16.2 不眠症
透析患者の不眠は、(1) 単なる不安や緊張による不眠、(2)不安抑うつによる不眠、(3)イライラ感、皮膚掻痒感、痛みなどによる不眠、(4)尿毒症物質の蓄積による不眠などがある。 (1) 単なる不安や緊張による不眠には、ミダゾラム(薬)、トリアゾラム(薬)、ブロチゾラム(薬)、ゾピクロン(薬)、エチゾラム(薬)、リルマザホン(薬)、ロルメタゼパム(薬)などの作用時間の短いベンゾジアゼピン系の睡眠薬を用いる。非ベンゾジアゼピン系である酒石酸ゾルピデム(薬)もこのようなタイプの不眠に有効である。これらの睡眠薬は、入眠障害に対して優れた催眠効果をもたらすが、翌朝の覚醒時には残薬感がなく「目覚めの良さ」が特徴である。早朝覚醒型の不眠や途中覚醒型の不眠には不適当である。 (2)不安抑うつによる不眠は、早朝覚醒型であることが多い。しかし、高齢者の不眠も早朝覚醒型であることが多く、これだけから不安抑うつによる不眠と断定することはできない。不安抑うつによる不眠では、憂鬱である、気分が重い、不安である、何もしたくない、物事を悪い方へ悪い方へと考えてしまう、死にたい、等の自覚症状、表情が暗い、落ち着きがない、反応が遅い、涙もろい、等の他覚症状、食欲がない、体がだるい、等の身体愁訴を伴う。抑うつ症が軽度のうちは、抑うつ気分は午前中に強く、夕方から夜には軽快する。 不安抑うつによる不眠は、抗うつ薬のみで改善することが多いが、不眠の程度や不眠に対する患者の訴えが強い場合には、睡眠薬を併用する。抗うつ薬にはマプロチリン(薬)、ミアンセリン(薬)等の作用の弱いもの、アミトリプチリン(薬)、イミプラミン(薬)等の作用の強いものがある。作用の強い薬剤は副作用も強く、作用の弱い薬剤は副作用も弱い。投与に当たっては、作用の弱い薬剤の少量から始めて、3ないし4日ごとに増量し、あるいは作用の強い薬剤に変更していく。症状の改善が見られるまで、あるいは副作用が見られるまで、定められた最大容量まで増量する。服用方法としては、毎食後および就寝前に投与するが、就寝前の投与量を多めにすると有効であることが多い。ただしイミプラミンについては、副作用として不眠を生じることがあるので、夕食後以降の投与は避ける。抗うつ薬の副作用には、口渇、便秘、起立性低血圧、透析低血圧、心臓の伝導障害などがある。不安抑うつによる不眠にたいしては、これが早朝覚醒型あるいは途中覚醒型であれば作用時間の長い睡眠薬を選択するが、もしそうでなければ作用の短い睡眠薬を投与する。 (3)イライラ、皮膚掻痒感、痛みなどによる不眠に対しては原因の除去に務めるが、現実にはこれが困難な場合が多い。このような患者に対しては、作用時間の短い睡眠薬に、少量の作用の弱い抗うつ薬を併用する。 (4)透析患者の不眠の原因の中に尿毒症物質の蓄積があるのか否か、まだ明らかではない。しかし、on-line HDFやpush/pull HDFにより、多くの患者において不眠症が改善されたとの報告があることから、その可能性は否定できない。可能なら、透析患者の不眠症にon-line HDFやpush/pull HDFを試みてみる。 なお、長期間睡眠薬を服用していた患者で睡眠薬を中止する場合は、急に投与を止めるのではなく、投与量を漸減し徐々に中止するようにする。 |
薬剤名 | 臨床使用量(mg) | 半減期(hr) |
酒石酸ゾルピデム | 5〜10mg/body | 2〜3 |
ミダゾラム | 0.15〜0.30 mg/kg | 2〜3 |
トリアゾラム | 0.125〜0.50 | 2〜4 |
ブロチゾラム | 0.25〜0.50 | 3〜6 |
ゾピクロン | 7.5〜10 | 4 |
エチゾラム | 1〜3 | 6 |
リルマザホン | 1〜2 | 10 |
ロルメタゼパム | 1 | 10 |
フルニトラゼパム | 0.5〜2 | 9〜25 |
ニメタゼパム | 3〜5 | 21 |
エスタゾラム | 1〜4 | 24 |
ニトラゼパム | 5〜10 | 28 |