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21.25 白血球

(この項は岡山大学第3内科の矢野 愛先生が執筆)

血液に浮遊している細胞である血球には、赤血球、白血球および血小板がある。これらの血球のうち、赤血球は酸素を運搬するただ1種類の細胞であり、血小板は止血に関与するやはりただ1種類の細胞である。しかし、白血球は1種類の細胞ではなく、何種類かの細胞(好中球、好塩基球、好酸球、リンパ球、単球)の総称である。そして、それぞれの細胞は、それぞれに異なった働きをする。

1. 白血球数

通常の耳血(CBC)検査では、赤血球数および血小板数とともに白血球の総数(白血球数)が示される。

血液中の白血球が増減しているとき、理想的にはどの種類の白血球が増減しているのかを知るためにそれぞれの白血球の比率を調べるのが望ましい。しかし、白血球の総数が増加しているとき、実際にはそれぞれの白血球の数を調べることなく、白血球のなかで最も数の多い好中球(細菌を貪食、殺菌、消化する白血球)が増えているとみなされて、感染症の診断が下されることも多い。

白血球数の基準値は、腎機能正常者で、男性3800〜10100/μL、女性3500〜9300/μL(好中球30〜70%、好塩基球0〜1.2%、好酸球0〜5%、リンパ球18〜60%、単球3〜10%)である。一方、透析患者における基準値は3000〜8000/μL(好中球50〜75%、好塩基球0〜2%、好酸球1〜6%、リンパ球10〜40%、単球2〜8%)である。

日本透析医学会統計調査委員会は、透析前の白血球数が3,000/μL以下の患者では死亡のリスクが高いと報告している。透析前の白血球数が3,000/μL以下の患者では様々な栄養指標の値が低いことから、白血球数の低い患者で死亡のリスクが高いのは、栄養状態が悪いことによるのではないかと考えられる[1]。

 

 

2. それぞれの白血球の機能と白血球分画検査における標準値

白血球分画検査とは、白血球数が増減しているときに、好中球、好塩基球、好酸球、リンパ球あるいは単球のうちのどの白血球が増減しているのかを調べる検査である。

a. 好中球
好中球は、細菌や破壊された生体成分などの異物に遭遇するとこれを貪食し、殺菌、消化する機能をもつ。細菌が侵入し、あるいは組織が破壊されると、好中球は血管壁の隙間からアメーバ様運動により血管外に出て組織中を遊走して局所に到達する。局所に到達した好中球は,細菌や異物を取り込み、細胞内で消化する(殺菌作用)。このようにして無数の好中球の集まった局所が化膿巣である。そして、化膿巣で細菌や異物を取り込み、細胞内で消化し、結局死滅してしまった好中球の塊りが膿である。

好中球は、細菌が生体内に進入した場合(感染が成立した場合)、あるいは外傷、火傷、手術などにより組織が破壊された場合には産生が刺激されて、血液中の数が増加する。血液中の好中球数が7500/μLを越えた場合にはこのような状況が生じていると考える。

なお、このような病態では好中球は活発に活動しかつ消費されるので、寿命が短縮する。好中球の産生が増加し寿命が短縮すると、血液中では幼弱な好中球の比率が増大し、成熟した好中球の比率が低下する。この現象を核の左方移動と呼び、この現象の出現を確認することは感染症の診断に有用である。最も幼弱な好中球である桿状核球の比率が全好中球数の15%以上となった場合に核の左方移動があるとみなす。

感染症以外でも、類白血病性反応、慢性骨髄性白血病、骨髄線維症などでは核の左方移動が生じることがある。

上記の病態以外でも血液中の好中球数は増加し得る。その中で、透析医療でもしばしば遭遇するのは副腎皮質ホルモンの投与による好中球の増加である。その他、白血病でも幼弱な好中球数が増加することがある。

血液中の好中球数が増加し得る病態を表1にまとめる。

表1:血液中の好中球数が増加する病態
感染症 薬物(副腎皮質ホルモン、G-CSFなど)の投与
組織破壊 悪性腫瘍
白血病 心筋梗塞
骨髄増殖性疾患 無顆粒球症の回復期

 

