、15Gの穿刺針を使用すると針の先端からの血流ジェットは 5.80 m/秒にすぎない。

 

 

3.動脈針の穿刺方向

Parisottoらは、動脈針の穿刺形態を(1)ブラッドアクセス血管の血流に沿って穿刺する場合と、(2)ブラッドアクセス血管の血流とは逆の方向に穿刺する場合の二つに分け、さらにそれぞれの場合をカット面を上向きのままで固定する場合(1-up と 2-up)と、穿刺針を 180°回転させて、カット面を下向きにして固定する場合(1-downと2-down)の合計4 つの場合に分けた。彼らの解析によると、ブラッドアクセス血管の血流とは逆の方向に穿刺し、さらにカット面を下向きにして固定した場合(2-down)にブラッドアクセス血管の寿命が短縮していたと報告している。

すでに Woodson と Shapiro[3] がブラッドアクセス血管の血流とは逆の方向に動脈針を穿刺すると、血腫が形成されやすいと報告している。これが、ブラッドアクセス血管の血流とは逆の方向に穿刺した場合にブラッドアクセス血管の寿命が短縮する理由かもしれない。 なお、Ozmen ら[4]は、動脈針をブラッドアクセス血管の血流に沿って穿刺しても、これとは逆の方向に穿刺しても、透析効率に差は認められなかったと報告している。これは、動脈針をブラッドアクセス血管の血流とは逆の方向に穿刺しても、再循環はおこらなかったことを示している。

 

図1 動脈針の穿刺方向

4.血流量

血流量が300mL/分以上の場合に比べて 300mL/分未満の場合には、ブラッドアクセス血管の寿命が短い。Parisotto らの論文では、この一見矛盾する所見について詳しい説明はなされていないが、おそらく高い血流量が得られないような状態のブラッドアクセスは寿命が短いと読み替えてもよいのかもしれない。もしそうなら、日本における比較的低 い血流量(200〜280 mL/分)の透析がブラッドアクセス血管の寿命を短縮させているとは考えるべきではないことになる。

 

 

 

1.    Parisotto MT, et al: Cannulation technique influences arteriovenous fistula and graft survival. Kidney Int 86: 790-797, 2014.

2.    Krönung G. Plastic deformation of Cimino fistula by repeated puncture. Dial Transplant 13:635-638, 1984.

3.    Woodson RD, Shapiro RS. Antegrade vs. retrogade cannulation for percutaneous hemodialysis. Dial Transplant 3:29-30, 1974.

4.    Ozmen S, et al. Does the direction of arterial needle in AV fistula cannulation affect dialysis adequacy. Clin Nephrol 70:229-232, 2008.

 

 


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