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6.5  β2-ミクログロブリン吸着カラム

1.  β2-ミクログロブリン吸着療法

β2-ミクログロブリンを除去する手段には、ハイパフォーマンス膜を用いた血液透析、HF、off-line HDFon-line HDFpush/pull HDF以外にβ2-ミクログロブリン吸着カラムを用いた吸着療法がある。

 

 

2.  β2-ミクログロブリン吸着カラム

現在、市販されているβ2-ミクログロブリン吸着カラムはリクセル(株式会社カネカメディックス)のみである。リクセルには、容量が150 mLのカラム(S-15)、容量が250 mLのカラム(S-25)および容量が350 mLのカラム(S-35)がある。循環動態が安定している一般の透析患者には、S-25やS-35を使用し、透析中に血圧が低下する傾向のある患者や高齢者にはS-15を使用する。

リクセルを用いた吸着療法は、通常、血液透析と同時におこなわれる。図に示すように、ダイアライザの上流に直列にリクセルを設置し、β2-ミクログロブリンを吸着・除去する[1]。

 

 

3.  吸着の原理

様々な分子の中には、その表面に水と親和性がない部分(疎水性の部分)を有するものがある。このような疎水性の部分は水を避けて相互に接着する性質がある。リクセルにおけるβ2-ミクログロブリンの吸着はこの原理に基づいている。
リクセルのカラムの中には直径 460 μm 程度の均一な多孔質セルロースビーズが充填されている。セルロースビーズの表面にはヘキサデシル基が固定(結合)されており、そのため、セルロースビーズの表面は疎水性となっている。一方、リクセルに使用されている多孔質のセルロースビーズでは、孔のサイズが均一に調整されているため、孔径以上の大分子量蛋白(アルブミンなど)などは孔内に進入することができない。リクセルではセルロースビーズに付与されたこれら2つの特徴のため、すなわち孔径による分子ふるい効果と孔に入りこんだ疎水性部分を有する分子とヘキサデシル基との疎水性相互作用という2つの要素の組み合わせにより、セルロースビーズの孔径よりも小さな、かつ分子表面にある程度以上の疎水性部分を有する物質が選択的に吸着・除去される。したがってリクセルにはβ2-ミクログロブリンだけでなくサイトカインも吸着される。

 

 

4.  リクセルによるβ2-ミクログロブリンの吸着・除去

リクセル吸着療法における β2-ミクログロブリン・クリアランスは透析前血漿 β2-ミクログロブリン濃度、併用するダイアライザの性能、血流量、透析時間、リクセルカラムの容量の影響を受ける。ここで、リクセルカラムについてのみ考察すると、リクセルカラムの β2-ミクログロブリン・クリアランスは透析前 β2-ミクログロブリン濃度とカラムの容量に依存する。

これまでの報告によると、ハイパフォーマンス膜・ダイアライザの β2-ミクログロブリン・クリアランスがおおよそ45 mL/分であったのに対し、リクセル(S-15)の β2-ミクログロブリン・クリアランスは 28 mL/分、リクセル(S-25)のクリアランスは 44 mL/分、そしてリクセル(S-35)のクリアランスは 60 mL/分であった。

また、リクセルとダイアライザの組み合わせによるリクセル吸着療法の全体としての β2-ミクログロブリン・クリアランスは、リクセル(S-15)を用いた場合には 61 mL/分、リクセル(S-25)を用いた場合には 78 mL/分、そしてリクセル(S-35)を用いた場合には 84 mL/分であったと報告されている。これらの成績は、リクセル吸着療法における β2-ミクログロブリン吸着量が通常の血液透析における吸着量に比べてはるかに優れていることを示している[2,3]。

なお、リクセル(S-25)を用いた吸着療法における血漿 β2-ミクログロブリンの平均除去率は 71%(81例)であったとの報告がある。

 

 

5.  リクセルによるサイトカインの吸着・除去

大阪市大の武本[4]らは、サイトカインのうち、分子量が 30000 dalton 以下の IL-8、IL-1β、IL-1Ra、IL-6 がリクセルにより高率に吸着・除去されると報告している。なお武本らは、セルロースビーズ表面の孔のサイズに基づく分子ふるい効果のため、サイトカインの分子量が大きくなるに従って、吸着率は低下していくとも報告している。

 

 

6.  リクセル吸着療法の臨床効果

Abe ら[5]は、S-35を用いた1年にわたるリクセル療法により、血中 β2-ミクログロブリン濃度が有意に低下し、諸関節の痛み、夜間覚醒回数、日常生活動作(ADL:activities of daily living)、神経伝達速度、ピンチメーターにて評価したつまみ力などが改善したと報告している。

また、虎の門病院の原[6]は、過去4年にわたり骨嚢胞面積が拡大していた血液透析患者を2群に分け、一方の群では通常の血液透析を更に 4年続け、他方の群では血液透析にリクセル療法を併用した治療を 4年にわたり実施した。その結果、通常の血液透析を続けた群では、なお骨嚢胞の進展が認められたのに対し、血液透析にリクセル療法を併用した群では骨嚢胞の進展は抑制されたと報告している。

