22.17 人工炭酸泉浴療法
二酸化炭素が大量に溶解した微温水に、血流障害のために潰瘍や壊疽が生じた糖尿病患者の四肢(主に下肢)を浸す人工炭酸泉浴療法が報告されている。
1. 理論
水に溶解した分子状の二酸化炭素(分子状のCO2)は、皮膚から吸収され、皮膚の血管を拡張し、皮膚血流を増加させる。そこで、二酸化炭素が大量に溶解した微温水に、血流障害のために潰瘍や壊疽が生じた糖尿病患者の四肢(主に下肢)を浸す人工炭酸泉浴療法では、血流増加による潰瘍や壊疽の治癒と下肢切断の延期が期待できる。
二酸化炭素はヘモグロビンからの酸素の遊離を促進する。したがって、理論的には皮膚から炭酸ガスを吸収させると皮膚においてヘモグロビンからより多くの酸素が組織に供給され、もって血流障害による皮膚の潰瘍や壊疽を治癒させる方向に働くことになる。しかし、実際にこの機序が働いているのか否かは明らかではない。
2. 人工炭酸泉の種類
a. 微温水に炭酸塩と有機酸を加えて二酸化炭素を発生させる人工炭酸泉
炭酸塩と有機酸の混合物を水に溶かすと、炭酸塩と有機酸が速やかに反応して炭酸ガスが発生する。この現象を利用して人工炭酸泉を作製するための炭酸塩と有機酸の混合物が炭酸足温剤として市販されている(ASケア;旭化成クラレメディカル株式会社)。ASケアには、炭酸塩と有機酸に加えてジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが含まれており、二酸化炭素の発生と同時にジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが加水分解して次亜塩素酸(HOCl)が生成される。そのため、ASケアでは炭酸泉による足浴と同時に除菌と脱臭が行われる。
使用に際しては、水温35 ℃程度の足浴槽水に下肢をいれ、水10リットル当たり1袋(75g)のASケアを投入し、10〜20分程度足浴を行う。ASケアによる遊離炭酸濃度は、35〜37 ℃のお湯にASケアを1袋溶解した後、20分後においても1000 ppm以上であるとされている。
本剤を用いた人工炭酸泉浴療法において、ASOに合併した下肢潰瘍に対する有効性が報告されている[1-4]。
b. 二酸化炭素の発生源として炭酸ガスボンベを利用する人工炭酸泉
人工炭酸泉を作製するために、微温水にボンベから二酸化炭素を吹き込む装置が市販されている(「ケアキュアカーボ」および「カーボセラTM・ミニ」;いずれも三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社の販売)。使用に際しては、まず34〜37 ℃のお湯にボンベから二酸化炭素を吹き込み、1000 ppm程度の遊離炭酸濃度の人工炭酸泉を作製する。この炭酸泉に下肢をいれ、10〜15分程度足浴を行う。
ASOに合併した重症虚血性足病変の透析患者において、二酸化炭素源として二酸化炭素ボンベを利用する人工炭酸泉浴療法によって、34肢中、21肢の切断を避けることができたと報告されている[5]。
文献
1. 宮里千絵美:ASOに合併した下肢潰瘍に対する人工炭酸泉の効果. 第19回沖縄県人工透析研究会抄録, 2002.
2. 酒井 恵、他:ASOに対する当院の取り組み. 第9回静岡県中部地区透析看護談話会抄録, 2002.
3. 坂井直美、他:炭酸泉足浴「ASケア」の維持透析患者における下肢血流改善効果の検討. 第47回日本透析医学会総会抄録, 2002.
4. 黒丸千代子、他:高濃度炭酸浴を実施して. 第47回日本透析医学会総会抄録, 2002.
5. 加納智美、他:閉塞性動脈硬化症(ASO)透析患者のフットケア ------ 人工炭酸泉足浴を中心に------. 臨床透析. 18: 107-113, 2002.