11.11 心胸郭比(CTR)とドライウエイト
1. 心胸郭比(CTR)と体内水分蓄積量
心胸郭比は体内水分蓄積量が多ければ増大し、少なければ低下する。すなわち、心胸郭比は体内水分量を反映する。透析患者における体内水分量の増大の原因には、ただ単に、食事量や飲水量が過剰であったために体内に水分が大量に蓄積した場合と、心不全に基づく心拍出量の減少を代償するために合目的に体内に水分が正常以上に蓄積した場合とがある。
2. 心機能が正常である場合の心胸郭比
心機能は正常であり、だた単に、食事量や飲水量が過剰であったために体内に水分が大量に蓄積した場合には、体内水分量の増大に伴って心拍出量が増大し、その結果血圧が上昇する。これは、血圧の決定要素が心拍出量と末梢循環抵抗値であることを考えると理解しやすい。過剰な水分蓄積以外に高血圧の原因となる要素がなく、単に食事量や飲水量が過剰であったために水分が大量に蓄積し、これが高血圧の原因となった場合には、透析中に除水を行ったり、ECUMを行うと、体水分量の減少にともなって血圧はしだいに正常のレベルにまで低下していく。すなわち、心不全がない透析患者で心胸郭比が大きな値を示している場合には、ドライウエイトを引き下げて心胸郭比を減少させるのが適切である。
3. 心機能が低下している場合の心胸郭比
心不全にともなう心拍出量の減少を防ぐために体内に水分が過剰に蓄積している場合には、体内水分量が増大していても心拍出量は正常あるいは正常以下である。したがって、このような場合には、体内への大量の水分蓄積にもかかわらず、血圧は上昇しない。これも、血圧の決定要素が心拍出量と末梢循環抵抗値であることを考えると理解しやすい。体内水分量の増大の原因が心不全にともなう心拍出量の減少を防ぐことである場合には、透析中に除水を行ったり、ECUMを行うと、体内水分量の減少にともなって血圧はしだいに低下していき、ついには透析やECUMを続行できないレベルにまで血圧が低下する。すなわち、心不全のために体内水分量が増大している場合には、体内水分量を健常人と同程度にまで低下させることはできない。すなわち、心不全患者では、たとえ心胸郭比が大きな値を示していたとしても、これを低下させるためにドライウエイトを引き下げることができないことが多い。
4. 透析前の心胸郭比と透析後の心胸郭比
胸部X線写真は透析前に撮影する場合と透析後に撮影する場合とがある。
透析中に著しい血圧低下が生じないような十分に緩徐な除水速度で、かつ著しい血圧低下が生じないようなレベルの透析後体重を目標に除水を行った場合には、透析の終了後に撮影した胸部X線写真の心胸郭比は、心不全の程度を反映する。すなわち、これが50%未満である場合には心機能はおおよそ正常であると考えてもよい。しかし、このような条件の透析後に計測した心胸郭比が50%以上である場合には、心胸郭比に応じた程度の心不全があるとみなすことができる。
透析前に胸部X線写真を撮影した場合には、増加した体内水分量にみあう分だけを、透析後の心胸郭比に上乗せした値の心胸郭比が得られる。例えば、体重が1 kg増加するごとに心胸郭比は約1.5%増大する。したがって、体重増加率がさほど大きくないにもかかわらず、透析前の心胸郭比が大きいなら、心不全が存在するか、あるいはドライウエイトの高すぎる設定が疑われる。一方、体重増加率が大きいにもかかわらず、透析前の心胸郭比がさほど大きくはないのなら、心不全の存在は否定的である。
5.
心胸郭比に基づくドライウエイトの設定
心機能が正常である限りにおいて、胸部X線写真を基に算出した心胸郭比は体内水分量を反映する。したがって、心機能が正常である患者で、心胸郭比が50%を越すようなら、明らかに溢水があると判断してもよいことになる。しかし、患者が高齢化し、透析療法が長期におよび、また糖尿病患者数が増加した現在においては、実際には重症度に違いはあってもほとんどの患者が心不全を合併している。したがって、単純に心胸郭比のみを基にしてドライウエイトを決定してはならない。