透析百科 [保管庫]

18.2  B型肝炎ウィルス(HBV)関連マーカー

B型肝炎のさまざまな病態を診断する際には、適切なHBV関連マーカーを選択しなければならない。その際に有用であると思われる知識を以下にまとめる。



1.HBs抗原
HBs抗原が血中に検出されること(HBs抗原が陽性であること)は、肝細胞にB型肝炎ウィルス(HBV)が存在することを示す。ごく微量のHBVの存在であっても、HBs抗原陽性として検出される。血中HBs抗原は、HBVの増殖がさかんな状態で高値を示し、増殖が衰えると低値となる。慢性肝炎から肝硬変に進展すると、血中HBs抗原量は低下することが多い。

2.HBs抗体
HBs抗体はHBs抗原に対する抗体であり、その一部がHBs抗原の中和抗体として感染防御能を示す。慢性B型肝炎が増悪するする際には、血中に多量に存在するHBs抗原と複合体を形成するためHBs抗体は検出されない。ところが、HBs抗原減少後は、HBs抗体が相対的に過剰となり、血中で検出されるようになる。

3.HBc抗原
血中のHBc抗原はHBs抗原に覆われているため、外被を処理して取り除いた後でなければ測定できない。そのため、日常臨床で測定されることはない。

4.HBc抗体
HBc抗原は、HBs抗原やHBe抗原に比べて免疫系を刺激し抗体を産生させる作用が極めて強い。したがって、ごく微量のHBVが存在していてもHBc抗体陽性となる。すなわち、HBc抗体の検出はHBVの感染の有無を知るのに極めて有用である。通常、HBVキャリアではHBc抗体量は非常に高値を示す。HBs抗原が陰性でHBs抗体は陽性であっても、HBc抗体陽性の場合には血中あるいは肝組織中にごく微量のHBVが存在しているとみなすべきである。

5.HBe抗原
HBVに感染した後、患者が無症候性のキャリアとなり時間が経過すると、HBVの遺伝子のプレコア領域に変異が起こる(セロコンバージョン:seroconversion)。そして、この時期に無症候性のキャリアには肝炎が生じる。この肝炎期には、遺伝子のプレコア領域に変異が起こる前のHBVとプレコア領域に変異が起こったHBVがいろいろな割合で混在する。遺伝子に変異が起こる前のHBVが「pre-C野生株HBV」であり、遺伝子に変異が起こったHBVが「pre-C変異株HBV」である。もちろん、初感染がpre-C野生株HBVの感染ではなく、pre-C変異株HBVの感染であることもある。
さて、pre-C野生株HBVが優位な症例においては、HBV産生と連動してHBe抗原が産生される。通常、pre-C野生株HBVはpre-C変異株HBVより増殖力が旺盛である。そこで、血中のHBe抗原量が多いという所見は、感染性が高いことを示しいる。pre-C変異株HBVがpre-C野生株HBVに取って代わるとHBe抗原は血中から消失する。

6.HBe抗体
HBe抗体は、肝細胞の破壊が起こっている状態では、HBc抗原およびHBe抗原に対する免疫応答の亢進を反映して常に産生されている。しかし、中等度以上のHBe抗原の存在下では、HBe抗原・HBe抗体免疫複合体の形成に使用されるため、HBe抗体は血中では検出されない。やがて、HBe抗原の分泌が低下するとHBe抗体は顕性化し、HBe抗体陽性となる。HBe抗体の産生は抗原刺激がなくなると早期より低下するので、HBe抗原が分泌されなくなるとHBe抗体は陰性化していく。



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