5.19 シナカルセト
シナカルセト(薬)は、新しい機序による副甲状腺機能抑制薬である。 1. シナカルセトの作用 血清中のカルシウムイオンは、副甲状腺の細胞膜上に存在するカルシウム感知受容体(Ca感知受容体;Ca-sensing receptor)に結合することによりPTH の産生・分泌を抑制する。シナカルセトは、このカルシウム感知受容体に結合することにより、カルシウムイオンに対する受容体の感受性を増大させて、カルシウムイオンのPTH 産生・分泌抑制作用を増強する。 すなわち、シナカルセトが副甲状腺の細胞膜上に存在するカルシウム感知受容体に結合すると、受容体を構成する蛋白質の立体構造が変化し、これにともなって蛋白質のカルシウムイオンが結合する部位の構造も変化する(アロステリック効果)。その結果、カルシウム感知受容体とカルシウムイオンとの結合性は増大し、たとえカルシウム濃度が等しくてもPTH の産生・分泌はより強く抑制される。 |
■シナカルセト |
2. シナカルセトの投与法 a.投与条件 なお、血清アルブミン濃度が4.0 g/dL未満の場合には、実測の血清カルシウム濃度の代わりに、以下のPayneの式により補正した血清カルシウム濃度を用いる。 補正Ca濃度(mg/dL)=実測の血清Ca濃度(mg/dL) - 血清アルブミン濃度(g/dL)+4.0 b. 投与量 c. PTHの管理目標値
3. シナカルセトの副作用 シナカルセトには、低カルシウム血症とこれに関連する副作用および消化器系の副作用がある。 シナカルセトを投与した患者の約15%に低カルシウム血症がみられ、これに基づく症候として心電図上のQT延長、しびれ、痙攣、不整脈などの症状が認められる。生化学検査で低カルシウム血症が確認された場合には、カルシウム製剤や活性型ビタミンD製剤の投与を考える。また、必要に応じてシナカルセトを減量し、あるいはこれを中止する。 シナカルセトの投与にともなって約半数に悪心、嘔吐、胃不快感、腹部不快感、腹部膨満感、上腹部痛、便秘、下痢あるいは消化不良などの消化器系の副作用がみられる。これらの副作用に対しては、必要に応じてシナカルセトを減量し、あるいはこれを中止する。 その他、シナカルセトが原因であるのか否かは明らかでないが、シナカルセトを投与した患者に意識レベルの低下(0.2%)、一過性意識消失(頻度不明)、突然死(0.3%)が生じたとの報告がある。
4. 注意を要するシナカルセトとの併用薬 a.
シナカルセトの血中濃度を上昇させうる薬剤 アゾール系抗真菌剤(イトラコナゾールなど) 2) 以下の薬剤は、血漿蛋白質との結合においてシナカルセトと競合し、シナカルセトの血中濃度を上昇させる可能性がある。 ジギトキシン b.
シナカルセトが血中濃度を上昇させる薬剤 三環系抗うつ薬(塩酸アミトリプチリン、塩酸イミプラミンなど) c.
シナカルセトとの併用により血清カルシウム濃度の低下を促進する薬剤 カルシトニン
5. ビタミンD製剤との併用 シナカルセトと活性型ビタミンD製剤との併用法については、まだ確立されたものが報告されていない。一方、シナカルセトは有効ではあるが副作用も多い。 そこで、現時点で現実的な二次性副甲状腺機能亢進症の薬物療法は以下のようなものであろう。まず活性型ビタミンD製剤の投与により副甲状腺機能の抑制を試みる。その上で、活性型ビタミンD製剤だけでは透析前血清カルシウム濃度を10 mg/dL以下にコントロールしつつ、インタクトPTHのレベルを500 pg/mL以下に維持することはできないと判断したとき、1日1回、1回25 mgからシナカルセの投与を開始する。 ただし、この治療計画は専門家により承認されたものではない。今後、シナカルセトと活性型ビタミンD製剤との併用に関する専門家の報告を見逃さないように注意することが必要である。
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