透析百科 [保管庫]

16.20  褥瘡(じょくそう)の予防と治療

1. 褥瘡の予防

身体と支持面との接触局所の除・減圧のため、定期的に十分な体位変換を行う。2時間ごとが基本とされる。また、体圧分散寝具の使用は、褥瘡の予防に有効である。体圧分散寝具には、メディカルムートン(羊毛皮)・ウレタンフォーム(単独・複合)マット・エアマット(圧切換型・静止型)・ウォーターマット・高機能寝台(自動体位変換)などがある。

皮膚面の保湿と保清(清潔)、栄養管理 が重要である。入浴は創の有無を問わず推奨される。入浴が不可能な場合には、足浴だけでもおこなうようにする。

 

 

2. 褥瘡の治療

褥瘡治療の基本は、創傷および周辺における治癒環境の整備と、創傷治癒の促進である。

 

a. 創傷および周辺における治癒環境の整備

1) 創面と周辺の皮膚の保護
寝具との接触および圧迫・ずれから褥瘡を保護するように心がける。踵(かかと)や肘、仙骨部などは、コットンやふわふわしたウールのような柔らかい素材で保護する。最近、この目的で、硬さの違う2種類の発泡体から成る褥瘡保護用パッドが発売された(商品名;プロソフト、ニチバン株式会社)。

 

2) 湿潤環境の保持
表皮にびらんや潰瘍が生じた場合には、基本的な治療として創傷被覆材(ドレッシング材)を用いた湿潤療法 (moist wound healing)をおこなう。ただし、感染があったり壊死組織が認められる場合にはその管理を優先する。

被覆材は、以下に示すように、それぞれ独自の特徴を備えている。それぞれの特徴を理解した上で、創傷面に適切な湿潤環境が形成されるように滲出液の量など創傷面の状態に適したものを選択する。 

・ハイドロファイバー(商品名:アクアセル(コンバテック)
もっとも吸水性が高く、自重の25倍の水分を吸う。ゲルを形成するために皮膚に残留しにくく除去しやすい。深い創傷に充填して過剰な滲出液を吸収させる。 

・アルギン酸塩被覆材(商品名:カルトスタット(ブリストル・マイヤーズ)
自重の15〜20倍の水分を吸収する。カルシウムによる止血効果を有する。

・ポリウレタンフォーム(商品名:ハイドロサイト(スミス・アンド・ネフュー)
自重の10 〜14倍の水分を吸収する。クッション性がある。

・ハイドロポリマー(商品名:ティエール(ジョンソン・エンド・ジョンソン 株式会社)
自重の8倍の水分を吸収する。滲出液の方向に膨化していく。

・ハイドロジェル(商品名:グラニュゲル(コンバテック)
2〜3 倍創傷を湿潤させる被覆材である。ハイドロジェルには水分が多量に含まれており、これにより乾燥した壊死組織が軟化し、自己融解が促進される。ハイドロジェルは乾燥した創傷に使用する。

・ハイドロコロイド(商品名:デュオアクティブ(コンバテック)
創傷面に閉鎖性環境を形成する被覆材である。創傷面の滲出液により被覆材の親水性ポリマーがゲル状に変化して、創傷面が閉鎖される。そのため、創傷面の湿潤環境が維持される。しかし、滲出液が多量の場合にはゲルの漏れが生じるので、滲出液が多量の場合にはハイドロコロイドは適切な被覆材ではない。

 

3). 壊死組織除去
壊死組織や損傷組織(壊死した筋等の軟部組織や腐骨となった部分)は生体にとり異物であり、細菌感染を起こし易い。そこで、創傷治癒の障害となる壊死組織は速やかに除去するようにする(デブリードマン)。デブリードマンには外科的、化学的、生物学的、自己融解、物理的な方法がある。

・外科的デブリードマン
メスやハサミを用いて壊死組織等を切除する。外科的デブリードマンでは、壊死組織等を確実に切除することができるが、壊死組織と健常組織の分離が不十分な状態で無理に壊死組織を切除しようとすると、出血や疼痛を生じる。可能であれば、壊死組織が自己融解して周囲の組織から分離した段階で切除する。

・化学的デブリードマン
外科的デブリードマンが困難な場合におこなう。化学的デブリードマンでは、ブロメライン軟膏(持田製薬)などにより壊死組織を分解する。ブロメライン軟膏は、どろどろとした汚い黄色の壊死組織が肉芽の周囲に点在し浸出液も多い状態や、表皮、真皮が壊死に陥り、壊死組織が黒く乾燥した状態で使用する。創傷周囲の健常皮膚にブロメライン軟膏が付着すると、蛋白分解作用により出血、発赤を生じることがあるので、潰瘍面より小さ目のガーゼ、リントなどに薄く延ばして用いる。ゲーベンクリームと併用すると効果が無い。

・ 生物学的デブリードマン
外科的デブリトマンや化学的デブリドマンが困難な場合に施行する。無菌のウジに壊死組織を除去させるものである(マゴット療法)。

・ 自己融解(軟化による)デブリードマン
浅い創傷ではハイドロコロイドを用いて自己融解を促進させ、ポケットを形成している場合にはハイドロジェルを用いて自己融解を促進させる。

・ 物理的デブリードマン
薄い黄色の壊死組織や白苔に対して施行する。ピンセットや歯ブラシ、綿球やガーゼなどによるブラッシング、高圧洗浄、Wet to dry dressing 法などがある。

