22.11 糖尿病性足病変の進展度に応じた治療
Wagnerの分類[1]による潰瘍の進展度に応じて治療法を選択する。
A.皮膚の全層にわたる潰瘍が認められるが、皮下組織にまでは達していない場合(Wagnerの分類1度) 潰瘍部に感染が生じている場合には、潰瘍を綿棒でぬぐい綿棒を培養に出す。最も頻度の高い原因菌は好気性のグラム陽性球菌なので、第1世代セフェム系抗生物質や広域ペニシリン製剤が使用される。
B.靱帯と筋肉にまで達する深い潰瘍が認められるが、骨にまでは波及しておらず、あるいは膿瘍を形成してはいない場合(Wagnerの分類2度) 潰瘍部を注意深く観察し、壊死組織が認められれば、これを除去する(デブリードメント)。 潰瘍部に感染が生じている場合には、潰瘍を綿棒でぬぐい綿棒を培養に出し、あるいはデブリードメントした場合には、除去組織を培養に出す。グラム陽性球菌が原因菌である場合もグラム陰性桿菌が原因菌である場合もある。感受性のある抗生物質を経口的にあるいは経静脈的に投与する。
C.蜂巣織炎、膿瘍あるいは骨髄炎を伴う深い潰瘍が認められる場合(Wagnerの分類3度) 感染が骨髄にまで波及すると病変は急速に悪化する。深い潰瘍が認められる場合には、潰瘍が骨まで達していないか確認する。潰瘍の底に骨が見える場合、ゾンデで骨が探り当てられる場合には骨髄炎を合併していると見なす。単純X線検査、CT、MRI、骨シンチグラフィーは骨髄炎の診断に有用である。ただし、初期には単純X線検査では変化が見られない。 治療のため入院させ、十分なデブリードメントを行う。デブリードメントした壊死組織や潰瘍の深部から採取した検体を培養に出す。感染の原因菌には、好気性のグラム陽性球菌、グラム陰性桿菌あるいは嫌気性菌があり、しばしばこれらの混合感染が認められる。 骨髄炎や発熱等の全身症状がある場合には、以下のような広域抗菌スペクトラムを有する抗生物質を経静脈的に投与する。この治療によっても潰瘍の治りが悪ければ、感染している骨の除去が必要となる。 2.第2世代セフェム系あるいは第3世代セフェム系抗生物質+塩酸クリンダマイシン 3.塩酸クリンダマイシン+アミノグリコシド系抗生物質あるいはニューキノロン系抗菌剤
D.限局性の壊疸を認める場合(Wagnerの分類4度)および広範な壊疸を認める場合(Wagnerの分類5度) 下肢切断の適応について外科医に相談する。
E.新しい治療 高圧酸素療法(虚血性の場合)[2]、局所のphenytoin療法[3]、潰瘍近くの電気刺激[4]が有効との文献がある。 また、最近、虚血性下肢の潰瘍あるいは壊疽の治療と予防に人工炭酸泉浴が有効との報告が数多くみられるようになった[5-9]。 なお、糖尿病性足病変に対する薬物療法および予防法については、別のページで述べる。
文献 1.O'Neal LW and Wagner FW.: The diabetic foot. Mosby, St Lois, 1983; p.274.2.Faglia E, et al.: Adjunctive systemic hyperbaric oxygen therapy in treatment of severe prevalently ischemic diabetic foot ulcers: A randomized study. Diabetes Care 19:1338-1343, 1996. 3.Muthukumarasamy MG, et al.: Topical phenytoin in diabetic foot ulcers. Diabetes Care 14: 909-911, 1991. 4.Baker LL, et al.: Effects of electrical stimulation on wound healing in patients with diabetic ulcers. Diabetes Care 20: 405-412, 1997. 5. 宮里千絵美:ASOに合併した下肢潰瘍に対する人工炭酸泉の効果. 第19回沖縄県人工透析研究会抄録, 2002. 6. 酒井 恵、他:ASOに対する当院の取り組み. 第9回静岡県中部地区透析看護談話会抄録, 2002. 7. 坂井直美、他:炭酸泉足浴「ASケア」の維持透析患者における下肢血流改善効果の検討. 第47回日本透析医学会総会抄録, 2002. 8. 黒丸千代子、他:高濃度炭酸浴を実施して. 第47回日本透析医学会総会抄録, 2002. 9. 加納智美、他:閉塞性動脈硬化症(ASO)透析患者のフットケア ------ 人工炭酸泉足浴を中心に------. 臨床透析. 18: 107-113, 2002.
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