透析百科 [保管庫]

4.19 エネルギー代謝の概観

生体内では、経口摂取した脂肪や糖分が燃料として利用され、エネルギーが産生される。様々な細胞は、このようにして産生されたエネルギーを消費してそれぞれの役割を果たす。しかし、それぞれの細胞が消費するエネルギーは、体内の特定の臓器でまとめて産生され、これがそれぞれの細胞に届けられるのではない。それぞれの細胞が消費するエネルギーは、それぞれの細胞内で産生される。

その際にエネルギー源となるのは、脂肪酸とブドウ糖である。経口摂取される脂肪(中性脂肪)のほとんどは脂肪酸とグリセリンの結合物であり、経口摂取される糖分の多くはブドウ糖が多数、結合してできているデンプンである。デンプンは腸管内でブドウ糖にまで分解されてから吸収され、脂肪は脂肪酸とグリセリンに分解されてから吸収される。吸収されたブドウ糖は、肝臓で再結合してグリコーゲンを形成し貯蔵される。一方、吸収された脂肪酸は脂肪細胞内で再びグリセリンと結合して中性脂肪を形成し貯蔵される。

それぞれの細胞は、腸管から吸収されたエネルギー産生のための燃料であるブドウ糖を直接にその中に取り込み、あるいは肝臓でグリコーゲンが分解することにより産生され、その後に血液中に放出されたブドウ糖を取り込んで利用する。また、それぞれの細胞は、脂肪細胞内の中性脂肪が分解して血液中に放出された脂肪酸、あるいは血液中で中性脂肪が分解して生じた脂肪酸を取り込み、ブドウ糖と同様にエネルギー源として利用する。

このように、それぞれの細胞が利用するエネルギー源にはブドウ糖と脂肪酸があるが、臓器によっていずれを主なエネルギー源として利用するかが決まっている。脳細胞は主にブドウ糖をエネルギー源として利用するのに対し、心筋細胞は主に脂肪酸をエネルギー源として利用する。一方、最大のエネルギー消費臓器のひとつである骨格筋はブドウ糖と脂肪酸のいずれもエネルギー源として利用する。ただし、骨格筋はブドウ糖と脂肪酸の両方が存在する場合にはブドウ糖を優先して利用する。

脳細胞、心筋細胞、肝細胞以外の細胞へのブドウ糖流入速度は、血液中のインシュリン濃度に依存する。これに対し、脳細胞、心筋細胞および肝細胞では、細胞内へのブドウ糖の流入は血液中のインシュリン濃度に依存しない。これらの細胞では、血液中のブドウ糖濃度に応じてブドウ糖が細胞内に流入して行く。したがって、糖尿病患者においてインシュリン製剤を過剰に投与すると、脳細胞、心筋細胞、肝細胞以外の細胞に流入するブドウ糖量が増大し、それにともなって血液中のブドウ糖濃度が低下する。その結果、血液中のブドウ糖濃度に応じて細胞内にブドウ糖が流入して行く脳細胞、心筋細胞および肝細胞の中、ブドウ糖を主なエネルギー源として利用する脳細胞は燃料不足に陥り、以って脳細胞の活動が低下する。これが糖尿病患者にときに見られる低血糖発作の症状発現メカニズムである。

細胞内に入ったブドウ糖は、細胞質内でアセチルCoAに変わったうえで、細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアに流入し、エネルギー産生の際の燃料として使用される。ブドウ糖が変化して生じたアセチルCoAのミトコンドリア内への移動には、とくにこれを運搬する物質は存在せず、自動的にミトコンドリア内に流入する。

一方、細胞外から細胞内への脂肪酸の移動は、ブドウ糖の移動がインシュリンを必要としたような他の物質の存在を必要とせず、血液中の脂肪酸の濃度に応じて受動的に流入する。しかし、細胞内に流入した脂肪酸が細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアに流入するには、脂肪酸と結合してこれをミトコンドリア内に運び入れる運搬物質(担体)であるL-カルニチンが必要である。

L-カルニチンは、肝臓と腎臓で産生されて血液中に放出され、またL-カルニチンを多く含む肉の摂取にともなって腸管から血液中に吸収される。血液中のL-カルニチンは、その濃度に応じて体細胞に流入する。細胞内に流入したL-カルニチンは、それぞれの細胞で脂肪酸と結合してアシルカルニチンとなり、ミトコンドリア内に移動して再び脂肪酸とL-カルニチンに分かれ、L-カルニチンのみがミトコンドリア外にでる。このようにして、L-カルニチンは脂肪酸をミトコンドリア内に運び入れる担体として働く。また、それぞれの細胞で脂肪酸とL-カルニチンが結合して形成されたアシルカルニチンの一部は、細胞外に出て、健常人では腎臓から排泄される。しかし、腎不全患者ではこれが体内に蓄積するので、アシルカルニチン/遊離カルニチン比は健常人におけるよりも上昇している。

そこで、L-カルニチンが欠乏すると、細胞内ではミトコンドリア外に脂肪酸が溢れることになる。ミトコンドリア外に蓄積した脂肪酸は、ADPにリンを結合させてATPを産生するミトコンドリアの内膜に存在する酵素の働きを阻害し、以って細胞のエネルギー産生を妨害する。そのため、L-カルニチンが著しく欠乏すると、脂肪酸を細胞の主なエネルギー源とする心臓では、心収縮力が低下し、あるいは不整脈が生じる。一方、脂肪酸とブドウ糖の両方をエネルギー源として利用する骨格筋では、筋力の低下や筋痙攣が生じる。