27.3 麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)
組成・剤形・1日用量(メーカーによりブシの規格が異なる)
マオウ、サイシン、ブシ(炮ブシ、加工ブシ、修治ブシ)より抽出したエキスを製剤化
カプセル剤(6cap/日)、細粒剤(4.5g/日)、顆粒剤(7.5g/日)
麻黄附子細辛湯が有効な症状と疾患 |
1. 感冒、気管支炎、インフルエンザ
50名の普通感冒の患者および38名の感冒あるいは気管支炎の高齢患者に対して単独で麻黄附子細辛湯を投与した研究では、いずれの群においても90%の患者が軽度改善以上の治療成績を示している[1],[2]。
また、初診時にかぜ症候群と診断されて麻黄附子細辛湯を投与され、その後血清学的にまたは臨床的にインフルエンザと診断された27名の患者を対象とした後ろ向き(retrospective)調査でも、熱感、悪寒、全身倦怠感などに関して麻黄附子細辛湯は十分な効果を示し、疼痛症状、食欲不振、鼻閉にも効果がみられたと報告されている[3]。
2. 気管支炎(喉頭アレルギー症状)
咽喉頭異常感と持続性乾性咳嗽などの喉頭アレルギー症状を訴える11名の患者に対して麻黄附子細辛湯を4週間投与し、患者の症状日記に基づいてその有用性を評価した研究では、咽喉頭症状は有意に抑制され、特に抗アレルギー剤では効果の出にくい咽喉頭異常感も有意に改善したと報告している[4]。
3. 鼻炎、鼻閉
通年性鼻アレルギーの患者に対する臨床研究では、麻黄附子細辛湯の投与4週後における判定で55〜80%の患者に有効以上の効果が認められている。同じ研究で、自覚症状に関してはくしゃみ、鼻汁、鼻閉の3大症状のうち鼻閉に対して特に改善効果が大きい。また他覚症状に関しても、下鼻甲介粘膜の腫脹が軽快し、抗アレルギ−剤では効果の出にくい咽喉頭異常感に対しても,鼻誘発試験および鼻汁中好酸球数検査で有意な改善が認められている[5],[6]。
鼻閉については、特異的減感作療法や種々の抗アレルギー剤によっても症状の改善が認められなかった33名(重症25名、中等症8名)の通年性鼻アレルギー患者に麻黄附子細辛湯を投与したところ、77.5%で2週後に、84.8%で4週後に鼻閉症状の改善が認められている[7]。また、スギ花粉症に対する予防的投与については、花粉飛散の2〜4週間前に麻黄附子細辛湯を投与することにより症状の発現が抑制されることが示されている[8]。
文献
1. 加地正郎、石井浩三、柏木征三郎、他;麻黄附子細辛湯エキスカプセルの普通感冒に対する臨床効果. 臨床と研究 68(11): 3473-3479, 1991.
2. 加地正郎、柏木征三郎、林田一男、他:高齢者の感冒および気管支炎に対する麻黄附子細辛湯エキスカプセルの効果. 臨床と研究 69(10): 3278-3284, 1992.
3. 加地正郎、加地正英、柏木征三郎、他:麻黄附子細辛湯エキスカプセルのかぜ症候群に対する効果 — retrospective調査による検討 —. 臨床と研究 72(11): 2855-2859, 1995.
4 .馬場 錬、山川 聡、内藤健晴、他:咽頭アレルギ−症例に対する麻黄附子細辛湯の有用性について.アレルギ−の臨床.278.64-68.2001
5. 鵜飼幸太郎、田矢理子、坂倉康夫、他:通年性鼻アレルギーに対する漢方製剤の検討 —麻黄附子細辛湯エキス製剤の臨床応用—. 耳鼻咽喉科臨床 85(1): 155-165, 1990.
6. 伊藤博隆、大屋靖彦、横田 明、他:鼻アレルギ−に対する麻黄附子細辛湯の薬効評価 —鼻閉症状の臨床効果について—. 耳鼻咽喉科臨床 補冊(52): 107-118, 1991.
7. 大橋淑宏、中井義明、古谷博之、他:鼻アレルギ−に対する麻黄附子細辛湯の効果. 耳鼻咽喉科臨床 85(11): 1845-1853, 1992.
8. 伊藤博隆、岩田重信、西村忠郎、他:スギ花粉症に対する予防的薬物療法の研究 —とくに麻黄附子細辛湯について—. 耳鼻咽喉科臨床 補冊(52): 89-106, 1991.
参考
1. 麻黄附子細辛湯については、メーカーにより適応が異なる。以下に、小太郎漢方製薬株式会社、三和生薬株式会社、株式会社ツムラの示している麻黄附子細辛湯の適応をまとめる。
小太郎:全身倦怠感があって、無気力で、微熱、悪寒するもの(感冒、気管支炎)
三和:悪寒、微熱、全身倦怠、低血圧で頭痛、めまいあり、四肢に疼痛冷感あるものの次の諸症(感冒、気管支炎、咳嗽)
ツムラ:悪寒、微熱、全身倦怠、低血圧で頭痛、めまいあり、四肢に疼痛冷感あるものの次の諸症(感冒、気管支炎)
2. 使用上の注意については、全社に共通している。
a. 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
1)体力の充実している患者[副作用があらわれやすくなり、その症状が増強されるおそれがある。]
2)暑がりで、のぼせが強く、赤ら顔の患者[心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等があらわれるこがある。]
3)著しく胃腸の虚弱な患者[口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等があらわれることがある。]
4)食欲不振、悪心、嘔吐のある患者[これらの症状が悪化するおそれがある。]
5)発汗傾向の著しい患者[発汗過多、全身脱力感等があらわれることがある。]
6)狭心症、心筋梗塞等の循環器系の障害のある患者、又はその既往歴のある患者
7)重症高血圧症の患者
8)高度の腎障害のある患者(透析患者を除く)
9)排尿障害のある患者(透析患者を除く)
10)甲状腺機能亢進症の患者[狭心症状あるいは高血圧が出現あるいは増悪することがある]
b. 重要な基本的注意
1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。
2)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。ブシを含む製剤との併用には、特に注意すること。
c. 相互作用 併用注意(下記の薬剤との併用に注意すること)
?マオウ含有製剤
?エフェドリン類含有製剤
?モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤
?甲状腺製剤 (チロキシン、リオチロニン)
?カテコールアミン製剤(エピネフリン、イソプレナリン)
?キサンチン系製剤(テオフィリン、ジプロフィリン)
d. 麻黄附子細辛湯の投与にともなう臨床症状の措置方法
麻黄附子細辛湯を投与すると交感神経刺激作用が増強される。したがって、麻黄附子細辛湯を投与すると、不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮などがあらわれやすくなる。このような症状があらわれたら、投与量を減量するなど慎重に対応すること。
e. 副作用
本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため発現頻度は不明である。
1)重大な副作用
肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GPTの上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
2)その他の副作用
?過敏症:発疹、発赤等があらわれることがあるので、このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
?自律神経系:不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等があらわれることがある。
?消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等があらわれることがある。
?泌尿器:排尿障害等があらわれることがある。
?その他:のぼせ、舌のしびれ等があらわれることがある。
(5)高齢者への投与
一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。
(6)妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい。[本剤に含まれる炮附子の副作用があらわれやすくなる。]
(7)小児等への投与
小児等には慎重に投与すること。[本剤には炮附子が含まれている]