12.12 血液透析中の白血球数の推移
(この項はながけクリニックの長宅芳男先生が執筆)
1. 透析膜と白血球数の推移
血液透析では、体外循環を開始した直後に末梢血中の白血球数が著明に低下し、透析開始15〜30分後に最低値を示す(hemodialysis leukopenia)。そして、透析開始約1時間後には、白血球数はほぼ開始前の値に回復し、透析終了時には逆に透析前よりも増加するようになる。この現象は、とくに再生セルロース膜などを用いた血液透析中に明らかである。そして、透析開始直後に減少するのは白血球の中の主に成熟型の分葉核好中球であるが、単球も好中球とともにいくらか減少する。
2. 臨床上の留意点
このように、程度の差はあるものの、透析開始直後には白血球が減少する。そのため、透析開始後の白血球数から感染症の有無を知ることは困難である。血液透析患者において白血球数を検査する際には、必ず透析開始前の検体を用いなければならない。
3. 透析膜による白血球の減少程度の相違
a. セルロース系の膜
再生セルロース膜では、透析開始15〜30分後に白血球数が透析前値の10〜30%に低下する。また、セルロースジアセテート(CDA)膜でも、透析開始直後に白血球数が再生セルロース膜の場合と同レベルにまで低下する。これに対して、セルローストリアセテート(CTA)膜では、再生セルロース膜に比べて透析開始直後の白血球数の低下程度は軽く、透析前値の40〜70%に低下するだけである。PEGグラフト再生セルロース膜での白血球数の低下もCTA膜とほぼ同程度である。すなわち、PEGグラフト再生セルロース膜では、白血球数は透析開始直後に透析前値の60%前後に低下する。
b. 合成高分子膜
合成高分子膜では、CTA膜やPEGグラフト再生セルロース膜よりも、さらに透析開始直後の白血球の減少程度は軽度である。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)膜、EVAL膜あるいはPAN膜では、透析開始直後の白血球数は透析前の60〜80%である。一方、ポリスルホン(PS)膜では白血球数は透析開始直後に透析前値の70〜90%に低下するだけである。また、ポリアミド(PA)膜やポリエーテルスルホンとポリアリレートとのポリマーアロイ膜(PEPA)膜でも、透析開始直後における白血球の減少はPS膜とほぼ同程度である。
4. 透析中の白血球変動の機序
透析開始直後に白血球が減少するのは、肺の毛細血管に一時的に白血球が停滞するためである。この現象には活性化した補体が関係していると報告されている。すなわち、透析膜に血液が接触すると補体第2経路が活性化される。活性化された補体の何らかの作用により、ダイアライザから体内に戻された血液中の白血球は肺の毛細血管床(白血球が最初に遭遇する毛細血管床)に停留する。そして、その結果として末梢血中では白血球が減少する。
透析終了時の白血球増加は、肺の毛細血管床に停留していた白血球が再び血中に流出されるのに加え、活性化された補体の作用で骨髄から末梢血に白血球が動員されるためであると報告されている。透析終了時にとくに幼弱型白血球が増加するのも、そのためであると考えられる。
とくに再生セルロース膜で透析開始直後の白血球減少が著しいが、これは主にセルロース膜の表面に存在する遊離水酸基(OH基)に血中のC3bが結合することを契機に補体が活性化されるためであるとされている。セルロース膜の表面には3つのOH基が存在するが、セルロースジアセテート(CDA)膜は、このうちの2つが酢酸基に置換された膜である。そして、すでに述べたようにCDA膜では透析開始直後に再生セルロース膜と同レベルにまで白血球数が低下する。これは、酢酸基に置換されていないままで存在するOH基で補体が活性化されるためであると考えられる。一方、セルローストリアセテート(CTA)膜は、セルロース膜の表面に存在する3つのOH基のすべてが酢酸基に置換された膜である。CTA膜では、再生セルロース膜やCDA膜に比べて透析開始直後の白血球数の低下程度が軽度である。
PMMA膜、EVAL膜、PAN膜、PS膜、PA膜あるいはPEPA膜などの合成高分子膜の表面にはOH基は存在しない。そのため、これらの膜は補体第2経路を活性化する作用が弱く、したがってCTA膜やPEGグラフト再生セルロース膜よりもさらに透析開始直後の白血球の減少が軽度である。なお、PAN膜などの高分子膜は活性化した補体を吸着すると報告されている。