22.5 食事療法と運動療法
糖尿病を有する透析患者の食事療法においては、蛋白質摂取量を糖尿病のない患者よりもやや少なめとし、脂質の摂取量を控えめにする。 日本透析医学会統計調査委員会によると、糖尿病を合併していない透析患者では死亡のリスクを最少にする「体重増加率が増大しないように飲水量を制限した場合のnPCR」が0.9 g/kg/日以上であるのに対し、糖尿病を有する透析患者ではこれは0.7〜1.3 g/kg/日である[1]。平均的な食事を摂っている場合、このnPCRに対応する量の蛋白質を摂取すると、糖尿病を合併していない透析患者ではカロリー摂取量[2]が26.9 kcal/kg/日以上となり、糖尿病を有する透析患者ではこれが25.3〜38.4 g/kg/日となる。なお、すでに述べたように、上記のnPCRの至適な範囲は、体重増加率が増大しないように飲水量を制限した場合のものである。ところが通常、蛋白摂取量に反映される食事摂取量が増えれば体重増加率も増大する。したがって、臨床的にnPCRと死亡のリスクの関係を利用しようとする場合、体重増加率が増大するに伴い死亡のリスクも増大するという事実も考慮しなければならない。これを考慮するなら、非糖尿病患者ではnPCRの至適な範囲に上限が存在し、また糖尿病患者ではnPCRの至適な範囲の上限は1.3g/kg/日よりも低いはずである。 なお、炭水化物摂取量が多く、かつ食後高血糖が著明な患者では、食後の血糖を降下させるためにアカルボース(薬)やボグリボース(薬)などのα-グルコシダーゼ阻害薬を用いる。α-グルコシダーゼ阻害薬は、腸管内で糖質をブドウ糖に分解する酵素であるα-グルコシダーゼの働きを阻害することにより、糖質の吸収を遅延させる。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用している患者が低血糖に陥った場合には、ショ糖(砂糖)ではなくブドウ糖を服用させる。ブドウ糖の服用量は1回10 gとする。 α-グルコシダーゼ阻害薬は腸管から吸収されないので、透析患者にも安心して投与できる薬剤である。 糖尿病を有する透析患者は、通常、虚血性心疾患を合併している。したがて、安易に血糖コントロールの手段に積極的な運動療法を加えるべきではない。
文献 1. 日本透析医学会統計調査委員会: わが国の慢性透析療法の現況 (2000年12月31日現在). pp.502-503, 日本透析医学会, 20012. 高井一郎、他:Urea kinetic modeling を用いた黄連解毒湯試験結果の解析ーー食思不振に対する黄連解毒湯の有効性の裏づけーー. 臨牀透析 12: 513-517, 1996.
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