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27.7  抑肝散加陳皮半夏 (ヨクカンサンカチンピハンゲ)

抑肝散(ヨクカンサン)は、認知症の周辺症状である幻想や妄想に効果があるとして注目されている漢方薬である。抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散に健胃作用を持つ陳皮(チンビ)と嘔気をおさえる半夏(ハンゲ)を加えたものである。

 

  1.認知症の症状

認知症の症状は中心症状(必ずみられる症状)と、それに伴って起こる周辺症状(必ずみられるとは限らない症状)に分けられる。

中心症状とは記憶の障害(同じことをくり返し言ったり聞いたり、あるいはしまっておいたところを忘れたりするなど)や判断力の低下(今がいつなのか、ここはどこなのか、わからなくなるなど)である。

これに対し、周辺症状には、妄想、幻覚、不安、依存、徘徊、攻撃的行動、睡眠障害、介護への抵抗、異食・過食、抑うつなどがある。

組成・剤形・1日用量(メーカーにより規格が異なる)

 オウレン、オウゴン、オウバク、サンシシより抽出したエキスを製剤化

 細粒剤(4.5〜6g/日)、  顆粒剤(4.5〜7.5g/日)、

 カプセル剤(6cap/日)、  錠剤(15〜18錠/日)

a. 妄想
財布や通帳をしまった場所や置いた場所を忘れたのであるにもかかわらず、誰かが盗んだ、自分に嫌がらせをするために隠したと信じる「もの盗られ妄想」の形をとることが多い。その他、「嫁がごはんに毒を入れた」というような被害妄想や、「夫が女のところにいる」というような嫉妬妄想を抱くこともある。

b. 幻覚
幻覚には幻聴と幻視ある。「近くに知らない外人がいる」、「となりに工場が引っ越してきて騒音がうるさい」などの例がある。

c. 不安
今までできたことができなくなったことや、今までよりも物忘れがひどくなってきたことを自覚して、不安や焦燥に陥ることがある。不安や焦燥のために依存的な傾向が強まり、ひとりになると落ち着かないので、常に家族について回るようになる。

d. 徘徊
無目的の歩行が多くなる。この症状はアルツハイマー型認知症に多く、脳血管性認知症には少ない。

e. 攻撃的行動
本人に十分に説明することなく着衣や入浴を介助しようとしたり、行動について注意し、あるいは制止すると、攻撃的な行動をとることがある。幻覚や妄想に関連して攻撃的な行動をとることもある。

f. 睡眠障害
認知症が進行すると夜間の不眠、日中のうたた寝が増加する傾向がある。

g. 介護への抵抗
認知症では、「風呂は明日はいる」、「風邪をひいているので、今日は風呂にはいらない」と言うなど、入浴を嫌がることが多い。浴室の床で転ぶことを恐れるなど、運動機能や条件反射が鈍くなっていることに関連する不安、水への潜在的な恐怖感などから生じる状態であると考えられる。

h. 異食・過食
食後にも「お腹がすいた」と訴える過食や、食べられないものを口に入れる異食がみられることがある。

i. 抑うつ状態
意欲の低下や、思考の障害(思考が遅くなる)といった、うつ病と似た症状があらわれることがある

 


  2.認知症と間違われやすい主な状態

認知症と間違われやすいのがせん妄とうつ状態である。せん妄やうつ状態は適切な治療を行うことで改善する。

せん妄は、急性の脳障害に伴っておこる軽い意識障害で、判断力や理解力が低下し、しばしば幻覚や妄想があらわれて興奮状態になる。せん妄と認知症の違いは、せん妄の患者は一日の中で症状の変化が激しく、「しっかりしている時」と「そうでない時」があることである。ただし、アルツハイマー型認知症にせん妄が合併することもあることに注意が必要である。

うつ状態では、気分が落ち込み、やる気が出ず、思考が遅くなる。うつ状態と認知症の大きな違いは、うつ状態では悲しさや寂しさ、自責感(気分や感情の障害)などを訴えるのに対し、認知症ではこれらを訴えないことである。

