透析百科 [保管庫]

9.7  透析低血圧の要因とその対策:心拍出量を低下させる要因

1.ドライウエイトが低すぎるための血液量の減少

設定したドライウエイトが低すぎる場合には、透析の後半に血液量が著しく減少する。これにともなって、交感神経の緊張度の増大では代償しきれないほどに心拍出量が低下し、血圧が下降し始める。一方、交感神経機能が極めて良好である場合には、血液量の減少が非常に高度であっても、交感神経緊張度の亢進により心拍出量の低下が代償され、血圧は最後まで維持される。しかし、代わりに、筋肉、皮膚、喉頭など、末梢の血流が著しく障害される。筋肉血流の減少により、透析後半から透析後にかけて筋肉の痙攣や強い倦怠感が生じ、喉頭血流の低下により嗄声が生じる。

 

 

2.plasma refilling rateが除水速度に追い付かないための血液量の減少

透析中には、除水速度よりも血管外から血管内への水分の移動速度(plasma refilling rate)の方が遅い[1]。そしてその差は、除水速度が速いほど、また血清アルブミン濃度が低いほど大きい。したがって、透析間の体重増加率が大きいため透析中の除水速度を速めに設定しなければならなかった場合や、著しい低アルブミン血症のある場合には、透析中に血液量が高度に減少し、これにともなって心拍出量が交感神経の代償能を超えるほどに低下して血圧は下降する。その際、交感神経による代償が不十分となる心拍出量のレベル(すなわち、交感神経による代償が不十分となる血液量のレベル)は、自律神経機能(自律神経失調の程度)によって決まる。そして、自律神経機能は日々変動するとは言うものの、特別のストレスなどがない限り、その変動幅は大きなものではない。したがって、血圧を頻回に測定しつつ、ヘモグロビン連続測定装置により血液量をモニターすることにより、個々の患者ごとに血圧が問題となるほどに低下した時点での血液量を試行錯誤的に決定することができる。透析中、血液量をモニターし、血液量がこのレベルに達する直前に除水速度を落とし、あるいは除水を停止すれば、透析中の血圧管理がいくらかやりやすくなる。

 

 

3.細静脈壁の緊張度の低下

血管内皮由来の一酸化窒素(NO)は細静脈壁の緊張度を低下させることが知られている。透析低血圧の認められる患者では、これが認められない患者よりも、透析後の血中NOレベルが高いと報告されている[2]。この報告は、透析低血圧の発生にNOが少なくとも一部は関与していることを示唆している。しかし、この現象の理解を透析低血圧の予防に生かす方法は、まだ報告されていない。

 

 

4.心不全の存在

心筋梗塞により心筋の多くの部分が壊死したとき、高血圧が長期間持続し、また長期にわたって水管理の極めて悪い状態が続いたとき、あるいはブラッドアクセスのシャント流量が著しく多い場合には、心不全を合併することがある。そして、高度の心不全は透析低血圧の要因となる。

理論的には、透析中に心筋収縮力を増強する薬剤(β刺激剤)を経静脈的に投与することにより、透析低血圧の発生を防ぐことができるはずである。しかし、このような治療は不整脈を誘発し、また長期的には心筋収縮力をさらに低下させる危険性を有している。したがって、このような治療の選択については十分に慎重でなければならない。

 

 

 

文献

1.柳瀬正憲、島津祥彦、中西義彦、泉 和雄:循環血液量モニタリングと血圧調節システム. 臨床透析 14: 953-961, 1998.

2.Yokokawa K, Mankus R, Saklayen MG, et al.: Increased nitric oxide production in patients with hypotension during hemodialysis. Ann Intern Med 123: 35-37, 1995.

 

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