16.19 褥瘡(じょくそう)の分類
1. 原因
寝たきりの患者は常に同じ体勢を保つ。そのため、身体とベッドあるいは身体と床との接触部分では、長時間の圧迫のために微小循環が障害される。その結果、この部分では、組織の欠損・皮膚の潰瘍が生じる。そして、このような組織欠損・皮膚潰瘍を褥瘡と呼ぶ。しかし、褥瘡は、単にベッドあるいは床との接触部分で身体に外力が働くことだけによって生じるのではない。通常、その背景に加齢、低栄養、乾皮症などが存在する。
2. 好発部位
a. 仰臥位で生じる部位
肩甲骨部、肋骨角部、脊柱巨棘突起部、仙尾・仙腸部、踵骨部
b. 側臥位で生じる部位
側頭部、耳介、肩峰部、肩甲骨部、肋骨角部、腸骨稜部、大転子部、腓骨頭部、内・外踝部
c. 座位(車椅子の使用時など)で生じる部位
尾骨部、坐骨部
3. 褥瘡の評価分類
褥瘡の評価には、一般に日本褥瘡学会のDESIGN(デザイン)分類が使用される。DESIGN分類には、2002年版と2008年版がある。2002年版は、重症度分類用と経過評価用から構成されている。経過評価用では、詳細に治癒過程の流れが示され ている。一方、2008年版はDESIGN-Rとも呼ばれ、褥瘡経過が評価できるだけでなく、重症度も予測できるようになっている。
日本褥瘡学会は、褥瘡経過評価2002年版とDESIGN-R(2008年改訂版)とは併存しうるものであって、褥瘡以外の難治性潰瘍、たとえば 糖尿病性潰瘍 などの創評価には、DESIGN-Rよりも2002年版の方がより簡便かつ有用であるとしている。
a. DESIGN褥瘡重症度分類(2002年版)
各項目を軽度と重度に区分し、軽度をアルファベットの小文字(d.e.s.i.g.n)、重度を大文字(D.E.S.I.G.N)で表記することになっている。なお、表記用紙は日本褥瘡学会のホームページからプリントアウトすることができる。
1)Depth(深さ)
創内の一番深いところで判定し、真皮全層の損傷(真皮層と同等の肉芽組織が形成された場合も含める)までを d、皮下組織を越えた損傷をDとする。なお、壊死組織のために深さが判定できない場合も D と表記することになっている。
2)Exudate(滲出液)
ドレッシングの交換回数で判定する。ドレッシングを1日1回以下交換した場合を e 、ドレッシングを1日2回以上交換した場合をE とする。この場合、ドレッシング材料の種類は問わない。
3)Size(大きさ)
褥瘡の皮膚損傷部の長径(cm)と短径[長径と直交する最大径(cm)]を測定し、それぞれを掛け合わせて得られた数値で褥瘡の皮膚損傷部の大きさを表現する。具体的には、この数値が100未満の場合には s(小文字)、100以上の場合には S(大文字)とする。
4)Inflammation/Infection(炎症/感染)
局所感染の徴候のないものを i 、感染の徴候のあるものを I とする。
5)Granulation tissue(肉芽組織)
創傷治癒が進むと、良性肉芽組織の量が多くなる。そこで、良性肉芽の割合を測定し、これが 50% 以上の場合には g(小文字)、50%未満の場合には G(大文字)とする。ここで、創傷治癒が進むほど数値が大きくなっていることに注意する必要がある。なお、良性肉芽は病理学的所見を指しているのではなく、肉眼的所見(鮮紅色を呈する肉芽)を指している。
6)Necrotic tissue(壊死組織)
壊死組織なしを n 、ありを N とする。なお、壊死組織の種類は問わない。
7)Pocket(ポケット)
ポケットが存在しない場合は何も書かず、存在する場合のみ DESIGN の後に -P と記述する。たとえば、深さ、大きさ、壊死組織が重度であり、他が軽度で、かつポケットの存在する場合には、DeSigN-P と表記する。
b. DESIGN-R(2008年改訂版褥瘡経過評価用)
DESIGN 褥瘡重症度分類(2002年版)と同様に、各項目を軽度と重度に区分し、軽度をアルファベットの小文字(d.e.s.i.g.n)、重度を大文字(D.E.S.I.G.N)で表記する。2008年改訂版では、さらに各項目のアルファベットの後に重症度を示す点数を記載する。2008年改訂版の表記用紙も日本褥瘡学会のホームページからプリントアウトすることができる。
1) Depth(深さ)
創内の一番深い部分で評価する。改善にともなって創底が浅くなった場合には、浅くなった後の深さで評価する。区分の数は、0 から 5 に U を加えた 7段階である。ここで、U は判定不能を意味する英単語unstageableの頭文字である。