その他、聴力や視力が低下したために外部から受け取る情報量が減少して、その結果として認知症と誤られるような状態に陥ることがある。さらに、複数の医療機関に同時に通院したために類似の抗精神薬を重複して処方され、そのために認知症様の症状を呈し、あるいは処方された薬剤の服用量を誤ったために認知症様の症状が出現することもある。

 

 

  3.抑肝散加陳皮半夏が有効な症状

抑肝散加陳皮半夏は認知症の周辺症状を抑える。

a. 暴力徘徊
泉は、認知症患者14名(脳血管性6名、アルツハイマー病6例、混合型2名)に抑肝散加陳皮半夏の7.5gまたは15gを1日3回にわけて服用させたところ、認知症の周辺症状のうち、特に暴力・暴言、夜間徘徊、大声などの陽性症状が軽減したと報告した[1]。彼によると、脳血管性認知症については抑肝散加陳皮半夏の投与のみで長期間にわたりこれらの症状が改善した状態が続くが、混合性認知症やアルツハイマー型認知病については抑肝散加陳皮半夏の投与のみでは症状は改善しない。抑肝散加陳皮半夏の投与で症状が改善する患者では、抑肝散加陳皮半夏の効果は投与後2〜4週で現れる。

b. 不穏症状
山口は、不穏症状(夜間の不眠・興奮)のある高齢者(94歳、女性)に抑肝散加陳皮半夏6gを1日2回に分けて投与したところ、その日の夜から不眠が解消したと報告している[2]。

 

 

  4.抑肝散加陳皮半夏の組成・剤形・1日用量(メーカーにより規格が異なる)

トウキ、チョウトウコウ、センキュウ、ビャクジュツまたはソウジュツ、ブクリョウ、サイコ、カンゾウ、チンピ、ハンゲより抽出したエキスを製剤化

細粒では9.0g/日、顆粒では7.5g/日

*:クラシエ、小太郎漢方はビャクジュツ(白朮)、ツムラはソウジュツ(蒼朮)を使用。

 

 

  5.抑肝散加陳皮半夏の適応症

抑肝散加陳皮半夏については、メーカーにより適応症が異なる。以下に、小太郎漢方製薬株式会社、クラシエおよび株式会社ツムラの示している抑肝散加陳皮半夏の適応症をまとめる。

小太郎漢方:神経症、更年期神経症、不眠症、高血圧または動脈硬化による神経症状、小児夜啼症。

クラシエ、ツムラ:虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症

 

 

  6.抑肝散加陳皮半夏の使用上の注意

使用上の注意については、以下のように全社共通している。

慎重投与

(次の患者には慎重に投与すること)

1) 著しく胃腸の虚弱な患者[食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等があらわれるおそれがある。]

2) 食欲不振、悪心、嘔吐のある患者[これらの症状が悪化するおそれがある。]

 

重要な基本的な注意事項

1) 本剤の使用にあたっては、患者の証 (体質・症状) を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。

2) 本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。

3) 他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。

 

相互作用

併用注意

(併用に注意すること)

薬剤名等 

(1) カンゾウ含有製剤

(2) グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤

臨床症状・措置方法

偽アルドステロン症があらわれやすくなる。また、低カリウム血症の結果として、ミオパシーがあらわれやすくなる。(「重大な副作用」の項参照)

機序・危険因子

グリチルリチン酸は尿細管でのカリウム排泄促進作用があるため、血清カリウム値の低下が促進されることが考えられる。

 

副作用

副作用等発現状況の概要

本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である。

 

重大な副作用

1) 偽アルドステロン症:

低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察 (血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

2) ミオパシー:

低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

その他の副作用

消化器

(頻度不明)

食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等

高齢者への投与

一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。

妊婦、産婦、授乳婦等への投与

妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

小児等への投与

小児等に対する安全性は確立していない。[使用経験が少ない]

 

 

 

1.泉義雄:痴呆症14例の暴力徘徊などの周辺陽性症状に対する抑肝散加陳皮半夏の改善効果. 漢方と最新治療12(4): 352-356, 2003

2.山口志保子:抑肝散加陳皮半夏が著効した超高齢者の不穏. 漢方研究 (通巻383号): 8-9, 2003