透析百科 [保管庫]

27.2  黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)

組成・剤形・1日用量(メーカーにより規格が異なる)

 オウレン、オウゴン、オウバク、サンシシより抽出したエキスを製剤化

 細粒剤(4.5〜6g/日)、  顆粒剤(4.5〜7.5g/日)、

 カプセル剤(6cap/日)、  錠剤(15〜18錠/日)


  黄連解毒湯が有効な症状

1. restless legs 症候群

慢性透析患者32人に対し、黄連解毒湯を6cap/日(分3)にて12週間経口投与したところ、restless legs 症候群およびこれに伴う不眠が軽減したとの報告がある。この報告によると、全症例において検査値異常は認められず、本剤に起因すると考えられる副作用も認められなかった[1]。また、掻痒感(痒み)、イライラ感、restless legs 症候群を訴える68人の血液透析患者に黄連解毒湯を6cap/日、12週間連続投与した報告では、24%で症状の著明改善、32%で中等度改善、28%で軽度改善(合計84%)が認められている[2]。

2. 皮膚掻痒症

皮膚掻痒を訴える透析患者に黄連解毒湯 6cap/日を12週間連日経口投与した報告では、日中・夜間・透析時の掻痒感の改善率は、70.6%、82.4%、88.2%であった。有用性は有用以上が76.5%であり、検査値の変動や副作用はみられなかった。多くの症例で効果は4週間目に確認され、12週目には全体の半数以上で掻痒感の消失を認めている[3]。

また、掻痒感を有する保存期腎不全患者17名に対して、黄連解毒湯を6cap/日分3で食前に4週間以上連日経口投与した別の報告では、白取の判定表に従い5段階に分類した掻痒の程度は、本剤投与により治療前2.76±0.75から0.88±0.99へ有意に低下している[4]。

3. 消化器症状

湯浅らは[5]、胃粘膜病変による上腹部不快感や口腔乾燥症による口の乾きや粘りを訴える透析患者15症例に対して黄連解毒湯を12週間投与したところ、10例で症状の消失を確認したと報告している。効果は4週目より認められ、改善の傾向はイライラ感や不眠などの精神神経症状よりも上腹部不快感などの消化器症状の方に先行して認められている。

また、副作用はなく、臨床検査値の異常変動も認められていない。湯浅らによると、黄連解毒湯は患者の主観的な消化器症状の訴えを緩和させる作用が大きいとのことである。

4. 食欲不振

Urea kinetic modeling を用いて、restless legs 症候群を訴える長期透析患者29人に対して黄連解毒湯(6cap/日、分3、12週間)を投与した際に得られた臨床データを解析した報告によると、蛋白異化率(nPCR)が1.0g/kg/日以上の18人の患者では黄連解毒湯の投与後に nPCR の有意の変動は認められなかった。しかし、nPCR が1.0g/kg/日未満の11人の患者では黄連解毒湯の投与後に nPCR が有意に増大した[6]。これらの結果は、nPCR が1.0g/kg/日未満の患者では黄連解毒湯の投与により食欲が増大したことを示している。


文献

1. 高井一郎、新里高弘、前田憲志、他:慢性血液透析患者のrestless leg syndromeに対する黄連解毒湯の臨床効果. 臨床透析 9(2): 255-260, 1993.

2. 新里高弘、高井一郎、前田憲志、他:透析患者の掻痒感、イライラ感、restless legs 症候群に対する漢方薬の有用性. 日透析医学会誌 Suppl30: 675, 1997.

3. 河合弘進、高木智恵子、塚田義人、他:透析掻痒症に対する黄連解毒湯の効果の検討 .臨床透析 11(3): 389-396, 1995.

4. 大和田章、椎貝達夫:保存期腎不全患者の掻痒症に対する黄連解毒湯の効果. 腎と透析44(2): 283-286, 1998.

5. 湯浅保子、鈴木正司、平沢由平:透析患者の上腹部不快感および口腔乾燥症状に対する黄連解毒湯の使用経験. 新薬と臨床 45(12): 2283-2290, 1996.

6. 高井一郎、新里高弘、前田憲志、他: Urea kinetic modeling を用いた黄連解毒湯試験結果の解析—食思不振に対する黄連解毒湯の有効性の裏づけ—. 臨床透折 12(4): 513-517, 1996.


参考

1. 黄連解毒湯については、メーカーにより適応が異なる。以下に、小太郎漢方製薬株式会社、三和生薬株式会社、株式会社ツムラの示している黄連解毒湯の適応をまとめる。

小太郎漢方:比較的体力があり、のぼせぎみで顔色赤く、いらいらする傾向のある次の諸症(鼻出血、不眠症、ノイローゼ、胃炎、二日酔、血の道症、めまい、動悸)

三和:比較的体力があり、のぼせて肩こり、不眠など神経症状があって出血傾向のあるものの次の諸症(吐血、下血、鼻出血、高血圧症、高血圧による不眠症、皮膚掻痒症、神経症、胃炎)

ツムラ:比較的体力があり、のぼせ気味で、いらいらする傾向のあるものの次の諸症(喀血、吐血、下血、脳溢血、高血圧、心悸亢進、ノイローゼ、皮膚掻痒症、胃炎)

2. 使用上の注意については、全社に共通している。

a. 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)

著しく体力の衰えている患者[副作用があらわれやすくなり、その症状が増強されるおそれがある]

b. 重要な基本的注意

*本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。

*他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。

c. 副作用

本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため発現頻度は不明である。

1)重大な副作用

?間質性肺炎:発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。

?肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GTPの著しい上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

2)その他の副作用

?過敏症:発疹、蕁麻疹等があらわれることがあるので、このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

?消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等があらわれることがある。

d. 高齢者への投与

一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。

e. 妊婦、産婦、授乳婦等への投与

妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること。

f. 小児等への投与

小児等に対する安全性は確立していない[使用経験が少ない。]


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