透析百科 [保管庫]

22.6  胃不全麻痺(gastroparesis)

低血糖と高血糖を繰り返す患者(ブリットル型糖尿病)では、ときにその原因が胃不全麻痺(gastroparesis)であることがある[1]。胃不全麻痺では、胃ぜん動の低下のため食物の胃内への滞留時間が延長し、摂取した食物の吸収が遅れる。食物の吸収が遅れると、投与したインスリンが血糖降下作用を示し始めても未だ食物が吸収されないので低血糖が生じ、その後、摂取した食物が遅れて吸収される頃には、投与したインスリンの作用がピークを過ぎているため高血糖となる。

胃不全麻痺は、糖尿病患者の40%にみられる。胃不全麻痺は、しばしば心窩部痛、悪心、嘔吐、腹部膨満感あるいは食欲不振などの消化器症状を伴う。早朝空腹時に胃内視鏡検査で前の晩に摂取した食物を胃内に認めれば、胃不全麻痺の存在は確実である。胃不全麻痺の診断は、教科書的にはシンチグラフィーあるいはMRIにより行うことになっているが、透析臨床の場ではこれは困難なように思える。現実的なのは、超音波エコー検査であると思われるが、超音波エコー検査は前庭部に限られるので診断精度はシンチグラフィーあるいはMRIよりも低い。これらの画像診断では、食直後に胃内容量を検査し、2ないし4時間後に再び同様な検査を行い、その結果を比較する。

胃不全麻痺の存在が確認できれば、エリスロマイシン(薬)あるいはメトクロプラミド(薬)を投与する。

エリスロマイシンについては、食物の胃内への食物の停滞が著しい透析患者に対しては、1回 250 mg を1日2回経口的に投与する。メトクロプラミドは第2選択薬としてエリスロマイシンの代わりに経静脈的に投与する。メトクロプラミドでは、ときに錐体外路系の副作用が認められる。

 

 

 

文献

1.Daniels ID, et al.: Blood glucose control in diabetics: II. Semin Dial 6: 394, 1993.

 


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