透析百科 [保管庫]

14.7  クリアランスギャップ(CL-Gap法)

1. シャント血管とダイアライザとの間の血液の再循環

シャント血管に狭窄がある場合やシャント血流量に対して体外循環血流量が多すぎる場合には、シャント血管とダイアライザとの間に様々な程度の血液の再循環が生じることがある。

血液の再循環は、現象的には図に示すように、体外循環血流量よりも吻合部からシャント血管に流れ込む血流量(シャント血流量)が少ないため、その不足分を体外循環して静脈穿刺針からシャント血管に流入した血液の一部を引き込むことによって生じる。すなわち、血液の再循環がある場合には、シャント血管からダイアライザに流れ込む血液は、吻合部からシャント血管に流れ込んだ血液と静脈穿刺針からシャント血管に流入する一度ダイアライザで浄化された血液の二種類が混合したものである。これに対し、血液の再循環がない場合には、シャント血管からダイアライザに流れ込む血液は吻合部からシャント血管に流れ込んだ血液の一部である。

 

 

2. ダイアライザにおける尿素クリアランスと身体からの尿素クリアランス

血液の再循環がある場合には、シャント血管からダイアライザに流れ込む血液は吻合部からシャント血管に流れ込んだ血液と、一度ダイアライザで浄化され、その後、静脈穿刺針を通してシャント血管に戻された血液の二種類の血液が混合したものである。したがって、血液の再循環がある場合には、ダイアライザに流れ込む血液中の尿素濃度は、吻合部からシャント血管に流入した血液の尿素濃度よりも低いことになる。

さて、再循環の有無にかかわらず、ダイアライザにおける尿素クリアランスは血液側から透析液側への単位時間当たりの尿素除去量をダイアライザに流入する血液の尿素濃度で割ったものであるが、身体からの尿素クリアランスは血液側から透析液側への単位時間当たりの尿素除去量を体内の尿素濃度で割った値である。

ところが、すでに述べたように、血液の再循環がある場合には、ダイアライザに流れ込む血液の尿素濃度は、吻合部からシャント血管に流入した血液の尿素濃度よりも低い。したがって、シャント血管とダイアライザとの間に血液の再循環がある場合には、身体からの尿素クリアランスはダイアライザにおける尿素クリアランスよりも低く、その差は再循環率が高いほど大きい。

 

 

3. クリアランスギャップ

上述のように、血液の再循環がある場合には、身体からの尿素クリアランスはダイアライザにおける尿素クリアランスよりも低く、その差は再循環率が高いほど大きい。この事実に基づいて、小野らは再循環率の程度を示す指標を開発した[1]。

彼らは、まず、通常の方法で採血して得られた透析前血清尿素窒素濃度と透析終了時に血流量を50 mL/分に低下させ、その30秒後にダイアライザの動脈側の血液回路から 採血して得られた透析後血清尿素濃度とからsingle-pool Kt/V値を算出した。次にこのようにして得られた Kt/V値に透析時間(t) を掛け合わせ、さらにこれを下記の Watson の式により算出した体液量に総除水量を加えた値で割ることにより、身体からの尿素クリアランス(有効クリアランス;eCL)を算出した。

Watsonの式
(男性の場合)
体液量 (L) = 2.447 + 0.3362×ドライウエイト(kg) + 0.1074×身長 (cm)−0.09516×年齢 (才)   (1a)

(女性の場合) 
体液量 (L) =−2.097+0.2466×ドライウエイト(kg)+0.1069×身長(cm)  (1b)

さらに、小野らは以下の式を用いて、血流量(QB)、透析液流量(QD)、ダイアライザの総括物質移動係数(KoA)からダイアライザにおけるクリアランス(tCL)を算出した。
   tCL =        1 – exp[KoA(1/QB – 1/QD)]                                               (2)
  1/QD – 1/QB exp[KoA(1/QB – 1/QD)]  


彼らは、eCLとtCLの乖離度(クリアランスギャップ;CL-Gap)を下記の式により算出し、これを血液の再循環の有無を判定するための指標として用いた。すなわち、クリアランスギャップが10% 未満であれば、再循環が存在する危険性は少なく、これが10% 以上であれば再循環が存在する危険性が大きい。

  クリアランスギャップ(CL-Gap) =   tCL – eCL   ×100 (3)
tCL

クリアランスギャップを算出する至適透析解析シート(Microsoft EXCELシート)が、小野が開設している至適透析仮想研究所(http://juns.cool.ne.jp)から入手可能である。

 

 

 

文献

1. 小野淳一、他:常識 クリアランスから計算された標準化透析量、異論・論争 実測値をもとに得られる推定値と理論値の較差の検討. Clinical Engineering 18:154-160, 2007.

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