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16.18  意識障害

1. 意識レベルの評価

現在、使用されている意識障害の評価法には、ジャパン・コーマ・スケール(Japan coma scale;JCS)とグラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow scale)がある。これらの評価法は、急性期の意識障害を対象としたものであり、慢性期の意識障害には使用できない。

a. Japan coma scale;JCS

JCSでは、覚醒(開眼)の様式により、まず意識障害を以下の3群に分けている。

I. 覚醒している

II. 刺激に応じて一時的に覚醒する

III.刺激しても覚醒しない

そして、上記のそれぞれの群をさらに3つに細分する。具体的には、I 群(覚醒している)を更に、

1. 見当識は保たれているが意識清明ではない

2. 見当識障害がある

3. 自分の名前・生年月日が言えない

の3つに細分する。

一方、II 群(刺激に応じて一時的に覚醒する)は、

1. 普通の呼びかけで開眼する

2. 大声で呼びかけたり、強く揺するなどで開眼する

3. 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼する

の3つに分ける。

そして、III 群(刺激しても覚醒しない」は、

1. 痛みに対して払いのけるなどの動作をする

2. 痛み刺激で手足を動かしたり、顔をしかめたりする

3. 痛み刺激に対し全く反応しない

の3つに細分する。

ジャパン・コーマ・スケールの表記法としては、I 群のそれぞれの細分化レベルを軽症の方から1、2、3と1桁の点数で表現し、II 群のそれぞれの細分化レベルは10、20、30と2桁の点数で表現する。そして、III 群のそれぞれの細分化レベルは100、200、300と3桁の点数で表現する。例えば、覚醒はしているが(I 群)、自分の名前・生年月日が言えない場合には「意識レベル3」と表現し、刺激すると覚醒し(II 群)、大声で呼びかけたり、強く揺すると開眼する場合には「意識レベル20」、刺激しても覚醒せず(III 群)、しかし、痛みに対して払いのけるなどの動作がみられる場合には「意識レベル100」と表現する。

その他、大分類と小分類をつないで表記する場合もある。この場合には、上記の「意識レベル3」を「I-3」、「意識レベル20」を「II-2」、「意識レベル100」を「III-1」と表示する。

このように、ジャパン・コーマ・スケールは、意識レベルを覚醒度によって3段階に分け、それぞれを更に3段階に細分することから、3-3-9度方式とも呼ばれる。

ジャパン・コーマ・スケールでは、意識レベルの表記の後に不穏状態や失禁などを示すアルファベットを付け加える。すなわち、不穏状態(restlessness)がある場合には意識レベルの後に「R」を付け加え、便・尿失禁(incontinence)があれば意識レベルの後にInc」を付け加える。例えば、刺激しても覚醒しないが、痛みの刺激で手足を動かしたり、顔をしかめたりする場合において、失禁がある場合には意識レベル200-Iと表し、自分の名前、生年月日が言えない状態であって、不穏状態にある場合には意識レベル3-Rと記載する。 

Japan coma scale;JCS

意識レベル

分類

刺激に対する反応

覚醒している

 

.あるいは?‐1

だいたい意識鮮明だが、今一つはっきりしない

2.あるいは?‐2

時・場所・人が分からない(失見当識)

3.あるいは?‐3

名前・生年月日が言えない

刺激で覚醒する

 

10.あるいは?‐1

普通の呼びかけで、容易に開眼する

20.あるいは?‐2

大きな声または体をゆさぶることにより開眼する

30.あるいは?‐3

痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する

刺激で覚醒しない

 

100.あるいは?‐1

払いのける動作をする

200.あるいは?‐2

少し手足を動かしたり、顔をしかめる

300.あるいは?‐3

痛み刺激にまったく反応しない

 

b. Glasgow scale

グラスゴー・コーマ・スケールは、国際的に用いられている意識 レベルの評価スケールである。この評価法では、意識を覚醒・認識・反応の基本的3要素から捉えるものであって、各種刺激に対する開眼反応(E)、言語による応答(V)、運動反応(M)のそれぞれの反応の程度に応じて点数を与え、これらの点数の合計(3点〜15点)で総合的に意識障害の程度を評価する。例えば、自分で開眼し、話はできるが会話にはならず、しかし指示に応じた動きができる場合には、4+4+6=14点となる。グラスゴー・コーマ・スケールでは、合計点数が低いほど重症である。そして、グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)が8点以下の場合は原則として気管挿管、あるいは気道確保の適応がある。但し、急性アルコール中毒のように速やかに意識の回復が見込める場合はこの限りではない。

 

Glasgow scale

 (1)開眼について

自分で開眼している

4点

話しかけて開眼する

痛み刺激で開眼する

まったく開眼しない

(2)対話について

正確な受け答えができる

話はできるが会話にならない

言葉は発するがムチャクチャ

言葉にならない音のみ

まったく音声をしない

(3)動作に関して

命令に応じた動きをする

刺激に対しはらいのける動作をする

逃避動作

刺激に対する屈曲運動(うでを曲げるなど)

刺激に対する伸展運動(うでを伸ばすなど)

まったく反応しない

 

 

 

 

2. 意識障害患者の処置

意識障害の患者をみたときに最も重要なのは診断をすることではなく、救命することである。意識障害の患者の救命処置は以下の手順でおこなう。

1)      名前を呼び、手を握る、口を開く、などの指示を与え、意識障害の有無を確認する。意識障害があると判断したら、痛み刺激により意識レベルを評価する。

2)      瞳孔所見・対光反射の有無を調べる。

3)      心拍の有無を頚動脈で確認する。頚動脈を触れない場合には、心肺蘇生をおこなう。

4)      呼吸状態を観察し、舌根沈下があれば下顎挙上、頭部後屈により気道確保をおこない、エアウェイの挿入、気管挿管の準備をする。

5)      口腔周囲を観察し、吐物の有無を調べる。意識障害下での嘔吐は、窒息や誤嚥性肺炎の原因となるので、吸引し昏睡体位をとらせる。すなわち、まず衣服をゆるめて、からだを横向きにする。次に、下側の腕を上に伸ばし、その上に横向きにした頭を乗せる。上側の手足の肘と膝は軽く曲げて床につけ、足は下側の足のふくらはぎに乗せておく。肘を曲げた側の手の甲を、顎の下にあてがわせる。横に向けた顔を少し反らせると、気道の開放もはかれる。

6)      血管確保と輸液、あわせて緊急採血をおこなう。

7)      外傷がある場合には、出血部位を確認し圧迫止血をおこなう。

8)      頭部外傷の有無を判断する。鼻出血、耳出血は頭蓋底骨折の可能性を示す。

9)      常に頚椎損傷の可能性を考え、ストレッチャーへの移動の際は、頚椎保護に留意する。その際、突然の体動や痙攣でベッドから転落する可能性があるので、柵のあるストレッチャーを使用する。

10)  薬物分析のために、血液・尿・吐物を保存する。

11)  発症時の状況を聴取する。

 


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