16.15 甲状腺機能低下症
1. 分類 a.
原発性甲状腺機能低下症と中枢性甲状腺機能低下症 b.
消耗性疾患や慢性腎不全にみられる低甲状腺ホルモン血症 なお、透析患者の5.4%には原発性甲状腺機能低下症がみられる。この比率はコントロール患者における頻度である0.7%に比べて十分に高い比率である。
2. 甲状腺ホルモン a. 種類 b.
結合蛋白 血清蛋白に結合していない遊離型サイロキシン(フリーT4あるいはFT4)は総T4の約0.03%であり、血清蛋白に結合していない遊離型トリヨードサイロニン(フリーT3あるいはFT3)は総T3の約0.3%である。 c.
生理活性
3. 甲状腺ホルモンの血中濃度の調整
4. 甲状腺機能低下症の原因 a. 原発性甲状腺機能低下症
b.
中枢性甲状腺機能低下症
5. 診断 a. 症状 通常、甲状腺ホルモンの欠乏症状には特異性がなく、倦怠感、脱力感、寒がり、顔の腫れなどが主訴になる。そして、本人も「歳のせいだろう」と思い来院しないことが多い。便秘はよく見られる消化器症状である。特異性がないので、臨床症状から甲状腺機能低下症の診断を下すのは困難である。 b.
検査所見
甲状腺機能低下症では、癌の血清中マーカーと考えられているCEA、 CA125、CA15-3がしばしば増加する。
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6. 甲状腺機能低下症の治療 ヨードには強い甲状腺抑制作用がある。したがって、ヨードを多く含んだ食べ物(海藻類やそれから取っただし)や、うがい薬(イソジンガーグル)などで知らず知らずに沢山のヨードを摂取すると、予め甲状腺ホルモンの分泌予備能が低下している慢性甲状腺炎では、容易に機能低下症に陥る。したがって、甲状腺にまだ予備能がある場合、すなわち甲状腺が腫大している場合には、ヨード摂取を制限するだけでも甲状腺機能が回復することがある。 ヨードの過剰摂取が原因ではない大部分の甲状腺機能低下症では補充療法として甲状腺ホルモン剤を内服させる。T3は肝臓や腎臓においてT4から変換され、また脳内に移行できるのはT4だけなので、甲状腺ホルモン剤としては合成T4剤であるレボチロキシンナトリウム(薬)を服用させる。具体的には、レボチロキシンナトリウム25μgを1日1回内服させ、2〜4週間ごとに漸増して徐々にTSHを正常レベルまで下げる。急速に甲状腺ホルモンレベルを正常化すると心臓に負荷がかかり、狭心症発作や心筋梗塞を起こす可能性がある。 定期的な甲状腺機能検査でTSHが高値であればレボチロキシンナトリウムの服用量を増やし、低値であればこれを減らす。
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■レボチロキシンナトリウム チラーヂンS
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7. 消耗性疾患や慢性腎不全にみられる低甲状腺ホルモン血症 消耗性疾患では、T4からT3への変換が抑制されてT3およびFT3が低値を示す。通常、T4およびFT4は正常範囲内にあるが、重症の場合にはT4さらにはFT4も軽度低下する。TSHは正常範囲内にあり、reverse T3は高値を示すことが多い。 このように甲状腺ホルモンの動態が変化する結果、生体のエネルギー需要は低下し、異化作用は低減する。この状態は甲状腺機能低下症ではなく、合目的な適応反応としての低T3血症(non-thyroidal illnessあるいはeuthyroid sick syndrome)である。したがって、甲状腺ホルモンの補充は不要である。 透析患者でも半数以上にこのような機序による低T3血症がみられる。ただし、透析患者では通常、消耗性疾患患者にみられるようなreverse T3の高値を認めない。透析患者のこの病態は、栄養障害や透析時のアミノ酸喪失などに対する防御反応と考えられ、臨床的に問題になることはない。 透析患者のこのような病態に対しても甲状腺ホルモンの補充療法は適応とはならない。このような病態に対するホルモン補充は異化亢進を助長するだけである。 |