5.4 異なる方法で測定した血清PTH濃度の解釈
1.インタクトPTHとC-PTH
分子量が約9,500のインタクトPTHは、流血中に分泌された後、まもなく肝臓で(健常人では肝臓と腎臓で)いくつかの断片に分割される。断片の中、まったく生物活性をもたないC末端断片は健常人では腎臓で分解され、いくらかの生物活性を有するN末端断片は骨で代謝される[1]。そこで、腎不全ではC末端断片の分解が遅れるので、C末端断片は体内に蓄積する。したがって、いわゆるC-PTHは、インタクトPTHの分泌量を正確には反映していないことになる[2]。
2.インタクトPTHの意義
最近は、インタクトPTH濃度の直接測定がスタンダードとなりつつあるように思える。インタクトPTHの分泌は血清カルシウム濃度の小さな変化にも影響されて変動する。ところが、間欠的に透析をおこなう維持透析患者では、体内環境が周期的に変化し、その変化のパターンも一定ではないと考えられる。そこで、血清カルシウム濃度の小さな変化にも鋭敏に反応するというインタクトPTHの特徴は、インタクトPTHのもつ問題点でもある。インタクトPTHの測定前に炭酸カルシウムや酢酸カルシウムを服用すると、副甲状腺機能が過小評価される可能性があることにも注意が必要である。
3.インタクトPTHの目標値
60pg/ml以上の血清インタクトPTH濃度は、数値的には副甲状腺機能亢進症の存在を示している。しかし腎不全では、骨が正常の代謝・回転を維持するのに健常人の2〜6倍のインタクトPTH濃度が必要である。そこで、インタクトPTH濃度が180pg/mlを越えるときに初めて、PTHの分泌抑制を図る必要性が生まれる。
4.高感度PTHの意義
高感度PTH(HS-PTH)測定では、測定されているのはPTHの中間部の濃度である。HS-PTHは、血清インタクトPTH濃度とよく相関し、かつインタクトPTHほどには血清カルシウム濃度に影響されない。そこで、好んでHS-PTHを採用する医師も多い。HS-PTHが20,000pg/ml以上をPTHの更なる分泌亢進の抑制を図る範囲と考える。
以下に、PTH濃度と副甲状腺機能との関係をまとめる[3]。
インタクトPTH | HS-PTH | |
絶対的機能低下 | ≦65 | ≦5,000 |
相対的機能低下 | 65< ≦ 180 | 5,000< ≦20,000 |
正常 | 180< ≦360 | 20,000< ≦40,000 |
機能亢進 | 360< | 40,000< |
文献
1. Martin JK, et al: The peripheral metabolism of parathyroid hormone. N Engl J Med 301: 1092, 1979.
2. 渡邊雄三、他:3種類のPTH測定系による透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の評価. 腎と透析 28: 503, 1990.
3. 秋澤忠男:平成6年度厚生科学研究腎不全医療研究事業研究報告書