透析百科 [保管庫]

12.13  ビタミンE 固定化膜

1. ビタミンE固定化膜の開発の背景

生体では恒常的に活性酸素・フリーラジカルが発生している。一方、生体の各組織には活性酸素・フリーラジカルを消去する酵素(抗酸化酵素)が存在し、発生した活性酸素・フリーラジカルを消去している。しかし、すべての活性酸素・フリーラジカルが抗酸化酵素によって消去されるのではない。一部の活性酸素・フリーラジカルは抗酸化酵素による消去から逃れ、次々と酸化反応を繰返して過酸化脂質を生成し、細胞膜に障害を起こしている。

とくに透析患者では、血液透析中に血液が人工膜である透析膜と接触することによっても活性酸素・フリーラジカルが発生し、その結果、過酸化脂質の産生が増加していると考えられている。

さて、ビタミンE、ビタミンC、βカロチン、グルタチオンなどには、活性酸素・フリーラジカルを消去し、過酸化脂質の生成を抑制するとされている。サプリメントとして、しばしばこれらの物質が服用されるのは、そのような理由による。

このような背景の下、透析患者で活性酸素・フリーラジカルの消去を促進するために、ポリスルホン膜(PS膜)にビタミンE(α−トコフェロール)を固定化した透析膜(VPS−HA膜)が開発された(旭化成クラレメディカル株式会社)。1回あたり4時間の透析で、全血液が循環すると考えると、回路を含めダイアライザ内を約12回も通過することになる。
したがって、ビタミンEが固定化された透析膜は、活性酸素・フリーラジカルの消去に関して有効であると考えらている。

ビタミンE固定化透析膜についての研究会「Vitamembrane研究会」で、基礎から臨床に至る詳細な研究報告がなされている。

 

2. 活性酸素とフリーラジカルの産生

肺において体内に取り込まれた空気中の酸素は赤血球中のヘモグロビンに結合して全身の細胞に運ばれる。それぞれの細胞に届いた酸素は、ミトコンドリアにおいてブドウ糖の最後の代謝過程で発生する水素原子(H)と結合して水(H2O)になる。

具体的には、図に示すように、ブドウ糖はミトコンドリアに入るまでに補酵素A(CoA)に結合したアセチル基(アセチルCoA)にまで分解される。アセチルCoAはミトコンドリア内に存在するオキサロ酢酸にアセチル基を引き渡し、オキサロ酢酸はアセチル基と結合してクエン酸となる。クエン酸からは水素や二酸化炭素が切り離されることにより、次々に別の物質に変化していき、最終的にはオキサロ酢酸に変わり、再びアセチルCoAのアセチル基と結合してクエン酸を生成する。さて、クエン酸から切り離された水素は酸素と結合して水となるが、このとき重要なのは、水素が切り離されることであり、二酸化炭素が切り離されることではない。二酸化炭素が切り離されるのは、クエン酸から生成された物質をさらに水素を引き離しやすい物質に変化させるためである。

アセチルCoAのアセチル基がクエン酸を経てオキサロ酢酸に変わるまでに、8つの水素原子が切り離されるが、これらの水素原子はNADH (ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)やFAD (フラビン・アデニン・ジヌクレオチド)に捕捉されてミトコンドリアの内膜に運搬され、ここで電子(e-)を放出する。
放出された電子は、内膜に存在する5つの複合体間を伝達されていくが、それにともない、水素イオン(H+:プロトン)は膜電位に逆らって、ミトコンドリアの内膜と外膜との間のスペース(膜間スペース)に輸送されていく。その結果、膜間スペースとミトコンドリア内(マトリックス)にはpH勾配と電位差が生じ、このpH勾配と電位差に基づくエネルギーによりATP合成酵素が活動し、ADPからATPが産生される。

酸素は、ミトコンドリアの内膜で5つの複合体のうちの最後の複合体から4個の電子を受け取り(四電子還元され)、さらにマトリックスから取り込まれた水素イオン(H+)と結合して水を生成する。このとき、一部の酸素分子は、最後の複合体から電子を1個だけしか受け取らず(一電子還元され)、したがってスーパーオキシドとなる。スーパーオキシドはさらに、過酸化水素に、そして次にヒドロキシラジカルとなる(スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルはすべて活性酸素、スーパーオキシドとヒドロキシラジカルは活性酸素であるとともにフリーラジカルでもある)。

活性酸素・フリーラジカルは非常に不安定で強い酸化力を示す。

 

 

3. 活性酸素とフリーラジカルの有害性

ミトコンドリア外に、さらには細胞外に漏出した活性酸素・フリーラジカルは細胞を損傷する。すなわち、活性酸素・フリーラジカルは多価不飽和脂肪酸を酸化して「過酸化脂質」と呼ばれる有害な脂質に変化させる。そして、一旦生成された過酸化脂質は次々に他の分子を過酸化していき、細胞膜に埋め込まれているコレステロールやタンパク質も過酸化していく。

このような反応を断ち切るため、各組織にはカタラーゼやスーパーオキシド・ディスムターゼ、ペルオキシダーゼなどの活性酸素・フリーラジカルを消去あるいは除去する酵素(抗酸化酵素)が存在する。

なお、サプリメントとしてしばしば服用されるビタミンE、ビタミンC、βカロチン、グルタチオンなどには、活性酸素・フリーラジカルを消去し、過酸化脂質の生成を抑制する作用があるとされている。

このような背景の下、ビタミンE固定化膜は、血液を透析膜に結合させたビタミンEに接触させて、血液中の活性酸素・フリーラジカルを直接消去しようとするものである。

 

 

4. ビタミンEポリスルホン固定化膜の短期的な臨床効果

ビタミンEポリスルホン固定化膜(PS-ViE膜)の短期的な臨床効果として、以下のような観察結果が報告されている。

a. PS-ViE膜を使用した透析では、補体活性が抑制される。

b. PS-ViE膜を使用した透析では、インターロイキン-1βの産生が少ない。

c. PS-ViE膜は、白血球からの顆粒球エラスターゼの放出を抑制する。

e. PS-ViE膜は、血液凝固の引き金となる接触相の活性化を抑制する。

f. PS-ViE膜では、血小板の活性化が抑制されるため、抗血栓性に優れている。

g. PS-ViE膜では、活性酸素の産生が少ない。

h. PS-ViE膜を使用すると、赤血球膜を構成する脂質の過酸化が抑制される。

i. PS-ViE膜を使用すると、酸化LDLの産生が抑制される。