4). ポケット開放
創傷部にポケット が形成されると、ポケット内部は処置が及びにくく、壊死組織が残存しやすくなる。損傷部位がポケット状になっている場合には、可及的早期に皮膚切開(ポケット開放)や外科手術を行う。感染があり膿貯留が認められる場合は十分な排膿を行なう。
ポケットは開放するのが原則であるが、何らかの理由で開放できない場合には、洗浄などにより内部の壊死組織や不良肉芽を可能なかぎり除去する。(その後、後述するフィブラストスプレーを使用する)

 

5). 細菌感染予防
生理食塩水や水道水により創傷部を定期的に(毎日)洗浄する。創傷治癒を阻害する細菌、異物、壊死組織などを洗い流すことにより、感染制御と浸出液のコントロールが可能になる。洗浄に用いる生理食塩水や水道水は細胞分裂を促進させる温度である37℃前後に温め、適度な圧をかけて十分な量を用いる。再生してきた細胞を傷つけないよう、洗浄後の創傷面はこすってはならない。

消毒薬、特にポピドンヨードは再生した細胞を破壊するので、原則として使用しない。創傷に感染がある場合には消毒を行うこともあるが、この場合には消毒薬にはポビドンヨードやグルコン酸クロルヘキシジンなどを用いる。感染による発熱など、全身症状があれば、抗生物質の全身投与を行う。
 

表1 抗菌剤

商品名
(製薬メーカー)
 

素材  目的 特徴

ゲーベンクリーム
   (三菱東京)

銀化合物系殺菌剤 細菌感染の予防
刺激性が少ない。
滲出液が多い創傷には適さない。
蛋白分解酵素製剤(ブロメライン軟膏)と併用するとブロメライン軟膏の酵素活性が低下する。
 
 ユーパスタ軟膏
        (興和) 
ヨウ素系殺菌剤 
+ 
精製白糖
感染のコントロール 

砂糖による浸出液の吸収 

肉芽形成促進


浮腫を伴う創傷や滲出液の多い創傷に適している。
蛋白分解酵素製剤(ブロメライン軟膏)と併用するとブロメライン軟膏の酵素活性が低下する。
 

 

 

b. 肉芽および上皮の形成促進

肉芽組織は血管や線維芽細胞が豊富であるなど通常の真皮とは異なるが、組織欠損を補填して上皮化の足場を提供し、細菌防御機構となる。肉芽組織が形成されると、やがて創傷の辺縁や残存毛包から表皮が再生してくる。よく使用される肉芽形成促進・上皮化促進剤を表2にまとめる。

 

表2 肉芽形成促進・上皮化促進剤

商品名
(製薬メーカー)

素材  目的 特徴
 リフラップ軟膏
    (日本化薬) 
消炎酵素製剤   線維芽細胞増殖作用による
肉芽形成促進 
卵白アレルギーの患者には禁忌
 オルセノン軟膏
 (ワイスレダリー)
  血管新生作用による
肉芽形成促進作用 


肉芽形成促進作用は最も優れている
感染の危険が高い場合、ゲーベンクリームと等量混合して使用。
壊死組織や滲出液を吸収して汚い膿のように見えるが、洗浄後の創面がきれいなら引き続き使用
易出血性の肉芽(オルセノン肉芽)を形成した場合、ステロイド剤又はソルベース等の水溶性軟膏を短期間使用して肉芽組織を収縮させる
 

 アクトシン軟膏
   (第一製薬)
  cAMP剤  局所血流増加作用による
肉芽形成促進作用 
肉芽収縮効果

吸湿作用がある。
創傷面が乾燥しすぎないように注意

 プロスタンディン軟膏
   (小野)
 PGE2製剤 病変局所の循環障害改善作用
肉芽形成促進作用 


出血傾向の患者には出血傾向増加の恐れがある
抗血小板剤、血栓溶解剤、抗凝固剤等を使用している患者にも注意
 

 フィブラスト
       スプレー
 (科研)
  線維芽細胞増殖作用
血管新生作用
上皮化促進作用

創傷面に良性肉芽がみえはじめたところから上皮形成が完了するまで続ける。 

*リフラップ軟膏、アクトシン軟膏、プロスタンディン軟膏は、細顆粒状の肉芽組織が盛り上がるように増えた状態、および皮膚表面まで肉芽が増殖し、表皮細胞遊走してきて新たな上皮を形成しつつある状態(褥瘡としては、ほとんど治癒している状態)で使用する。

*オルセノン軟膏は、黄土色の深部壊死組織や不良肉芽が露出した状態、および細顆粒状の肉芽組織が盛り上がるように増えた状態で使用する

*フィブラストスプレーは、壊死組織を切除し、感染がコントロールされ、創傷面に細顆粒状の肉芽組織がみえはじめた頃から上皮形成が完了するまで続ける

 

なお、フィブラストスプレーの具体的な使用法は以下のとおりである。

1) 創傷部および周辺を洗浄し、水分を拭き取って清潔にする。

2) スプレーを約5cm離して1日1回 5噴霧する。創傷部が大きい場合には、創傷部の特定の部位のみに噴霧が集中しないよう、万遍なく噴霧する。

3) スプレー終了後は、30秒程度待ってから創傷部を非固着性ガーゼ、軟膏ガーゼあるいはフィルム材、被覆材などで覆う。ガーゼは創傷を乾燥させるので、滲出液が少ない創傷ではワセリン基材の軟膏やフィルム材と併用する。