透析百科 [保管庫]

22.4  経口血糖降下薬による血糖コントロール

経口血糖降下薬は、その作用機序に応じてインスリン分泌促進系、インスリン抵抗性改善系、食後高血糖改善系の3種類に分類される。

これらの経口血糖降下薬のうち、インスリン分泌促進系には、さらにスルホニル尿素薬(SU 薬)、速効型インスリン分泌促進薬、DPP-4阻害薬があり、一方、インスリン抵抗性改善系にはビグアナイド薬とチアゾリジン薬が、そして食後高血糖改善系には速効型インスリン分泌促進薬と α -グルコシダーゼ阻害薬(α -GI)がある

 

1. インスリン分泌促進系の経口血糖降下薬

 a. スルホニル尿素薬(SU薬)
膵β細胞膜上の受容体に結合し、インスリンの分泌を促進させる薬剤である。SU 薬は蛋白結合率が高く、透析では除去されない。また、SU 薬は肝臓で代謝されるが、その代謝物にも血糖降下作用があり、透析患者では活性代謝物の蓄積により低血糖がおこりやすい。このように、透析患者ではSU薬で一度低血糖が生じると遷延する傾向があり、そのため透析患者ではSU薬は禁忌とされている。しかし、Kidney Diseases Outcomes Quality Initiative(KDOQI)ガイドラインでは、SU 薬のうちグリクラジド(薬)だけは代謝物の活性が非常に弱いことから、これを推奨薬剤としている。

  グリクラジド
   グリミクロン錠40mg・20mg
     (大日本住友)
   グリクラジド錠40mg・20mg「NP」
     (ニプロ)
   ダイアグリコ錠40mg・20mg
     (東和)

 b. 速効型インスリン分泌促進薬
速効型インスリン分泌促進薬では、SU 薬よりもインスリン分泌促進効果が早く発現し、一方、血糖低下作用の持続は約 3 時間程度と短い。したがって、速効型インスリン分泌促進薬では SU 薬よりも低血糖が少ない。

速効型インスリン分泌促進薬には、ナテグリニド(薬)ミチグリニド(薬)レパグリニド(薬)がある。これらの薬剤のうちナテグリニドについては、腎臓排泄性の代謝産物に血糖降下作用があるため、透析患者では使用が禁忌となっている。一方、ミチグリニドについては、代謝産物に血糖降下作用がないため透析患者でも使用可能である。しかし、透析患者では血中半減期が延長しているため、ミチグリニドは1日あたり 7.5 mg ないし 15 mgの少量から開始しなければならない。レパグリニドは胆汁排泄型の薬剤であり、かつ代謝産物に血糖降下作用がないため、透析患者でも使用できる。

いずれの速効型インスリン分泌促進薬も食前 5分以内に服用する。

 

  ナテグリニド
   スターシス錠90mg・30mg
     (アステラス)
   ファスティック錠90・30
     (味の素)
   ナテグリニド錠90mg・30mg「マイラン」
     (マイラン)

 ミチグリニド
   グルファスト錠5mg・10mg
     (キッセイ)

 レパグリニド
   シュアポスト錠0.25mg
   シュアポスト錠0.5mg
     (大日本住友)

 c. DPP-4阻害薬
経口栄養摂取に伴い、小腸上部の K 細胞からは gastric inhibitory polypeptide(GIP)が、小腸下部の L 細胞からはglucagon-like peptide-1(GLP-1)が分泌される(GIPとGLP-1をインクレチンと総称する)。GIP、GLP-1のいずれも膵 β 細胞に作用してインスリンの分泌を促進するとされているが、実際の臨床試験では GLP-1のみに 2 型糖尿病患者でのインスリン分泌促進効果が認められた。そのため、臨床的には GLP-1に注目が集まっている。

GIP と GLP-1 は、dipeptidyl peptidase-?(DPP-4)の働きにより半減期 2 〜 3 分という短い時間で分解・不活化される。DPP-4 阻害薬は、この DPP-4 を選択的に阻害することにより GLP-1 の活性をより長い時間維持してインスリン分泌を促進し、かつグルカゴン分泌を抑制する。

このように、DPP-4 阻害薬は経口栄養摂取に伴う血糖値上昇のみを抑制するので、低血糖を来す可能性が少ない。また、DPP-4 阻害薬は血糖コントロール改善に際して体重増加をきたしにくいとも考えられている。

DPP-4 阻害薬のうち、アログリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチン、アナグリプチンは透析患者でも使用できるが、シタグリプチンは腎機能の低下に伴い、排泄が遅延し、血中濃度が上昇するため、透析患者では禁忌である。

DPP-4 阻害薬は食前あるいは食後のいずれに服用してもかまわない。

  (1)  アログリプチン(薬)は健常人では 1 日あたり 25mg を服用するが、透析患者で は 1日あたり 6.25mg に減量する。インスリンとの併用不可。

  (2)  ビルダグリプチン(薬)は、血中消失半減期が短時間で、尿中未変化体排泄率が 23 %と低いことから、透析患者でも使用可能である。ただし、重度の肝機能障害を合併している場合には禁忌となる。

