16.1 皮膚掻痒症
1. 透析患者の皮膚掻痒の原因 透析患者の皮膚掻痒の原因はなお明らかではない。おそらく、透析患者の皮膚掻痒の原因は単一ではないと考えられる。原因として、乾燥性皮膚、低分子量蛋白質領域の尿毒症物質の蓄積、血清カルシウム×リン積の上昇、高PTH血症、アレルギーなどが考えられている。
2. 皮膚掻痒の機序 皮膚掻痒は、表皮真皮境界部に存在する一次求心性ニューロンC線維の自由終末が、ヒスタミンをはじめとするメディエータによって刺激されることにより生ずる末梢性の掻痒と、内因性オピオイドペプチドがメディエータとなりオピオイド受容体と結合することで起こる中枢性の掻痒に大別される。 一次求心性ニューロンC線維の自由終末は表皮真皮境界部に存在し、これがメディエータによって刺激されて活性化すると、ここで起こった神経興奮はC線維を上行し、脊髄後角で二次求心性ニューロンに伝わる。二次求心性ニューロンに受け渡された神経興奮はさらに上行して大脳皮質の感覚野に伝達して皮膚掻痒として認識される。これが末梢性の掻痒である。 これに対し、二次求心性ニューロンが脊髄後角や脳幹内で刺激され、ここで発生した神経興奮が上行して大脳皮質の感覚野に伝達され、皮膚掻痒として認識される皮膚掻痒がある。これが中枢性の掻痒である。 二次求心性ニューロンには、μ受容体、δ受容体、κ受容体およびORL-1受容体の4種類の受容体が存在する。これらの受容体のうち、μ受容体が賦活化されると二次求心性ニューロンが刺激されて掻痒が生じる。これに対し、κ受容体が賦活化されると逆に二次求心性ニューロンが抑制されて掻痒が軽減する。
3. 透析患者における皮膚掻痒の機序 透析患者の皮膚掻痒には、ヒスタミン反応に特有の紅斑、膨疹、紅暈がみられない。さらに、透析患者ではμ受容体に結合して二次求心性ニューロンを刺激するオピオイドペプチドのひとつであるβエンドルフィンの血中濃度が高い。したがって、透析患者の皮膚掻痒の主たるものは中枢性の掻痒である可能性が高い。 一方、臨床的な観察によると、透析患者の皮膚掻痒には乾燥皮膚(掻痒性ドライスキン)を伴っているものが多い。皮膚が乾燥し、粗糙になると、一次求心性ニューロンC線維の自由終末が皮膚の表層まで伸長し、そのために軽度の刺激によっても容易に皮膚掻痒が生じるようになる。透析患者では皮膚表層の神経線維が増加していることから、透析患者の皮膚掻痒には乾燥皮膚による末梢性の掻痒も関与しているものと思われる。
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4.透析患者における皮膚掻痒の治療 a.
中枢性の掻痒に対する治療 b..
末梢性の掻痒に対する治療 血清カルシウム濃度と血清リン濃度の積が高い場合には、食事療法やリン吸着剤の投与により血清リン濃度を低下させ、以て血清カルシウム×リン積の低下を図る。重症の二次性副甲状腺機能亢進症が原因である可能性が疑われれば副甲状腺摘出術を検討する。しかし、二次性副甲状腺機能亢進症と皮膚掻痒との関係は、未だ明確ではないことは理解しておく必要がある。 皮膚掻痒の原因がアレルギーであるという説に関しては、アレルゲンとして血液回路を柔軟にするための可塑剤、ダイアライザーや血液回路を滅菌するためのエチレンオキサイドガス(EOG)などが考えられている。しかし、EOG滅菌以外の方法で滅菌したダイアライザや血液回路に変更して皮膚掻痒感が軽快する症例は少ない。 その他、皮膚掻痒症に対して、しばしばステロイド軟膏や抗ヒスタミン軟膏などの外用薬が用いられている。内服薬としては、ジフェンヒドラミン(薬)、クロールフェニラミン(薬)、クレマスチン(薬)、ヒドロキシジン(薬)、テルフェナジン(薬)、などの抗ヒスタミン薬や、ケトチフェン(薬)、メキタジン(薬)、オキサトミド(薬)、アゼラスチン(薬)などの抗アレルギー薬が用いられるが、効果は限定的である。副作用として、しばしば眠気が認められるので、とくに眠気の強い患者には就寝前に服用させる。 ハイパフォーマンス膜を使用した血液透析への変更により有意の数の症例で皮膚掻痒症が軽快する。HDFの施行により半数以上の患者で、皮膚掻痒症が軽快することが経験的に確認されている。このような低分子量蛋白質領域の尿毒症物質の除去により軽快する皮膚掻痒症に対して、患者はしばしば「体の内側からチクチク刺すような痒み」であると表現する。 HDFが有効であるのが末梢性の掻痒なのか、あるいは中枢性の掻痒なのかは不明である。
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■殺菌・保湿性製剤 ヘルスセイフ(G-PLAN)
■ナルフラフィン塩酸塩
■ジフェンヒドラミン
■クロールフェニラミン
■ミデカマイシン
■リトナビル
■シクロスポリン
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