d0:皮膚損傷・発赤なし
d1:持続する発赤
d2:真皮までの損傷
D3:皮下組織までの損傷
D4:皮下組織を越える損傷
D5:関節腔,体腔に至る損傷
DU:深さ判定が不能
2) Exudate(滲出液)
e0:なし
e1:少量:毎日のドレッシング交換を要しない
e3:中等量:1日1回のドレッシング交換を要する
E6:多量:1日2回以上のドレッシング交換を要する
3) Size(大きさ)
皮膚損傷範囲の、長径と短径(長径と直交する最大径)を測定し(cm)、おのおのを掛け合わせた数値を基に 7段階に分類する。なお、大きさの目安として、円形の創をイメージし、s3 は直径 2cm未満、s6 は4cm、s8 は6cm、s9 は8cm、s12 は10cm以内、S15 は10cm 以上と考えると理解しやすい。
s0:皮膚損傷なし
s3:4未満
s6:4以上 16未満
s8:16以上 36未満
s9:36以上 64未満
s12:64以上 100未満
S15:100以上
4) Inflammation/Infection(炎症/感染)
創周辺の炎症あるいは創自体の感染をその程度に基づいて4段階に分類する。
i0:局所の炎症徴候なし
i1:局所の炎症徴候あり(創周囲の発赤,腫脹,熱感,疼痛)
I3:局所の明らかな感染徴候あり(炎症徴候,膿,悪臭など
I9:全身的影響あり(発熱など)
5) Granulation tissue(肉芽組織)
創面の肉芽組織をその量に基づいて6段階に分類する。
g0:治癒あるいは創が浅いため肉芽形成の評価ができない
g1:良性肉芽が創面の 90% 以上を占める
g3:良性肉芽が創面の 50% 以上 90% 未満を占める
G4:良性肉芽が、創面の 10% 以上 50% 未満を占める
G5:良性肉芽が、創面の 10% 未満を占める
G6:良性肉芽が全く形成されていない
6) Necrotic tissue(壊死組織)
壊死組織が混在している場合には、全体として多い方の壊死組織の性状に基づいて壊死組織を3段階に分類する。
n0:壊死組織なし
N3:柔らかい壊死組織あり
N6:硬く厚い密着した壊死組織あり
7) Pocket(ポケット)
ポケットの広さを計測する場合には、褥瘡潰瘍面とポケットを含めた外形を描き、その長径と短径(長径と直交する最大径)を測定し(cm)、おのおのを掛け合わせた数値から「褥瘡の大きさで測定した数値」を差し引いたものを、5 段階に分類する。
p0:ポケットなし
P6:4未満
P9:4以上16未満
P12:16以上36未満
P24:36以上
DESIGN-Rでは、評価結果を以下のように表記する。
表記例:d(もしくはD)△- e (もしくはE)△ s (もしくはS)△ i (もしくは I )△ g (もしくは G )△ n (もしくは N )△ p (もしくは P )△:◯◯
ここで、上記の記載例における△には各項目の点数(アルファベットの後に続く数字)を記入し、◯◯には深さ(dあるいはD)以外の6項目(滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケット)の点数の合計を記入する。そして、DESIGN-Rでは、創の重症度はこの深さ以外の6 項目の点数の合計(0〜66点)で示され、これが高得点であるほど褥瘡は重症であり、治療に伴って点数が減少すれば褥瘡は改善していると判断する。このように、DESIGN-Rでは深さの数値は重み値には関係しない。
なお、DESIGN-Rでは「D」と「ESIGNP」の間に「-(ハイフン)」を入れることで、2002年版DESIGN褥瘡経過評価用と区別する。表の最下段に部位の項目(仙骨部、坐骨部、大転子部、踵骨部、その他)を設け、該当する部位を記入する。(詳細は褥瘡会誌第10巻4号)
4. 褥瘡の進行度による分類
褥瘡の進行度に関するNPUAP病期(ステージ)分類を示す。
?度 | 傷害が表皮にとどまっている状態。局所の発赤(紅斑)、表皮剥離(びらん)である。 |
?度 | 傷害が真皮に及び、真皮までの皮膚欠損(=皮膚潰瘍)が生じている状態。水疱が形成されることもあり、壊死組織の付着や細菌感染が生じやすい。 |
?度 | 皮下組織に達する欠損が生じている状態。 |
?度 | 筋肉や骨まで損傷された状態。骨が壊死して腐骨(ふこつ)となったり、骨髄炎や敗血症を併発することもある。 |