  (3)  リナグリプチン(薬)は、胆汁排泄型の DPP-4 阻害薬で尿中未変化体排泄率が 1%未満である。そのため、透析患者においても投与量の調節は不要とされている。

  (4)  テネリグリプチン(薬)は尿中未変化体排泄率が約 20 %と低く、腎機能障害を有する場合でも使用可能である。インスリン、ビグアナイド、α -GI との併用不可。

  (5)  アナグリプチン(薬)は健常人では 1回 100 mg、1日 2 回服用する製剤であるが、透析患者では 1 回 100 mg 1日1回服用する。インスリンとの併用不可。

 アログリプチン
   ネシーナ錠6.25mg・12.5mg・25mg
     (武田)

 ビルダグリプチン
   
エクア錠50mg
     (ノバルティス)

  リナグリプチン
   
トラゼンタ錠5mg
     (ベーリンガー)

 ■テネリグリプチン
   テネリア錠20mg
     (田辺三菱)

 アナグリプチン
   スイニー錠100mg
     (三和化学)

2. インスリン抵抗性改善系の経口血糖降下薬

インスリン抵抗性改善系の経口血糖降下薬にはビグアナイド薬とチアゾリジン薬があるが、わが国では、ビグアナイド薬、チアゾリジン薬のいずれも透析患者では禁忌とされている。

 a. ビグアナイド薬
肝臓での糖新生の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリン感受性を高める作用を有している。副作用として重篤な乳酸アシドーシスがおこる危険があるため、透析患者を含めた腎機能障害患者では禁忌である。

 b. チアゾリジン薬
チアゾリジン薬は末梢組織でのインスリンの感受性を高め、肝臓での糖新生を抑制する。わが国では透析患者に対しては禁忌である。副作用として体液貯留作用があり、浮腫、貧血、心不全をきたすことがあるため、心不全の既往 がある患者にも禁忌となっている。

 

3. 食後高血糖改善系の経口血糖降下薬

食後高血糖改善系の経口血糖降下薬には、速効型インスリン分泌促進薬と α -グルコシダーゼ阻害薬がある。速効型インスリン分泌促進薬については、「1. インスリン分泌促進系の経口血糖降下薬」の項に記載したので、ここには記載しない。

 a. α -グルコシダーゼ阻害薬
炭水化物である砂糖などの二糖類は、消化管において α -グルコシダーゼによりブドウ糖などの単糖類に分解され、小腸粘膜より吸収される。 α -グルコシダーゼ阻害薬( α -GI)を服用すると、この分解酵素の作用が阻害され、糖の吸収が遅延し、食後の急激な血糖上昇が抑制される。さらに、糖の吸収が遅延するために摂取した栄養が小腸下部にまで達すると、小腸下部の L 細胞からの GLP-1 分泌が増加し、その結果 DPP-4 阻害薬との相乗効果が生じるようになると考えられている。
 α -GI は必ず食直前に服用する。食後に服用すると効果が大きく減弱する。他の経口血糖降下薬やインスリンとの併用が可能である。副作用として、放屁、腹部膨満感、下痢などの消化器症状がある。開腹手術歴のある例では、腸閉塞をおこすことがあり、注意を要する。また、低血糖の回復には砂糖ではなく、ブドウ糖を摂取することが必要となることにも注意が必要である。
 α -GI にはボグリボース、アカルボース、ミグリトールがある。

  (1) ボグリボース(薬) 血中に吸収されないため、透析患者でも常用量を服用してよい。

  (2) アカルボース(薬) 総投与量のわずか 2 %未満が吸収されるが、その代謝産物の血糖降下作用は非常に弱いため、透析患者でも常用量を服用してよい。

  (3) ミグリトール(薬) 小腸上部から吸収されるが、吸収されたミグリトールは代謝されずに未変化体のまま腎臓から排泄される。ミグリトールは血中では血糖降下作用はなく、透析で除去される。そこで、ミグリトールは透析患者では慎重投与となっている。

 

 ボグリボース
   ベイスン錠0.2・0.3
     (武田)
   ベイスロース錠0.2mg・0.3mg
     (陽進堂)
   ベスタミオン錠0.2・0.3
     (日新)

 ボグリボース
   グルコバイ錠50mg・100mg
     (富士フイルム)
   アカルボース錠50mg・100mg「タイヨー」
     (テバ)
   アカルボース錠50mg・100mg「BMD」
     (ビオメディクス)

 ミグリトール
   セイブル錠25mg・50mg・75mg
     (三和化学)
   
 

4. 経口血糖降下薬の使用法

透析患者において使用可能な経口血糖降下薬は、 α -GI 、速効型インスリン分泌促進薬のうちのミチグリニドとレパグリニド、および DPP-4 阻害薬のうちのアログリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチン、アナグリプチンである。現時点ではこの 3 つのそれぞれのカテゴリーに属する薬剤を単独で使用し、あるいは併用することになる。