好中球数が1500/μL以下に低下した場合には、感染に対して脆弱となる。このような好中球減少症の中で薬物の副作用による骨髄機能障害は深刻である。とくに好中球の減少の程度が高度あるいは好中球がまったくみられなくなった状態を無顆粒球症と呼ぶ。

好中球の減少の原因を表2にまとめる。

表2:好中球減少の原因
薬剤(抗生剤、解熱剤、抗甲状腺剤、抗がん剤、抗痙攣剤など) 再生不良性貧血
ウイルス感染症 悪性貧血
肝硬変 多発性骨髄腫
脾機能亢進症 敗血症
放射線照射 膠原病
癌の骨髄転移 腸チフス
骨髄異形性症候群 甲状腺機能低下症
骨髄繊維症  

 

b. リンパ球
リンパ球は好中球に次いで数の多い白血球である。白血球の10〜40%を占めるリンパ球は免疫を担当する。

リンパ球が免疫獲得に関与する機序を簡単にまとめる。リンパ球はTリンパ球とBリンパ球の2種類に分けられる。細菌を含む異物(抗原)が体内に侵入すると、後に述べるマクロファージが抗原を取り込み、この情報が胸腺でつくられるTリンパ球と骨髄でつくられるBリンパ球に伝達される。情報が伝わると、Bリンパ球は抗体をつくる抗体産生細胞(形質細胞)に分化し、抗体が盛んに産生されるようになる。この反応は、Tリンパ球のうちのヘルパーT細胞(促進作用)とサプレッサーT細胞(抑制作用)の働きによって、促進されたり、抑制されたりして調節される。

リンパ球数が4000/μL以上となった場合にはリンパ球が増加したとみなす。リンパ球は、諸急性感染症および急性中毒症の回復期に増加する他、百日咳、結核、腺熱、水痘症(後期)でも増加する。また、急性および慢性リンパ性白血病、白血性リンパ肉腫、原発性マクログロブリン血症ではリンパ球が腫瘍性に増加する。

一方、リンパ球数が1500/μL以下に低下した場合には、リンパ球が減少したとみなす。急性感染症の初期、悪性リンパ腫や結核によりリンパ組織が破壊された場合、全身性エリテマトーデス、先天性免疫不全症候群やAIDSなどの免疫不全の際にリンパ球減少症が生じる。

c. 好酸球
好酸球は好中球と同様に遊走作用と貪食作用があるが、通常の細菌に対しては反応しない。

好酸球数が400/μL(5%)以上となった場合に、好酸球数が増加したとする。好酸球の増加はアレルギー疾患(気管支喘息を含む)、薬疹、寄生虫疾患、急性感染症の回復期、乾癬や疱疹状皮膚炎などの皮膚疾患、肺性好酸球増多症、結節性多発性動脈炎などの疾患でみられる。一方、好酸球の減少は急性炎症やストレス、副腎皮質ステロイドの投与によって生じる。

透析患者では透析時に血液が透析膜や血液回路に反復して触れる。ダイアライザーや血液回路がエチレンオキサイドガスによって消毒されている場合には、エチレンオキサイドに対するアレルギー反応として好酸球が増加する場合がある。

d. 単球
単球数が800/μL(10%)以上の場合に単球が増加したとする。

単球には強力な細菌貧食作用がある。単球は大食細胞(マクロファージ)とも呼ばれる。しかし、単球は通常の細菌感染では動員されない。結核や亜急性細菌性心内膜炎などの感染症,膠原病、血液疾患で単球の増加のみられることがある。伝染性単核球症は著明な単球の増加をともなう。

e. 好塩基球
50/μL以上の好塩基球の増加は慢性骨髄性白血病や真性多血症のような骨髄増殖性疾患にみられることが多く、まれに粘液水腫、痘瘡、水痘でもみられる。

 

 

3. 透析中に生じる一過性におこる著明な白血球減少

透析開始後15分ないし30分目にかけて一過性に血液中の好中球数が減少する(hemodialysis leukopenia)。この現象の詳細は別の項に記載する。

 

 

 

文献

1. Nakai S, et al: The Current State of Chronic Dialysis Treatment in Japan (as of December 31, 2000). Therapeutic Apheresis and Dialysis 7: 3-35, 2003.