透析百科 [保管庫]

22.2  インスリンによる血糖コントロール

透析患者では、インスリンの半減期が延長しているので、長時間作用型のインスリンを投与してはならない。通常のインスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病;成人型糖尿病)を有する患者では、速効型インスリン(薬)、中間型インスリン(薬)あるいは速効型/中間型混合インスリン(二相型インスリン)(薬)を単独で、あるいは組み合わせて用いる。それぞれのインスリンの組み合わせのパターンや投与量は、透析による血糖値の変動パターンの修飾があり、また食欲、体調、運動量も日々異なるので、透析日と非透析日のそれぞれについて、低血糖を避けつつ、食前、食後における投与したインスリン製剤の血糖降下作用の発現の程度を考慮しながら決める。

患者の日常生活においてはインスリン投与回数は少ない方が好ましい。そこで、糖尿病を有するがインスリンや経口糖尿病薬を投与されていない高血糖の透析患者に、新たにインスリンを投与する場合には、6単位程度の少量の中間型インスリンを朝食前に投与し、血糖の推移を観察しつつ、1〜2週間おきに2〜4単位づつ増量していく。この場合、夕食前の血糖値が100〜140 mg/dlとなることを当面の血糖コントロールの目標とする。夕食前の血糖値がおおむね100〜140 mg/dlという目標を達成してもなお、早朝空腹時の血糖値が140 mg/dl以上の場合には、さらに夕食前に4単位程度の少量の中間型のインスリンの追加投与を行い、朝食前の血糖値が100〜140 mg/dlとなることを当面の目標に1〜2週間おきに2〜4単位づつインスリン投与量を増量していく。

この方法により、朝食前および夕食前の血糖値がおおむね100〜140 mg/dlにコントロールされたが、昼食前の血糖が140 mg/dl以上の高血糖を示すようであれば、朝食前に投与している中間型インスリンを同量の速効型/中間型混合インスリンに変更する。速効型インスリンと中間型インスリンの混合比は、昼食前および夕食前の血糖値の推移を基に決める。速効型/中間型混合インスリンの投与量については、昼食前および夕食前の血糖値を基に1〜2週間おきに2〜4単位づつ増量していく。一方、中間型インスリンの1日2回投与により、朝食前および夕食前の血糖値が100〜140 mg/dlにコントロールされている、昼間に透析を受けている患者が、昼食前の血糖、すなわち透析中の血糖が100 mg/dl以下となる場合には、透析中に50%ブドウ糖液を静注することにより乗り切る。

上記の治療により、朝食前、昼食前および夕食前の血糖値がおおむね100〜140 mg/dlにコントロールされたが、就寝前の血糖が160 mg/dl以上となるような場合には、夕食前に投与している中間型インスリンを同量の速効型/中間型混合インスリンに変更する。その後は、就寝前および翌朝食前の血糖値を基に1〜2週間おきに速効型/中間型混合インスリンの投与量を2〜4単位づつ増量していく。

以上の治療によっても朝食前、昼食前、夕食前あるいは就寝前の血糖値がコントロールできない場合(血糖値が100〜140 mg/dlの目標範囲から大きく外れている場合)には、速効型インスリンを1日3回(朝食前、昼食前および夕食前)ないし4回(朝食前、昼食前、夕食前および就寝前)投与する。それぞれの投与量は、透析患者では体内でのインスリンの分解が遅延していることを念頭に置きつつ、試行錯誤的に決める。

必要に応じて、速効型インスリンを朝食前および昼食前に投与すると共に、夕食前には速効型/中間型混合インスリンを投与するなどの工夫を行う。

なお、上記のインスリンによる血糖コントロールは、自己血糖測定器(装置)を用いて自分自身(あるいは家族)で血糖を測定することを前提としている。したがって、自己血糖測定ができない通院患者では、上記の方法による血糖コントロールは不可能である。

 


Tweet
シェア
このエントリーをはてなブックマークに追加