さらに、兵庫医科大学の倉賀野らは、2011年、透析アミロイドーシスにおける骨嚢胞と臨床症状について 1年間にわたる多施設共同研究を行い、リクセル療法の有効性を評価した(リクセル療法群 39名、通常透析群 28名)。彼らは、リクセル療法群では、単純X線写真上、手関節の骨嚢胞数とそれらの面積が有意に減少し、同療法群では透析アミロイドーシスに由来する臨床症状も軽快したと報告している。[7]

一方、on-line HDF療法では十分な治療効果が得られなかった患者に対してリクセル療法を併用したところ、筋肉痛、関節痛、発熱などの臨床症状が改善するとともに、炎症マーカー(CRP、IL-6、MMP-3)の顕著な低下が認められたとの報告がある[8]。on-line HDF療法にリクセル療法を併用したことにより、骨関節破壊を促進する物質である MMP-3 が低下したという事実は、リクセル療法の骨嚢胞進展抑制効果を示唆する。

このようになリクセル療法の臨床効果は β2-ミクログロブリンの除去だけによるものだけでなく、サイトカインの除去も関与している可能性がある。

実際、虎の門病院の原[9]は、リクセル治療によるサイトカイン濃度の低下は、リクセル療法の有効例で無効例におけるよりも著明であったと報告している。この報告は、リクセル療法による骨・関節痛の軽減は IL-1β の除去によるものである可能性を示している。

また、2012年、九州大学の中野らは、多発関節痛と間欠的な発熱がみられる長期透析患者(透析歴24年、64歳女性)に対してプレドニゾロンを投与するとともにリクセル療法を行い、これによりサイトカイン(IL-1β、IL-6、CRP)の血清濃度を正常化させた 。そして、その結果、ガリウムシンチにおける関節への異常なガリウム集積は減弱し、関節痛および発熱などの臨床症状も軽快したと報告している。[10]

 

 

7.  ガイドライン

「厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 アミロイドーシスに関する調査研究班」による『アミロイドーシス診療ガイドライン2010』は、リクセル療法の有用性を指摘しており、一方、社団法人日本透析医学会による『慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン』では、血液浄化療法を工夫すると同時にリクセル療法を用いれば、透析アミロイドーシスに関連する自他覚症状を軽減させることができると述べている。

 

 

8.  保険適応

以下のa)〜c)にあてはまる透析患者がリクセル療法の保険適応となる。

a. 手術又は生検により、β2-ミクログロブリンによるアミロイド沈着が確認されている。

b. 透析歴が10年以上であり、以前に手根管開放術を受けている。

c. 画像診断により骨嚢胞像が認められる。

ただし、リクセル療法は血液透析と併用しなければならず、また初回使用日を起算として1年間を上限とする。1クール1年の治療終了後は透析アミロイドーシスの病態に応じて、更に1年を限度とした治療が可能となる。3度目以降も同様の取り扱いとなる。また、再度の治療導入の際には、b)およびc)の要件を満たしていることを確認する必要がある。

 

 

 

文献

1. 下条文武、他:透析アミロイドーシスに対する直接血液環流型β2-M吸着器(BM-01)の臨床評価.  腎と透析  37: 749-756, 1994.

2. 下条文武、他(β2-m吸着除去療法懇話会): β2-ミクログロブリン吸着器リクセルS-15およびS-35の臨床検討(多施設共同研究) 日本透析医学会雑誌 36: 117-124, 2003.

3. 下条文武(β2-m吸着除去療法懇話会): β2-ミクログロブリン吸着器リクセルS-25の臨床検討―短期使用報告―(多施設共同研究) 日本透析医学会雑誌 41: 301-304, 2008.

4. 武本佳昭:血液浄化療法とサイトカイン. 透析フロンティア9(増刊号): 22-29, 1999.

5. T. Abe, et al.: Effect of β2- microglobulin adsorption column on dialysis-related amyloidosis. Kidney Int 64: 1522-1528, 2003.

6. 原茂子:透析アミロイドーシスの治療対策. 腎と骨代謝 14: 59-66, 2001.

7. T. Kuragano, et al.: Effectiveness of β2-Microglobulin Adsorption Column in Treating Dialysis-Related Amyloidosis: A Multicenter Study. Blood Purif.32: 317-322, 2011.

8. 福田美和、他:On−line HDFとリクセル療法を併用した顕著な透析アミロイド症の1例. 腎と透析(ハイパフォーマンスメンブレン'05 2005) 59(別冊): 30-33, 2005.

9. 原茂子:β2M吸着カラム併用療法---サイトカインの動態. 厚生労働省代謝系疾患調査研究班(平成9年度研究報告書)p.38-40

10. T. Nakano et al.: Fever associated with severe dialysis-related amyloidosis. CEN Case Rep, 2012